AMeeT
FEATURE

特集

KYOTO EXPERIMENT 2013 レビュー 寄稿:村上 潔/榊原 充大(RAD)She She Pop 『シュプラーデン(引き出し)』/チェルフィッチュ『地面と床』

2013 11 14

9月28日から10月27日の期間、京都で開催された国際舞台芸術祭 "KYOTO EXPERIMENT 2013"。AMeeTでは本フェスティバルを2回に分けて特集する。後半となる本記事では現代女性思想=運動史を専門とする村上 潔氏によるShe She Pop 『シュプラーデン(引き出し)』へのレヴューと、建築リサーチを専門とする榊原 充大氏(RAD)によるチェルフィッチュ『地面と床』へのレヴューを掲載。普段は舞台芸術以外の分野で活動する2名に、それぞれの専門分野からアプローチした批評を展開していただいた。

『シュプラーデン(引き出し)』 KYOTO EXPERIMENT 2013 photo: Ayako Abe

差異の整序と個の疎外、そして女の物語
――She She Pop『シュプラーデン(引き出し)』

寄稿:村上 潔

今だ ママかつて、女として正確に自伝と呼べるものを書いた女は私たちの中にはいない。女たちは、自分を対象物として見るように訓練され、「他者」の位置に自分を据えて、自らを疎外するようにと躾けられる。そのため、私たちが手にする物語は、女を映し出すことはない。それは、はなから、物語などではあり得ない。むしろ、それは物語になっていく物語であると言えるであろう。物語が物語になることが出来るためには、女たちによる読みの絆を通さねばならない。「他者」の物語とは、他の女たちに読まれる物語、他の女たちについての物語、他の女たちによって語られる物語である。こうした「他者」の物語を通して、女たちの物語は物語になっていく。なぜなら、他者の物語が、私たち女性自身の自伝になるためには、今の状況においては、女性側がそれを所有する必要があるからである。(Felman 1993=1998: 24 *太字は訳文による)

She She Pop『シュプラーデン(引き出し)』は、まず第一に差異の物語である。だが、それは本来ある差異をそのままのかたちで提示している、ということではない。
本作は、東ドイツで生まれた女性3人、西ドイツで生まれた女性3人の計6人が、舞台手前に置かれた多様な媒体の素材を媒介にして、自らの記憶を語り、アイデンティティや価値観を披瀝(ひれき)しあうことから生じる抜き差しならない葛藤をユーモラスに提示し、その意味を問うものである。

そこでは、東‐西(ドイツ)というステレオタイプな差異を相対化するため、細やかな、密かな差異が次々と引き出される。それは初めとりとめのないものとして発信されるが、やがてとても巧みに整序される。
差異はまず、ある女が残した記録を、別の女たちが「読む」ことで現前される。そして、読まれた内容に即して、向き合う一対の女(2人)が問い、答え、語り合い、その場で新たに差異が(各人の口から)引きずり出されてくる。さらに、そこで生まれた差異を、別の女たちが引き継ぎ、差異が共有されると同時に新たな差異をめぐる葛藤と共鳴が呼び起こされる。

書いた女と読む女との差異、問う女と答える女との差異、問い‐答える女たちと、別の女たちとの差異。「東の女たち」と「西の女たち」との差異。「東の女たち」のなかでの、「西の女たち」のなかでの差異。それらすべての位相における差異が、重層的に重なり合い、ある点では――ときに音楽の力も借りて――輝くような共鳴の光を放ち、ある点では行き詰まりの不和が生まれる。開放感と閉塞感が飽くことなく繰り返し訪れる。
しかし、舞台上で生まれる差異の重層構造は、けっして混沌としているわけではない。驚くほど見事に、差異は整序されていく。共鳴も不和も完全に計算されたかのように。

女たちは、躊躇なく差異を引き出しあい、感じあい、楽しみ、反発し、そしてすべてを殺さずに整序することで、「イデオロギー的分断」や、「国家間対立」というアプリオリな前提概念を、手際よく、軽快に無効化してみせる。女たちはひとつひとつの差異を、さまざまな規定要因に捕らわれることなく受け止め、自らのなかに取り込み、他者とのあいだをつなぐライン上に位置づけることができる。


村上 潔 MURAKAMI Kiyoshi

村上 潔 MURAKAMI Kiyoshi

1976年、横浜市生まれ。
2002年から2005年まで、『remix』誌に、映画・音楽に関する記事を寄稿。その後、『音の力 〈ストリート〉占拠編』、『VOL』誌などに寄稿。
2009年、立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程修了。現在、立命館大学産業社会学部非常勤講師。専門は、現代女性思想=運動史。
著書に『主婦と労働のもつれ――その争点と運動』(洛北出版、2012年)など。論文に「「三十娘」の利害と「家」の瓦解――資源と威厳の確保をめぐって」(『現代思想』41-12、2013年)など。

村上 潔 紹介ページ
(「生存学」創成拠点 arsvi.com WEBサイト内)
http://www.arsvi.com/w/mk02.htm


PAGE TOP