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KYOTO EXPERIMENT 2019|アミール・レザ・コヘスタニ/メヘル・シアター・グループ『Hearing』レヴュー聞くことの不確かさと世界の断片性文:金子智太郎(美学、聴覚文化研究)

2019 12 28

2. 声は聞こえたのか

サマネとネダはまず一人ずつ、何も置かれていない舞台に呼びだされる。二人はイランの民族衣装「チャドル」を着ている。彼女らに尋問する年上の女学生は観客席に座っていて、ほとんど姿が見えなかった。ネダは尋問に対してかたくなに男性のことを認めない。この事件の手がかりはサマネが男の声を聞いたらしいという第三者による告発だけで、他に証拠のようなものは何もない。サマネは男の声を聞いたと答えるが、かなり動揺した様子で、その言葉はどこか信用できない。

尋問を受けるサマネ。
尋問を受けるサマネ。

本作の前半は会話によるミステリーとして進んでいく。サマネの口から大晦日の状況や、彼女が聞いたのは男性の言葉ではなく笑い声だったこと、彼がどうやって女子寮に入ったのか、彼は誰なのか、なぜ誰だかわかるのかなどが次第に語られていく。ネダはサマネに誰がこの事件を告発したのか、サマネが誰かにこの話をしたのかを問いただす。物証がひとつもでてこない尋問を聞いていると、宙に浮いたようで落ち着かなかった。そのあいだに何度か同じような言葉がくり返され、自分の時間の感覚が狂っていくように感じた。

サマネはネダに二人で、外で話そうと言う。そして、ネダにヘッドマウントカメラをつけ、「私を見て」と言うと、舞台のスクリーンにサマネの映像が映る。二人が舞台裏に消えた後、スクリーンには暗い階段を降りていく主観映像が映る。不穏なグリッチ音が響く。これはネダの不安な心象風景なのだろうか。

舞台のスクリーンに映る、階段を降りるサマネの映像。
舞台のスクリーンに映る、階段を降りるサマネの映像。

映像が切りかわるとネダが暗がりで一枚の絵画の側に座っている。絵画にはチャドルを着た二人の女性の横姿が描かれている。二人は向きあい、ひとりが自分のフードに手をかける。サマネとネダは舞台に戻り、尋問が再開する。

再び舞台上から誰もいなくなった後、15年の月日が経過して年配になったサマネがあらわれる。彼女は事件とその後のことを振り返る。彼女の口からは、事件後に退学となったネダがスウェーデンに向かったこと、しかしスウェーデンへの亡命申請が却下され、ネダが自殺してしまったことなどが語られる。年配のサマネはネダの霊と対話する。サマネは許しを請うが、ネダは拒絶する。サマネは再び舞台の外に出て、スクリーンに彼女の主観映像が映る。彼女はもう一度あの絵画の前にたどり着く。最後に電子音と民族音楽をミックスした楽曲が流れる。冒頭からすべてはサマネの不確かな回想シーンだったのだろうか。

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