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空間現代+古舘健 展覧会「群れ」バンドとアーティスト/エンジニアによる共同制作インタビュー:空間現代、古舘健

2019 10 01

3. 人間性と非人間性の「あわい」

――続いて、ペンプロッター ※13 を用いた作品についてアイデアの解説をお願いします。

ペンプロッターが抽象的な線を筆記し続ける作品
ペンプロッターが抽象的な線を筆記し続ける作品。線は野口の書いた詞を原型としている。
「何か言葉を書いている」ということはわかるものの、抽象化され、ほとんど読解できない程度に崩れている。 なお一定時間で消えるインクが使用されているため、線は重ね書きされては消えていく。

(古谷野)
最初に、古舘さんからペンプロッターを使うというアイデアをいただきました。

(古舘)
僕は、いわゆる「ジェネラティブ・グラフィクス」、コンピューター・プログラミングを使って映像やグラフィックを作る、ということも普段の活動の中でしています。ルール、アルゴリズム ※14 を決めてあとはコンピューターに絵を描かせる、みたいなことは、Manfred Mohr ※15 のようなミニマリズム ※16 の作家たちが、そのオリジネーターとして知られています。彼らは製図に使われるようなペンプロッターを使ってアルゴリズムによって作られる幾何学的な図形を紙に描き出していました。画面上で見るのと違って、ペンで紙に描かれた図は、線の太さが一様ではなくちょっとかすれていたり、却ってすごく魅力的に思える。そんな理由で、いつか、ペンプロッターを使った作品は作ろうとは思っていたんです。
準結晶がキーワードとして出てきたときに、それをキーとして、僕の活動と空間現代との交差するポイントみたいなのが見えてきたと思ったんですよね。先ほどの作品の話で、空間現代について、ミニマル・ミュージックから高次元的に「逸脱」していく、という言い方をしたのですが、同じようにペンプロッターを使った過去作品を参照しつつ、高次元的に逸脱していけないか。そんなアイデアで今回ペンプロッターを使うことをみんなに提案しました。
僕は最初、「差異化の運動が反復性を完全に凌駕」という言葉を元に、繰り返されるミニマルなグラフィックスがその繰り返しを意識できないほどに変形していくようなものをイメージしてたんだけど、話し合う中で野口さんから「手紙を書くとか言葉を書かせるのはどうか」というアイデアが出てきました。

(古谷野)
ペンプロッターによって「文字を書くという行為だけが残っている」という状況を作り出すことができる。「文字にも見えるし図形にも見える」「そこに意味の痕跡がある」というような提示の仕方ができたらおもしろいなと思いました。

(野口)
先ほども話しましたが、今回「肉体がないという状況の中で何をするのか」がスタートラインとしてある。ミニマルアート的に無機的なものとして提示するのも良さそうだなと思ったんですが、一方で機械が書いているとはいえリアルタイムに言葉が書かれているというのはちょっとした肉体感というか、人間性...。

野口 順哉
野口 順哉

(古谷野)
人間性と非人間性の「あわい」みたいなものをどの作品にも共通して持たせることができたらというのは思っていました。

(古舘)
僕自身の作家性による部分もあると思っていますが、今回の展示は全体的にテクノロジカルな雰囲気になるとは思っていました。実際、映像とアルミフレームの機械で構成していますが、その中に「言葉」みたいな人間的なものが差し込まれる。それは、空間現代というバンドにおける歌の存在とすごくリンクする部分があるし、いいアイデアだと思いました。幾何学に、言葉のようなオーガニックなものが差し込まれる。逆にオーガニックなものに幾何学が乗り移ってくる。当初、考えていたものとはちょっと意味が変わってきてしまうけれども、むしろ、この方が空間現代的なのかもしれない。

(古谷野)
文字は10分~15分程度で消えていきます。

(野口)
実際的な話でいうと、「紙の処理をどうするか」という問題の解決策として消えるインクを選んだという経緯があります。重ね書きはおもしろいけれど、文字が重なり過ぎると読めなくなってしまう。誰かが定期的に新しい紙に差し替えなければならないけれど、ギャラリーに常駐できるわけじゃない。どうするかという話になった時に、時間が経つと消えるペンが売っていることに気付きました。

(古舘)
「消えてしまって残らない」というのは非常に音楽的ですよね。
あと今気付いたんですけど、ギャラリーで流れている曲 ※17 にはヴォーカルが入っていないんですよね。欠けているヴォーカルの代わりにペンプロッターの存在があると捉えてもけっこうおもしろいのかなと。

――聴覚的な要素の欠落を、視覚的な要素で補うというのはおもしろい関係性ですね。

(古舘)
あまりない見せ方かもしれないですね。本当に補えているかはわかりませんが(笑)。

(野口)
空間現代のキーワードとして「欠落」ということもあるかもしれません。重要なところがない。でもないからこそ想起されるものがある。そういうのは楽曲作りでもどこかしらキーワードとなっているかもしれない。

※13 ペンを使って紙に線を引くデバイス。且つては主に設計図面の出力などに広く用いられた。

※14 「ある問題状況において、正解を引き出すための一定の手続きまたは思考方法のこと。その通りに実行すれば必ず特定の結論に達するというもので、数学の公式やコンピュータのプログラミングはアルゴリズムの代表といえる。」(“アルゴリズム”. コトバンク.参照2019-09-01.)

※15 manfred mohr WEBサイト

※16 1960年代の半ばから、アメリカを中心に現象した還元主義的な傾向の美術作品を表わす総称。立方体や幾何学形などの形態の採用や色彩の統一的な処理、コンポジションの排除などの傾向を持つ。

※17 4章参照。

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