AMeeT
FEATURE

特集

「DOMANI・明日展 plus online 2020:〈前夜〉を生きる」に寄せて〈前夜〉としての実践例文:堤 拓也(キュレーター、グラフィックデザイナー)

2020 08 22

文化庁主催による初のオンライン企画展のレビュー。それぞれの作品への言及や、オンライン展示という仮想空間を実空間として考察してみるなど、キュレーターとデザイナーという2つの顔を持つ堤ならではの多面的な視点がうかがえる論考となっている。また、本展のテーマでもある「前夜」(本展のあいさつ文では「わたしたちは「災後」だけでなく次の「災前」を――災害と災害の「あいだ」を生きている」と述べられている)という概念へのグローバルな視点からの論及も見受けられる。

執筆者のプロフィールを読む

1: オンライン展示の背景・設定・条件

山本 篤《漂う者たちの会話》より
山本 篤《漂う者たちの会話》より

過剰なまでに脱身体化を推し進めようとする新自由主義経済/グローバル市場への対抗が、社会主義や共産主義、イスラム文化からでもなく、今度は生物と非生物のあいだにあるウイルスの存在によってなされたという中山智加子による指摘は興味深く ※1 、今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、フェルナン・ブローデルの「長期持続」とも成り得るかもしれない新たな要因として、われわれの文化活動を永きに渡って規定していくかもしれない ※2 。注目すべきは、新自由主義という雲に覆われつつも、微細に分割されていた文化的差異や、それを駆逐するための各種イデオロギーが、ひとまずコロナ禍という単一の傘の下に収まってしまったということである。これまで存在してきた芸術活動の背後にある思想上の前提——EU型民主主義やソ連型社会主義、中国特色社会主義といった種差を超えて、COVID-19が全世界の共通の文化的土壌となった。そのような芸術を実践する上での社会設定がようやく平均化した現況において、ここ美術界からのレスポンス、とりわけ活動継続維持のためのオンラインを駆使した戦略はおおよそ以下のように分類されるだろう。

A: オンライン展覧会/ヴァーチャル・3D型

例: 東京国立近代美術館「ピーター・ドイグ展」、Google Arts & Culture、ホテルアンテルーム京都 GALLERY9.5「SUBJECT/OBJECT」など

B: オンライン展覧会/ウェブメディア・インターネットアート型

例: 東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻「Alter-narratives ―ありえたかもしれない物語―」、京都dddギャラリー第225回企画展「コントラプンクト タイプ」、Chronus Art Center「We=Link: Ten Easy Pieces」、布施琳太郎「隔離式濃厚接触室」など

C: オンライン展覧会/インストラクション・サブスクリプション・メールアート型 ※3

例: ハンス・ウルリッヒ・オブリスト「do it」、プロジェクト・ル・ボスケ、オンライン映像祭「Films From Nowhere」、Gallery PARC「[m@p]meet @ post」など

以上を踏まえ、本稿のレビュー対象である「DOMANI・明日展 plus online 2020:〈前夜〉を生きる」は、Bではあるものの、Aをも志向するオンライン展示の例として分析することが有益だと思われる ※4

※1 中山智香子「グローバリゼーションと「危機」の経済的位相」(『現代思想』No.48–7、2020年5月)221ページ。

※2 アナール学派の第二世代であるフェルナン・ブローデルは、それまでの戦争史・政治史メインの単線的な歴史記述方法を乗り越えべく、我々の時間を3層構造(長期持続・複合状況・出来事)に分割し、それぞれの時空間の推移と、それらの複合的関連性の語りよって歴史学の更新を試みた。その中の「長期持続(la longue durée)」とは、始まりと終わりがあるものの、「近代世界システム」や「資本主義」というように、我々が住まう単一の世界を長きに渡って緩やかに規定する動作のことである。もしこういった感染症拡大が続くのであれば、新型コロナウイルス(あるいは他の感染症)も無意識的に我々の文化圏に浸食し、やがて長期持続ともなり得るだろう。Richard E. Lee, “Lessons of the Longue Durée: The Legacy of Fernand Braudel,” Historia Crítica, 69, 2018, 71. または以下を参照、フェルナン・ブローデル(金塚貞文訳)『歴史入門』(中公文庫、1995 年)13–17、187 ページ。

※3 広報や申し込み時においてインターネットを使用していることから、オンライン展覧会と分類している。

※4 本稿執筆中に公開された「タマビ バーチャル彫刻展」も「BではあるもののAを志向する展示例」として挙げることができるだろう。ただし、こちらについては約1.5GBの専用アプリケーションのダウンロードが必要なため、従来的なオンライン展示とはややレギュレーションが異なる。

PAGE TOP