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「作る」という行為に流れる時間を可視化する彫刻:後半インタビュー:花岡伸宏

2020 09 16

『つくるということ』での展示

『つくるということ』での展示風景 写真
『つくるということ』での展示風景。
撮影:麥生田兵吾

――最後に今年開催された『つくるということ』 ※3 にて試みようとしたことについて伺います。まずはじめに花岡さんにどのようなオファーがあったのでしょうか。

大阪の西成区を中心に地域密着型の芸術・文化事業を行っているブレーカープロジェクト ※4 から声をかけてもらいました。いきなり展示をするのではなく、「まず地域でのリサーチを行い、そしてそこで得たものや感じたことを作品にし展示してください」という内容でした。その後、2019年から約1年間リサーチをしました。

――リサーチの内容を教えていただけますか。

このようなリサーチ型のアートプロジェクトではどうしても地域の歴史や文脈をテーマにした展示やイベントが行われることが多いと思います。でも僕はどちらかというとそういったアプローチが苦手だったので地域という分類を取り除き、人間そのものを観察したいと思い、出会った人たちの生活に密着するようなリサーチを行うことにしました。僕のリサーチした地域は高齢者がたくさん住んでいて編み物をしている人が多かったのですが、ブレーカープロジェクトからそういった方を紹介してもらって自宅を訪問し、編んだものを見せてもらいました。仕事を引退して時間ができたのでものづくりに没頭している人や、単純に作ることが好きで手芸をやっている人と出会い、自分の制作のスタンスとそうした人たちのもの作りの在り方に共鳴するものを感じて、生活の中で行われているもの作りに着目したいと思いました。だから『つくるということ』というタイトルをつけたんです。もの作りの動機を探るようなリサーチになりました。

――どんな展示を目指したのでしょうか。

今までは自分の生活の中の、本当に個人的なことを追求してきたんですけれど、『つくるということ』ではそうした人たちを巻き込んで、一緒にもの作りができたらおもしろいと思いました。そうすることで自分がよい影響を受けることができるんじゃないかという期待もありました。また他者に介入してもらうことで敢えて自分の展示をかき乱すような要素を入れる試みがしたいという思いがありました。

――どのようにプロジェクトを進めていきましたか。

はじめにこのプロジェクトの説明をしたとき、日用品のように実用的なものではなく、用途のないものを作ってもらう方向で話をしました。必要性があって作るんじゃなくて、もっと編む行為そのものが見えてくるようなことをしたいと考えたんです。「僕の作った彫刻に編み物で何かしてもらえますか」「こういうものを包んだらどうですか」など、さりげなく提案をしてみました。そうした提案をすることでもの作りの本質のほうに目を向けてもらえるような…。

――用途があるものだけを作ってきた人の創作から、用途を剥ぎ落とした時に残る何かを見てみたかったということでしょうか。

普段用途があるものを作っている人のもの作りを、僕がやっているような制作に寄せた時にどういうものができるのか興味がありました。その人の個性を見たい、その人の癖を見つけたいっていう気持ちはあったかもしれないですね。そこからおもしろいものが出てきたらそれをピックアップしてそのまま展示したり、自分の作品と絡めて展示できないかなと考えたんです。

――最初に作ったのはどの作品でしょうか。

はじめは僕の作った手の木彫に合わせて手袋を作ってもらったんですよ。それをきっかけに手袋を作ってくれた松本さんというおばちゃんのものづくりのスイッチが入った感じはありました。僕の考えていることを何となく汲み取っていただき、更に松本さん独自のアレンジも加わり予想外のものが出来上がりました。編みの技術も素晴らしく、木彫の手袋の試作品を初めて見せて貰った瞬間に、自分の脳がゾクゾクっとしたのを覚えています。

