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ドライブイン展覧会「類比の鏡/THE ANALOGICAL MIRRORS」レヴュー文:飯田志保子(キュレーター)

2020 12 02

京都と滋賀の県境にある比叡山の山中に位置する共同アトリエ「山中suplex」 にて、関西を拠点に活動するスタジオ利用アーティスト11名、そして海外からのアーティスト4名を迎えて2020年11月16日(金)~12月6日(日)の期間開催されているドライブイン展覧会「類比の鏡/ The Analogical Mirrors」。AMeeTでは国内外で評価されるキュレーター 飯田志保子による同展へのレビューを掲載する。キュレーションに対するキュレーター目線での洞察他、状況描写や1作1作の説明が丁寧に行われており展覧会を追体験できるような記事となっている。

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文:飯田志保子(キュレーター)
訪問日:2020年11月23日(月・祝)
撮影:前谷開

COVID-19のパンデミック以降、世界中で急増したウェビナーや会議などのオンライン・カルチャーに否応なく取り込まれてきた日々のなかで、「類比の鏡/THE ANALOGICAL MIRRORS」は久しぶりに濃厚な展覧会の経験を筆者にもたらした。本展は、ポストコロナ時代におけるフィジカルな展覧会鑑賞の可能性を提示し、見通しが立たない状況下においても「美術そして展覧会にはまだやれることがある」という希望と、創造者たちの意思を感じさせるものだった。

形式的な特徴は2つ。ひとつは、車に乗ったまま作品を鑑賞するドライブイン展覧会であること。入場時に係員から手渡される「鑑賞のための印刷物一式」を開くと、見開きのマップが目に入るようにリーフレットがファイリングされている。そこに記された順路に従って車を進めるにつれ、アーティストの共同スタジオ「山中Suplex」の敷地内に設置された15作家による17点の作品が、主に車窓の左右あるいは正面に現れ出る。もうひとつは、夜間のみの開催で会場が敷地丸ごと自然のブラックボックスになっていること。屋外に大掛かりな仮設空間を造作するのではなく、京都と滋賀の狭間の山中に位置する半屋外状のスタジオに既存の環境的特性を活かした設定である。鑑賞者の身体は車ごと滑らかに入口から会場内へとナビゲートされ、ほんの数メートル先にある作品でも車を進めないと視界に入ってこないことから、車の進行に従って薄暗い空間から作品が目前にまさしく「現出」するのである。導線は2か所の折り返し地点を含み一筆書きに設計されているものの、敷地全体がやや傾斜した山道で、平らな市街地を走る時のように会場内を通過(ドライブスルー)することは困難である。作品が現れるたびに一時停車しながらゆっくりと前進を続けることを余儀なくされ、鑑賞するには会場内にある一定時間滞在すること(ドライブイン)が求められる。新型コロナウィルス感染症対策として車外に出ることは許されず、視線はシートの座高に固定される。係員からの説明や指示は、入場時には車外からマイクで、その後はカーラジオの電波や携帯電話の画面に表示されたテキストを介して行われ、鑑賞者の意思伝達手段はクラクション。このように鑑賞する身体が管理され、徹頭徹尾ドライブインの形式を踏襲することによって、鑑賞者と作品の間には不可避的に少なくとも車枠分の距離が生じる。現在の社会状況の反映として、これもソーシャル・ディスタンスの一環として捉えられる。

受付(諸江翔大朗)
受付(諸江翔大朗)
会場内
会場内

身体の管理と他者(または作品)との距離化を不可避の条件として引き受けた上で、このソリッドな形式によって得られる恩恵がある。通常の展示空間では複数の作品が一度に視界に入ることが多いが、本展では1点ずつ現れ出る。さらに、近寄って見ることができないことで、かえってひとつひとつの作品を注視するようになる。ミケランジェロの《アダムの創造》をよくある片手運転のポーズに見立てたユーモラスな小笠原周の車輪付き人体彫刻は、ARと実写映像を用いて質量の知覚操作を行う。質量と台座は彫刻にとって古くからの命題である以上、実際に彫られた大理石の重さを目視しなければ、ARで質量と台座を欠いた彫刻のおかしみは伝わらないだろう。和田直祐は古典技法のグレーズによる質感豊かな絵画を展示していたが、塗り重ねられた色層の繊細なマチエールを遠目に見る限界と、和田自身の肩幅など身体サイズを基準に設計された作品にそぐわない隙間のような展示空間から、本展では絵画自体より作品を「見たい」という欲求を喚起することに重点が置かれていると感じた。本田大起は車の窓枠に腕をもたせかけるドライバーの典型的なポーズをレリーフ状の彫刻にした。車と人体がモチーフに援用されているが、蜜蝋や樹脂といった素材で触覚性を強調することで、彫刻的イリュージョンの古典回帰が試みられている。

小笠原周《ドライビングテクニック》2020
小笠原周《ドライビングテクニック》2020
和田直祐《中心の揺動》2020
和田直祐《中心の揺動》2020
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