09, Jun 2017

AUBE 初期作品の再来 / 中嶋昭文さんの情熱と創造の姿勢 前編

執筆:坂口卓也(音楽愛好者)

はじめに

3月の下旬、京都を拠点に発信されているWEBマガジン「AMeeT」から、ソロ・ノイズ・ユニット、AUBE(オウブ)の中嶋昭文さんについての寄稿を依頼された。ノイズとは本来「非音楽的な音・物音・雑音・騒音」を意味する単語だが、今や世界各地で創生されている慣習的構造を持たない否定形の音楽を指す。その内でも、AUBEのノイズは日本発祥ならでは、或いは京都でしか生まれ得なかったとも言える音楽であり、代替の存在しないノイズである。だが、中嶋さんは残念なことに4年前他界されてしまった。「AMeeT」編集サイドの或る方はかつてAUBEのライヴにも立ち会われたことがあり、中嶋さんの業績は正当に評価されるべきだという確信を持たれている。ずっとAUBE再評価実現への道を考えておられた様なのだが、昨年ようやく、京都のレーベルshrine.jpによるAUBE初期作品の再発シリーズが始動した。

これと同調する形で「AMeeT」はインターネットにおいては顕かに不足しているAUBEに関する情報の発信を始め、まず東瀬戸悟さん(レコード店Forever Records店長、レーベルaugen/hörenオーナー)による記事

『黎明の軌跡 AUBE/中嶋昭文の作品について』

を公表している。

今般東瀬戸さんによる推薦があり、中嶋さんと交流があった私がAUBEの紹介を行わせて頂く次第となった。既に彼が中嶋さんの活動を総説してくださっているので、下記の構成によりAUBEについて語ってみたい。最初の2章を前編、残り2章を後編として掲載して頂こうと思っている。

  1. ノイズ - AUBEが演奏するノイズという音楽について
  2. 再来 - AUBE音源再発CD化の意味について
  3. 中嶋さんの音創り - AUBEの演奏姿勢について
  4. 連鎖 - 創ることに対する中嶋さんの情熱について

坂口 卓也 SAKAGUCHI Takuya
(音楽愛好者)
東瀬戸 悟 HIGASHISETO Satoru

1955年生まれ。’70年代後期から現在迄、ロサンジェルス・フリー・ミュージック・ソサエティ(LAFMS)関連の著述をAmalgam、Jam、Heaven、宝島、ミュージック・マガジン、G-モダーン、音人など諸誌、および自作ブックレットを介し発表。”Suppression Disorder” をはじめとするAUBE 3作、インキャパシタンツ、ゴミカワフミオ、ソルマニアなどアルケミー・レコードのCD諸作、渚にて最初の3作および頭士奈生樹のセカンド・アルバム、古くはピナコテカ・レコードのカセット群などの解説を執筆。自主レーベルNEURECを興し、好きな音楽を出版している。ブログ 『音薬談』ではLAFMSからブルー・オイスター・カルトまで様々な音楽に言及して来た。

坂口卓也 ブログ 『音薬談』
http://onyak.at.webry.info/


1. ノイズ - AUBEが演奏するノイズという音楽について

「ノイズ」と形容される演奏が一つの音楽表現形態として認められ始めたのは、’70年代の後半のことだったと想う。当時、まずノイズはリスニングの対象として世界同時的に認められ始めたと考えられる。音楽に含まれる情報について、従来とは違う理解に覚醒したリスナーが各地に出現したのだ。そして彼ら自身がノイズを創生し始めることにより、ノイズの作家が増えて行った。

面白いことに、日本には高柳昌行さん・灰野敬二さんら、「不定形であり、莫大な情報を許容する」 というノイズの特徴を持つ先達が魁の様に存在していた。この土壌に、ノイズへの覚醒という世界的潮流が融合したのかも知れない。’78年の非常階段、’79年のメルツバウ登場を契機として、日本のノイズ、Japanoiseは顕著なイメージを伴う形で姿を現し、AUBEが現れた’91年には東京にも関西にもシーンの様なものが既に存在していた。

AUBEは、シーンに飛び込んで行くことを決して躊躇した訳ではなかったが、周囲と「一線を画す」とでも表現すべき部分を堅持し続けた様に思う。勿論、その音楽が、ノイズという変わった音楽の範疇において、現在でも比較対象の無い特にユニークなものであったという要素がその根底にはある。併せて、音楽の創造から制作、デザイン、パッケージング、出版、配給という全てのプロセスを独自でこなしてしまう能力が中嶋さんにあったという事情を見逃すことは出来ない。

コンピュータ・テクノロジーとインターネットが発達した現在ならば、こうした多様な作業を一人でこなす作家は決して少なくない。だが、AUBEが驚くべきペースで、高度な構成美学とエナジーに溢れる作品を見事な装丁に包んで連発し始めた’92年はまだそんな時代ではなかった。パーソナル・コンピュータが一般にも広く普及し始めたのはMicrosoft Windows 95が発売された’95年辺りだし、インターネットの本格的普及はその後だったのだから。“Do It Yourself”と呼称される音楽創生のスタンスは’80年代に確立されているが、コンピュータ・テクノロジーとアプリケーション・ソフトウェアの進化と共に、’90年代から二十一世紀にかけてそれは段違いのレベル・アップを遂げた。

