AMeeT
FEATURE

特集

Trouble in Paradise/生存のエシックス
高橋悟氏に聞く

2010 08 10

生命、医療、環境、宇宙における現代の先鋭的なテーマに、芸術的アプローチを試みた展覧会「Trouble in Paradise/生存のエシックス」(8/22まで京都国立近代美術館にて開催)。同展は、京都市立芸術大学が創立130年を記念して企画。大学で教育に携わる芸術家と研究者がプロジェクトチームを組み、科学者やアクティヴィスト(活動家)と共に分野を越えて挑戦してきた、国内外の12のプロジェクトが公開されている。この展覧会が実現に至るまでの経緯をプロジェクトチームの高橋悟氏に話を伺った。

聞き手:松尾 惠(MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w)

Trouble in Paradise/生存のエシックス

----「Trouble in Paradise/生存のエシックス」展の企画はどのように始まったのですか? 発端は、2年半ほど前です。当時、僕はまだアメリカにいたのですが、京都市立芸術大学(以下、京都芸大)から、130周年にあたり、「何か新しいプロジェクトを組めないか」と相談を受けました。それなら、今までにない計画を発案したいと考えて、プロジェクトチームをつくったのです。
130周年というのは、興味深いキーワードでした。今から130年前は明治初期で、琵琶湖疏水ができたり、万国博覧会に初めて参加したりと、近代日本が土台をつくっていった時代です。そういったできごとを今、新たに見つめ直して、次の世紀への提案にしたいと、まず考えました。会場となる京都国立近代美術館も、琵琶湖疏水がそばに流れていますしね。
次に考えたのは、教育機関が社会とどう関わっていくのかを提案しようということでした。大学機関が関係したプロジェクトですから、研究や教育の今後の方向性を示すような、萌芽的な要素を大事にしたいと考えました。単に、アーティストを集めただけの展覧会にはしたくなかったのです。
プロジェクトの母体としたのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA、旧宇宙開発事業団 NASDA)と京都芸大が1996年から2004年に行っていた「宇宙への芸術的アプローチ1)」という共同研究実験です。その時の宇宙実験で得た成果をもとに、今の地球上の問題をちょっと違う角度から眺めてみて、生存すること、この世に生きることへの新しい提案をしてみたいと考えました。例えば、社会や政治の問題も、新聞やメディアの視点とは異なり、宇宙からという、ものすごく引いた視点で眺めてみたら、違うものが見えてくるんじゃないかと思ったんです。

1)宇宙への芸術的アプローチ 共同研究成果報告書
http://iss.jaxa.jp/utiliz/spaceculture/report/aas/

----各分野の境界線を越えた、壮大な視点ですね。プロジェクトは具体的にどのように進めて行かれたのですか? 立ち上げていくにあたり、文部科学省日本学術振興会の「科学研究費補助金」に応募しました。申請時につけた展覧会のタイトルは「Creative Engagement --宇宙から地球へ、芸術のアナザーモデル--」。計画を進めていく段階で僕たちが大事にしたのは、芸術というものを既成の領域としてとらえるのはやめようとしたことです。学際的でも横断的でもない「脱領域的」なアプローチで、さまざまな角度から芸術を検証しようと考えました。

----脱領域的アプローチとは、どういうことでしょうか? 例えば、領域を「箱」だとすると、脱領域的というのは、お互いが入っている箱から一度みんな出てみましょう、そして、箱から出たみんなが出会える場所をつくりましょう、ということです。その「箱から出たみんなが出会える場所」を提案すること自体が、新しい創造的実践の可能性ではないか、と。既存の芸術の文脈からちょっと外して、新しい枠をつくってみると、医学、環境問題、宇宙など、それぞれの問題を扱う研究者の方々と僕らが同じ立場に立って、何か新しいことが始められるのではないかと思ったんです。その試みを僕らは、「Creative Practice」と呼んでいました。

----今までにない、おもしろいアプローチですね。プロジェクトに関わっている専門家たちのジャンルは、多方面にわたりますね。 そうです。生命倫理、医療、環境、宇宙、それぞれの専門家に関わってもらうことができました。例えば、京都大学の人間健康科学科には、科学研究費補助金の申請が通ってからすぐにアプローチしました。人間健康科学科は新しい考え方で医療をとらえていて、患者を治すことが目的ではなく、病気を人生の一部としてポジティブにとらえています。そうすると、病気とどうつきあっていくかという方向に視点が変わって、介護や看護など医療の問題すべてを含めてポジティブに考えていける。これまでの医療のあり方は、Cure(治療)とCare(世話)の2つしかなかったんですが、人間健康科学科では、そこにコミュニケーションやクリエイティビティなどを取り入れて、総合的に人間をとらえなおそうとしている。そういう新しい学科なら、僕たちのことを理解してくれるんじゃないかと思ってアプローチしたんです。
人間健康科学科とのプロジェクトがうまく展開し始めてからは、京都大学と京都芸大それぞれにプロジェクトチームをつくって、2大学合同で月に1回勉強会を開きました。最初は共通言語がまったく違うので、どうやって接点をもって話を進めていくかが大変で、スタートして半年間は本当に苦しかったです。でも、進めていくうちに、ひょっとすると専門領域を越えた人とコミュニケーションすることで、お互いの知見が広がったり新しい発想が出てきたりするんじゃないか、と希望がもてるようになりました。すると、次に全体をシャッフルして、「AさんとBさんのコンビで何か新しい提案をしてもらえませんか」というようにグルーピングをして、プロジェクトをまとめていく流れにもっていけました。それが第2段階。そして最後に、いくつかのプロジェクトごとに美術館展示での可能性を考えて、具体化していきました。


高橋 悟 Takahashi Satoru

高橋 悟 Takahashi Satoru

京都市立芸術大学構想研究室准教授。イェール大学大学院美術専攻修了後、カーネギーメロン大学助教授、ミシガン大学准教授を経て現在に至る。対立する諸概念の考察を通して、芸術・医療・生命・環境に関する研究と制作を行っている。また、アメリカ、ドイツ、オランダ、チリなど海外の美術館との連携で、多角的な視点で多くのアートプロジェクトを展開するほか、国内外の優れた研究機関や大学との協力で自己・プロセス・システムほか、社会に関わる新たな芸術教育のありかたについての研究と実践を行う。

Trouble in Paradise/生存のエシックス
(京都国立近代美術館)
http://www.momak.go.jp/Japanese/
exhibitionArchive/2010/381projects.html


PAGE TOP