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3rdアルバム『さん』発売記念インタビューヒストリー・オブ・てあしくちびる 2014-2020インタビュー:てあしくちびる

2020 05 03

2017年8月 『ネオノルマ』完成

――次にサードアルバム収録曲の『ネオノルマ』がどういう経緯で完成したか伺えますか。

『ネオノルマ』

(SDE)
この曲を作り始めた時、「ノルマ」という言葉には2つの視点がありました。1つは労働者視点です。自分は2015年くらいからルート配送業の配達員をしています。配達の仕事と言いつつ、営業を取ってこなきゃいけなくて、月々の営業ノルマがある。もう1つはしがないバンドマン視点です。売れないバンドマンが出演するようなライブハウスには、チケットノルマ ※3 があるところも多い。元々はその2つの視点から「ノルマに追われる」ということを書いた労働の歌でした。手応えがあったのは「これが普通だと思っていたいと思っていた」というフレーズができた時です。仕事をする中で日々ノルマに追われている、でもどんな仕事にも辛さがある。俺はノルマを払い続けてライブに出る、でも俺はこれを信じて、これが楽しいと思ってやってる。自分が悩んだり苦しんだりしている状況を正当化することで、何とか持ちこたえる。そういうポジティブさもネガティブさも含んだもろもろの感情をこの一言で「ワッ」と言えたと思いました。
そういう視点で作り始めた曲なんですけど、「これが普通だと思っていたいと思っていた」っていうフレーズについて考えてみたら色んな解釈の仕方があるなって…。

(くっちー)
東日本大震災があったり、今現在も色々なことが起きてる。以前はそこまで考えずに生きてきたけど、いろいろ考えざるを得なくなって…。

(SDE)
このフレーズについてかみ砕いて考えてみたら、3つ目の解釈が加わった。望む望まないに関わらず世の中が変化していく中で、価値観をアップデートしなければいけない。「価値観のアップデートを怠ってはいけない」ということを「ノルマ」と解釈することができるって思ったんです。最終的に完成した時はどっちかというとそっちの意味合いが大きくなりました。

――このフレーズはメッセージとしてダイレクトな印象があると思うんです。例えば『ぺリ』 ※4 の「くっついたらはがすんだよ」というフレーズは、メッセージを持たせつつ、それがメッセージであると気付かない人もいる。ただの言葉遊びとして成立するような余白を持っています。だけど「これが普通だと思っていたいと思っていた」は、それがメッセージであるということがわかりやすい。

(SDE)
『ぺリ』とかと比べると、よりストレートに言いたいことをフレーズに込めることができました。

(くっちー)
「くっついたらはがすんだよ」は結果的に言葉遊びにも聞こえるけれど、banri君としては、当時から「自分はこういうことを考えてる」「他の人にもこうなんじゃないかということを伝えたい」という思いがあって…。「どうやったら伝わりやすくなるのか」「より伝わる言葉を歌詞にしよう」ということを日頃からすごく考えるようになって、変わってきたのかなと思います。

(SDE)
それはあるかもしれないですね。前回のインタビューでもそういう話が出た ※5 と思うんですけど、自分としてはすごく分かりやすく言ってるけど、他の人にとっては何を言いたいのか分からないというところを何とかしたいと思っていて。平易な言い回しの中に、色んな意味合いが込められているような歌詞を意識するようになってきているんだと思います。

地元の多々良沼公園(群馬県館林市)にてインタビューを受ける、くっちー(写真左)とSDE(写真右)。

※3 主には集客力のない出演者が出演するライブにおいて、ライブの主催者が最低限の収益の確保のため、出演者に課すチケットの販売ノルマ。チケットノルマが30枚で、その出演者が販売した枚数が10枚だった場合には、20枚のチケット代はその出演者が自腹で支払うことになる。

※4 『ペリ』はてあしくちびるの代表曲。ファーストアルバムに収録されている。

※5 中本真生 編集・インタビュー[2017].4. 意図と解釈."てあしくちびる インタビュー 2017, In the place to be 前半”.AMeeT.参照2020-04-09.

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