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「作る」という行為に流れる時間を可視化する彫刻:後半インタビュー:花岡伸宏

2020 09 16

棒にシュロ縄で木材を巻きつけて固定した、粘土で人物像を作る際に用いる芯棒を拡大したような作品など、一見すると未完成に見える彫刻を通して「作る」という行為に流れる時間を可視化する彫刻家 花岡伸宏。近年の代表的な展示である『東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」』(二条城、2017年)、『六本木クロッシング2019』(森美術館、2019年)、『つくるということ』(大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]、2020年)にて行った試みについて順に掘り下げていくことで、主に2017~2020年にかけての重要な表現とその変化を記録する。なお本記事のために花岡氏に制作いただいた自刻像の写真を各ページの末尾に掲載する。

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インタビュアー・編集:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
自刻像制作・写真:花岡伸宏

表現の変遷――「記号」から「感覚」へ

――最新の展示『つくるということ』の話を伺う前に、2017年までの変遷を振り返っておきたいと思います。花岡さんは2009年の&ARTのインタビュー ※1 で「大学のときは吉田戦車、和田ラヂヲなどの、シュール系のギャグ漫画が好きだったんです。当時はそういったところから発想を得て、それを立体物にする、というふうに作業がマニュアル化されていたんです。」とおっしゃっていました。その言葉の通り2009年くらいまでは『ずれ落ちた左肩は飯に刺さる』とか不条理な笑いを誘うアイデアが多かった。「意味やつながりを把握できないものにすごくグッとくる」とか、飯というモチーフについて「モチーフが強い意味を持っているものなので、逆に崩しやすい」と語っていることからもわかるように、この頃は記号として対象を扱っていたように思います。

『ずれ落ちた左肩は飯に刺さる』作品写真
『ずれ落ちた左肩は飯に刺さる』
2009年 25×20×15 cm 樹脂、白飯、茶碗
撮影:丸山桂
『バネの引っ張り』作品写真
『バネの引っ張り』
2008年 140×190×45 cm 樹脂、バネ、木、机、他
撮影:表恒匡

2009年頃まではまだ素材というよりもイメージを扱ってるという感じでした。記号として扱っているっていうのはまさにその通りです。最初は作っていて楽しかったし、奇をてらったような作品を作ることもできました。でも「作る意味」を考えたとき、そうした作品を作ることが楽しいと思えなくなっていって…興味がなくなってしまった。

――この時のインタビューでは同時に、「人によっては僕の作品はコンセプチュアルに見えて、『すごく考えて作っているね』という感想を持つ人もいるので、もっと『感覚的に見せたい』というのは考えています。」ともおっしゃっており、この言葉の通り、ちょうど2009年前後から記号的に対象を扱うことが抑制され、それまでのユニークさやわかりやすさは影を潜めたように思います。記号として対象を扱うことの代わりに何を拠り所にするようになったかというと、重要なテーマとして「花岡さんとものとの個人的な関係」が挙げられます。花岡さんは2017年のAMeeTの対談 ※2 及びその事前取材で「最近では、日常の延長の行為として制作することを意識しています。なるべく作品と生活を切り離さないように、生活に浸透していくようなもの作りができればと考えています。」「素材としては自宅にある自分や家族の服、スタジオにある先輩が買ってきた漫画雑誌、スタジオに立てかけてある木材など、様々な身近にあるものを使う。その素材を採用するかどうかは、主にその素材が自分と信頼関係を結べているかどうかが前提としてある」とおっしゃっていましたね。

『無題(木、キャンバス、頭)』作品写真
『無題(木、キャンバス、頭)』
2014年 120×50×60 cm 木、キャンバス、アクリル絵具、油絵具、鉛筆

一番影響を受けたのは障害者支援施設で支援員として働きはじめたことです。周りの人からすると迷惑な行為をする入所者の方もいるのですが、本人にとってはその行為には意味があってすごく大事なことだったりする。福祉の仕事の中で、自分とは全く違うコミュニケーションのとり方や価値観をもっている人の日常に出会う経験をしました。そういう中で美術教育を受けてない方の作品、いわゆるアールブリュットを観る機会も多くなったのですが、その人たちの「作品を作る動機」にすごく影響を受けました。必然の中で制作しているということを強く感じたんです。それから自分の作品でも、自分の感覚やものを作る時のこだわりみたいなものをもっと探究し拡大していきたいと思うようになりました。

――花岡さんが自分の日常や自分にとっての必然を突き詰めていくことによって、鑑賞者にとって圧倒的に他者として存在する作品になっているような印象を受けます。「私と同じ」ということを主張していない。

共感は求めてないんですよね。それよりも「自分がやっていることを突き詰めていったらいつの間にか離れたところにいた」ということを目指しています。自分が作っていて楽しいからやってるというのもあるんですけど、そこからもうちょっと経験から得た感覚のようなものを活かして追究したいという気持ちはあります。

自刻像(木、キャンバス、アクリル絵具、油絵具、鉛筆、衣服)写真
自刻像(木、キャンバス、アクリル絵具、油絵具、鉛筆、衣服)写真
自刻像(木、キャンバス、アクリル絵具、油絵具、鉛筆、衣服)

※1 中本真生 編集[2009].“インタビュー|花岡伸宏”.&ART.2020-08-25参照.

※2 中本真生 編集・インタビュー[2017]."東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」:アーティストインタビュー前半 インタビュー:花岡伸宏、ヒョンギョン、ルー・ヤン”.AMeeT.参照2020-08-25.

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