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グラデーションの犬と、チャーハンを食べるデブの鰯:前半インタビュー:Dr.ハインリッヒ

2020 04 14

「色が全体的にパープルで尻尾の方がグリーンのみょうがみたいな犬」といった、脳内に風変りで美しいビジュアルイメージが思い浮かぶ言葉を用いるなど、他のお笑い芸人と一線を画す漫才師 Dr.ハインリッヒ。AMeeTではDr.ハインリッヒへの17,000字超えのロング・インタビューを前後半に分けて掲載する。インタビューは様々なテーマを含みながらも、全編を通して「常識・規範からの逸脱」が軸となっており、自由について考えるうえでとても大事な言葉が詰まっている。前半では2人の漫才のスタイルとスピリットを紐解くうえで重要な幼少の頃のエピソードや当時考えていたこと、なぜ一般的なボケとツッコミという関係性ではないかなどのお話を詳しく伺った。

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インタビュアー・編集:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
取材撮影:麥生田兵吾
取材場所:cafe Cherish

1. お皿にお皿の絵を描く

――Dr.ハインリッヒの漫才の基本的なスタイルは、幸(みゆき)さんが発想の飛躍や想像力自体で笑いをとるということにあると思うんです。『ディアロークハインリッヒ12』 ※1 での、彩(あや)さんの言葉を借りるなら「ぶっとんだ発想」 ※2 で笑いをとると言い換えることもできかもしれません。そして彩さんは、一般的なツッコミのように、発想の飛躍を統制 ※3 するのではなく、設定自体は否定せずに進行し、時に発想の飛躍を被せます。ここ数年の単独ライブで披露しているようなDr.ハインリッヒのネタは、『忘れがたくも忘れがたい話』のように、「歩いていたら足が生えてるやかんに追いかけられる」とか、現実の風景の中に、現実を超越した、ぶっとんだものが出てくる設定のネタも多いと思います。この豊かな想像力は、生まれた時から備わっていたのでしょうか、あるいは何かきっかけがあって育まれたのでしょうか。

『忘れがたくも忘れがたい話』
2019年8月25日 Dr.ハインリッヒ単独ライブ「波動告知」 よしもと漫才劇場

(幸)
ネタを作るうえで、何かに強烈に影響を受けてるということはあまりないですね。ネタに関しては、私の思い付いたままの世界です。なぜ思い付いているのかは、自分でもあんまり分からない。

(彩)
めっちゃ本を読んでるとか、映画を知ってると思われることもあるけど、そんなことはないです。

(幸)
映画はジブリぐらいしか観ない(笑)。

――じゃあ先天的なもの?

(幸)
たぶんそうですね。

――一番身近で、幸さんを見てきた彩さんから、幼少期の幸さんを象徴するようなエピソードを聞かせていただけますか。

(彩)
保育園の時、お皿を作る時間があったんですよ。紙に絵を描いてそれをお皿にプリントするんですけど、みんなが好きな絵を書いている中、幸さんは「皿を作る」って言われたもんですから、渡された紙に皿の絵を描いてました。

――(笑)。

(彩)
家で使ってるサクランボの絵で縁取られた皿を描いてました。

――どうして皿に皿を書いたか覚えていますか。

(幸)
めっちゃ覚えてます。「お皿を作ります」と言われたから、紙にお皿を描いたんですよね。描きあがってみんなの方を見たら、みんな自動車とか似顔絵とかを書いてて。びっくりしたのを覚えてますね。

――本気で勘違いしていたんですね。

(幸)
そうそう。「なんでお皿を作るのに、みんなお皿を書かないんだ」と思ったのを覚えてます。

――そういう時、彩さんは「おもしろいな」と思っていたんですか。

(彩)
「そうか」っていう感じですね。

――(笑)。

(彩)
「そう言われたらそういうふうにもとれるね」と思っていました。あと、これは最近幸さんが教えてくれたんですけど、小学1年生の時、教室に集まっとかないといけない意味が分からなかったから、たまに教室から出ていってたらしいです。

(幸)
授業中に教室から出て行って、小学校の中にある池の鯉を見に行ったりしてました。「どうやら授業中は立ち上がって歩いて外に出たらあかんもんなんや」っていうのを、けっこう後から気付いたんですよ。小学1年生の時の担任がいい先生で、たまにふらっとおらんくなるだけで問題を起こすわけでもなかったですから、割と自由にさせてもらってました。

――元々他の人と常識の捉え方が違う部分があったんですね。

(幸)
ありましたね。小学3年生ぐらいまで自由でしたけど、でも怒られたりする中で「学校では教室の中でじっとしとかないかんのや」ということなんかを覚えていって、だんだんつまらんなりましたね。小学3年生の時に引っ越したっていうのも関係してるんですけど、ちょっと息苦しくなって、学校もあんまり好きちゃうし、友達もそんな多くないしみたいな状況が高校生くらいまで続きました。

左が彩さん、右が幸さん。
左が彩さん、右が幸さん。

※1 『ディアロークハインリッヒ』は、Dr.ハインリッヒによるトークイベント・シリーズ。2017年11月に行われた3回目以降はすべてYouTubeのDr.ハインリッヒチャンネルに記録が上がっている。

※2ディアロークハインリッヒ12』は2020年2月に道頓堀ZAZA POCKET’Sにて開催された。該当の発言は49分47秒あたりから。

※3 社会学者の太田省一は『社会は笑う ボケとツッコミの人間関係』(太田省一[2002].青弓社.)の中で、一般的な水準におけるボケとツッコミの関係性について「古典的漫才芸で、ボケ役の言動は既成の常識や慣習を踏みはずしたり、あるいはそれを無視したりすることによって、その矛盾や欺瞞を示唆するというかたちをとる。それに対してツッコミ役は、そのボケの言動の奇妙さやむちゃくちゃさを指摘して、現存する秩序の正当性を確認する。端的にいえば、ボケとは規範(きはん)からの逸脱であって、ツッコミとはそれを統制するものである。」(p.69より引用.)と述べている。

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