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自分には想像できないものを創りたいインタビュー:版画家・小野耕石

2018 08 30

「PAT in Kyoto 第2回京都版画トリエンナーレ2016」大賞に輝いた気鋭の版画家・小野耕石へのインタビュー。次代を担うアーティストとして注目を集める彼は、シルクスクリーンの技術を探求して、何十回もインクを丹念に刷り重ねることで、見る角度によって印象が変わるという革新的な平面表現を確立している。近年は、版表現を立体作品にも展開し、異素材と組み合わせた新たな試みも。千葉県船橋市にある彼のアトリエを訪ね、創造の源に迫った。

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インタビュアー・撮影・編集:杉谷紗香(piknik)

小野耕石『Hundred Layers of Colors』シリーズより。
小野耕石『Hundred Layers of Colors』シリーズより。(メインビジュアルも同)

“壊すこと”で切り拓いた独創的な版画表現

小野耕石さんの代表作、『Hundred Layers of Colors』は、タイトルの通り、100層もの色の層でできた版画作品だ。離れて見ると抽象画のような、あいまいな色のグラデーションだが、近づくと、何万年もかけてできあがった地層のように、あるいは、極彩色の粘菌のように、無数のインクの突起物が平面にびっしりと立ち並んでいることに気付く。その瞬間、視覚を超えて“触覚的”な刺激が全身を駆けめぐる。

「ぞわぞわっ、と鳥肌が立つような表現を、版画でやってみたいと思ったのが、この『Hundred Layers of Colors』シリーズが生まれたきっかけです。1つの作品が完成するまでに少なくとも30回、多いときは100回以上も刷りを重ねて、インクを柱のように立ち上がらせます。できあがった色の層は、見る人の位置や目線の角度、動きによって、柱と柱、つまり、色の重なり方が異なるので、感じる印象もその都度、変化します。どこから撮っても印象が微妙に変わり、全容がつかみづらいので、カメラマン泣かせの作品と言われたこともあります(笑)」

小野耕石さん 写真
千葉県船橋市にある小野耕石さんのアトリエにて。

小野さんが主に作品に用いるシルクスクリーンの版は、たった1つだけ。しかも、2つの異なる角度の線が格子状に交差した、網目のような版だ。そのシンプルな版と、インク、紙の3つの組み合わせで、一点モノの作品を生み出しているのだそう。一体どうやって?

「制作では、1枚ずつ完成させるのではなく、10数枚を同時進行しています。1枚刷っては、乾燥台に置き、次の1枚を刷る。作品の表面は立体地図のように凸凹になっていて、現れている突起の形や場所は1枚ずつ違うので、同じ版で続けて刷っても、インクの乗る場所が違うんですね。刷る時の気温と湿度、インクごとの粘度の違いも仕上がりに関わってきますし、さらに刷りムラや版ズレなど、一般的には“失敗”とされることも、僕の作品では個体差につながっています。シルクスクリーンは本来、同じものを複製するために生まれた表現ですが、この技法を追求することで、1点ずつ違う、個別の作品を作ることができるんです」。

この表現手法を確立できたのは、「版画の“枠”を壊しながら創造してきたから」と小野さんは言う。
「このスタイルは、東京造形大学在学中から行っていました。一般的な版画表現って、『平面』で、『同じものを複製』して、『作品の大きさにも制限がある』んです。でも、僕が追求してきたのは、『立体的』で、『一点モノ』で、『組み合わせることで巨大化できる』という表現。大学で在籍していたのが版画コースではなく、“版表現”コースだったからこそ、枠にとらわれず、これまでの版画ではできなかった表現をやってみよう、と思えたのかもしれません」。

『Hundred Layers of Colors』シリーズの作品と、シルクスクリーン版 写真
『Hundred Layers of Colors』シリーズの作品と、シルクスクリーン版。
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