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ドライブイン展覧会「類比の鏡/THE ANALOGICAL MIRRORS」レヴュー文:飯田志保子(キュレーター)

2020 12 02

プレ・トライアル展ともうひとつの大きな違いは、本展が4名の海外作家の作品を加えたことである。先述のチェーファルヴァイの他、ポーランド出身のヤロスワウ・コズウォフスキが1971年に構想し、翌72年から継続している「NET」というメールアートを中心とした取り組みの記録のスライド投影は、移動制限が付きまとうなかでコンセプチュアル・アートの可能性に再度注目が集まっている現在の潮流と共鳴する。冷戦下にも関わらず東西を超えたこのプロジェクトは、アーティストの国際的なネットワーキングが政治的・地理的制限を超越すること、つまりアーティスト個人のトランス・ナショナルな実践がもつ柔軟さと抵抗力を示している。それに対し、国家的な枠組みにおける国際交流について「NET」と対置するように展示されたのは、同じくポーランド出身のパトリツィア・プリフによる《From Poland with Love》(1998-2019)。1950年代から1989年までポーランドでは、アフリカの社会主義諸国との間で、平等な教育へのアクセスを目指すプログラムの一環として、アフリカ人留学生の受け入れが実施された。国家間の正式なプログラムが終了した後も、1990年代初頭まで独立援助機関によって継続された交流を日常的な視点で記録した個人のフィルムがあった。譲り受けたそのフィルムを素材としたプリフの映像作品は、カトリックと社会主義が複雑に結びついたポーランドにおける理想化された共産主義グローバリズムの欲望と、草の根交流の実態との差異を浮かび上がらせる。そして、スタジオの外壁に直接投影され、ドライブイン・シアターに最も近い鑑賞体験をもたらす台湾のユ・チェンタの映像作品《Tell Me What You Want》(2015-2017)は、性、経済、異文化、友情をめぐる欲望にドライブされる交渉と贈与のストーリーを映し出す。こうした国家、個人、異文化間の関係性は相互に主観的で、成立しているか否か決して測ることができないものであるが、本展のタイトルに用いられている「類比」は客観的な比例関係を前提とする。また「鏡」は、対称関係にあって、どれだけ近づいても鏡に映る像との融合は不可能であることを示唆する。

ヤロスワウ・コズウォフスキ「NETに関する記録資料」 1972-
ヤロスワウ・コズウォフスキ「NETに関する記録資料」 1972-
All the materials are from the Marinko Sudac Collection (Zagreb, Croatia)

堤が立てた「西欧と『それ以外の』地域」という二項の図式は、未だモダニズムに捉われた領域の内にある。堤が希求するオルタナティヴな空間モデルが近代の延長線上に再び引き戻されてしまうなら、「鏡」は自己の反映である他者と手を結ぶことのない、対称と分離の比喩に留まってしまうのではないか。だが実際の展示は、一筆書きでありながら直線的ではなく、風通しの良い散逸感があった。像の反復を生じさせる合わせ鏡より、類比の種類を豊かにするポリフォニックな乱反射の鏡が求められているのではないか。カーラジオの混線で、別チャンネル/世界の存在に意識が拡張されるように。

山中Suplexの環境と共同アトリエのメンバーを中心に開催された本展は、面識がなかった数名の海外作家を迎えながらも、既にコミュニケーションが成立しているコミュニティ内だからこそ実現した側面も多分にある。そのコンフォート・ゾーンを出た時にこのキュレーションはどのように発展しうるのか、またその方法論は他の場所でも有効なのか、さらなる挑戦を見てみたい気持ちにさせられた。

会場風景

PROFILE プロフィール

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飯田志保子 | IIDA Shihokoキュレーター

1998年の開館準備期から11年間東京オペラシティアートギャラリー勤務。2009年より2011年までブリスベンのクイーンズランド州立美術館/現代美術館内の研究機関に客員キュレーターとして在籍後、韓国国立現代美術館2011年度インターナショナル・フェローシップ・リサーチャーとしてソウルに滞在。アジア地域の現代美術、共同企画、美術館やビエンナーレをはじめとする芸術文化制度と社会の関係に関心を持ち、ソウル、オーストラリア、ニューデリー、ジャカルタ各地域で共同企画展を実践。第15回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2012、あいちトリエンナーレ2013、札幌国際芸術祭2014のキュレーター、あいちトリエンナーレ2019チーフ・キュレーター(学芸統括)を務める。2014年10月から2018年3月まで東京藝術大学准教授。他、札幌国際芸術祭コミッティメンバー、大林財団リサーチ・プログラム「都市のヴィジョンへの助成」推薦選考委員副委員長を務める。国際美術館会議(CIMAM)、美術評論家連盟(AICA)会員。

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