『手』作品写真
『手』
2020年 25×10×28 cm 木材、毛糸、アクリル絵の具
制作協力:松本香壽子
『つくるということ』での展示 撮影:麥生田兵吾

――細長いタンスを毛糸のネットで包んだ作品がありましたが、あれも花岡さんからお願いして編んでもらったのでしょうか。

そうです。僕が「例えばこういうものを編めますか」と提案しました。ブレーカープロジェクトには作業場 ※5 があるのですが、毎週水曜日、そこに地域の方が集まるんですよ。そこで僕から色々提案したり、逆に皆さんからアドバイスをいただいたりもしました。搬入の時には現場で微調整してもらったりもしました。第三者のアイデアや作品を自分の展示に積極的に取り入れることで展示空間の鮮度を保てるような気がして、これも新たな試みだったように思います。

『編み物(タンス)』作品写真
『編み物(タンス)』
2020年 190×90×180 cm ミクストメディア
制作協力:松本香壽子、中田久江、須藤よし子、白木ありす、五月女侑希
『つくるということ』での展示 撮影:麥生田兵吾

――展示会場に入ってすぐ正面に展示していた『立像、編み物』は、『六本木クロッシング2019』 ※6 で展示した『無題(木材、衣服、シュロ縄)』をさらに展開した作品に見えました。

『無題(木材、衣服、シュロ縄)』作品写真
『無題(木材、衣服、シュロ縄)』
2019年 300×180×90 cm 木、鉄、衣服、シュロ縄、アクリル絵具、鉛筆
『六本木クロッシング2019』での展示
『立像、編み物』作品写真
『立像、編み物』
2020年 190×50×50 cm 木材、毛糸、シュロ縄、粘土、鉄
制作協力:須藤よし子、中田久江、松本香壽子
『つくるということ』での展示 撮影:麥生田兵吾

まず『無題(木材、衣服、シュロ縄)』を更に展開したいという構想がありました。「シュロ縄と毛糸のイメージが被ったのでそれを絡めてみたい」「自分のベースとする彫刻と、編み物という手法を使った他人によるもの作りを融合できたらいいな」と思い制作した作品です。

――シュロ縄の代わりに毛糸が用いられていたこと以外に、毛糸のうえからさらに粘土が被せられていたということも『無題(木材、衣服、シュロ縄)』との大きな違いでした。

新しいことをしたいという気持ちもあったんですけれど、サイズ感が小さかったので木材だけでは間が持たなかったという事情もありました。造形的な意味合いが強いですかね。

自刻像(木、アクリル絵具、鉛筆)
自刻像(木、アクリル絵具、鉛筆)

※3 大阪市現代芸術創造事業 Breaker Project 花岡伸宏『つくるということ』 大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]1F ルーム4 2020年2月20日(木)〜3月1日(日)

※4 ブレーカープロジェクトは大阪市が推進する文化事業として、2003年より始動。浪速区・新世界からスタートし、現在は西成区を拠点に継続して活動する地域密着型のアートプロジェクト。

※5 作業場は2015年に廃校になった今宮小学校の校庭の一角で、美術家のきむらとしろうじんじんらとともにスタートした活動。小学校に残る陶芸窯や倉庫、学習園、廃材など、あるものを活かして、地域内外の子どもから80歳代といった多世代の参加者と共に創造の場づくりに取り組んでいる。

※6 『六本木クロッシング2019展:つないでみる』 森美術館 2019年2月9日(土)~ 5月26日(日)

PROFILE プロフィール

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花岡伸宏 | HANAOKA Nobuhiro

1980年広島生まれ。京都在住。2006年 京都精華大学大学院芸術研究科博士前期課程修了。近年の主なグループ展に『東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」』(二条城、2017年)、『六本木クロッシング2019展:つないでみる』(森美術館、2019年)、『ユーモアと飛躍 そこにふれる』(岡崎市美術博物館、2013年)、主な個展に『つくるということ』(大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]、2020年)などがある。「第12回岡本太郎現代芸術賞展」特別賞(2009年)、「2006 JEANS FACTORY ART AWARD」優秀賞。

花岡伸宏 Official Site

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