言わば中嶋さんは、まだ充分な発達を遂げてはいない未成熟段階のディジタル技術とアナログ作業で、一世代先のディジタル・アートでなくては達成出来ない許容能(キャパシティ)と質(クオリティ)を持つ作品を創っていたと、そう表現しても差支えない。それを実現させたものはクリエイターとしての並外れた力量、そして情熱であり、だからこそ却って、後年の成熟したディジタル・テクノロジーだけでは絶対に太刀打出来ない特徴を堅持したとも言える。現在から歴史を振り返って見ても、AUBEの立ち位置と作品は孤立という言葉さえ似つかわしい程に独特であり、比較対象など一切存在しないのだから。

全興寺(大阪・平野)でのライヴ風景 撮影年:’97年 撮影者:しばたゆり 画像提供:東瀬戸悟

全興寺(大阪・平野)でのライヴ風景
撮影年:’97年 撮影者:しばたゆり 画像提供:東瀬戸悟


2. 再来 - AUBE音源再発CD化の意味について

二十世紀から二十一世紀にかけて、’91年からの二十数年間に、膨大な作品発表、および激烈でさえある情熱を帯びたノイズ・ライヴ演奏を敢行していたAUBEこと中嶋昭文さん。彼が54歳の若さで他界してから、早や3年半という月日が経過した。他界翌年の春と秋には、その才能の喪失を惜しみ、併せて彼の人柄を偲ぶ催しが大阪で行われている。その後、あれほど市場に溢れていたAUBEの作品を見ることがめっきり少なくなった。国際的規模で、中嶋さん生前のご活躍を知る心ある方々は何とかならないものかと胸を痛めていたに違いない。

だが、中嶋さんと深い交流を行っておられた東瀬戸悟さんの全面的協力の下、京都を拠点とするレーベルshrine.jpが昨年からAUBE作品の再発に乗り出した。この展開には、中嶋さんもきっと喜んでいるに違いない。何せ、彼がずっと住んでいた京都のレーベルによる再発なのだから。AUBEの作品には、その装丁を含めて、日本的素材と和の感触を活かした創造、言わば「トータルな和の表現可能性」とでも言うべきものを示唆する要素が少なからずあった。それに言及すると中嶋さんが「それは、本来自分の内に日本的要素が息づいているからでしょうね」と自負する様に仰っていたのを、今でも想い出す。

そして、今般の再発は勿論然るべき筋を通した公式なものであり、カセット・テープ、DAT(ディジタル・オーディオ・テープ)、CD-Rなど、様々な形で現存する音源から最良のものを選び、マスター作成に用いたという。この経緯を知った時、ふと想い出したことがある。かつて中嶋さんが、「はっきり言って、音質にはこだわっていない」と断言されていたことだ。佇まいからして非常な綿密さを感じさせる方だったから、この言葉に接してとても意外に思ったことを覚えている。それが、今般の再発においては音質が重視されたのだから面白い。だが、このアプローチは決して彼にとって不本意なものではなかったと考える。今般の再発第一弾であり、中嶋さんの自主レーベルG.R.O.S.S.からカセットとして出版されていたAUBE『Spindrift』(‘92)を再発CDにて拝聴した。すると、中嶋さんがご自身の演奏について語っておられた或ることが、実に良く判るのだ。

その言葉とは、「音響操作の術を尽くし、自分の感覚を制御しても、それは常に押さえ切れない混乱となって行く」というものである。ご自身のライヴ演奏に関して中嶋さんが述べておられたことだが、ライヴだけには止まらずこの提唱は自宅スタジオでの録音に際しても当てはまるだろう。自らが綿密に設計図を描き完成させた音であるのに、一旦形を成すや、思いもよらぬ力で創造主に挑みかかって来る、そんな気持ちが含まれている言葉だと想う。CD化再発に際し最良のソースを用いたディジタル化を行うことで、この「制御し切れず、混乱となって行く」演奏部分をより明瞭に特定することが出来る形へと音は進化を遂げたと言って良いだろう。

綿密に制御されているだろう規則を維持する演奏部分が在り、その一方で制御と反乱(氾濫)の鬩ぎ合いが露呈される「混乱」の部分が存在するが、「最もけたたましい騒音」とされるハーシュ・ノイズさえ凌ぐ迄のダイナミックな蠢きを後者は見せる。音の精度をこそ追求した結果、これら二つのエナジー体がそれこそ互いを映し合う鏡同士の様に対峙している情景が、脳の内に在るスクリーンに明確な像として投影されるのだ。’92年の作品だというのに、再来した『Spindrift』を聴いていると、情念の奔流が秩序と闘争しながら協和して行き有機的ハーモニーを創生する現場に直面し、改めて興奮を覚えてしまった。音質にこだわったshrine.jpの再発は正解だった、AUBEの正しい再評価を導くための最良の選択だったことを確信することが出来ると思うのだ。

この、東瀬戸悟さんとshrine.jpの協働作業として昨年から始まったプロジェクトは、’90年代の前半にG.R.O.S.S.から出版されていたAUBEによる初期カセット音源全作品の再発CD化を目的としている。記事の末部に纏めた様に、昨年11月から今年の5月まで月刊ペースで出版され、7作目において完結した。まさしく、AUBE創生期当時をドキュメントするアーカイヴとも言える布陣である。初期衝動が一切損なわれること無く、混乱さえも協和に参与させてしまう独特のハーモニー構築を誇る中嶋さんならではの世界。当時既にそれが成立していたことを、はっきりと確認することが出来る資料としても実に貴重なCD群である。このチャンスに是非ご体験を頂きたく、ここにお薦めする次第だ。
(協力:東瀬戸悟、shrine.jp http://www.shrine.jp/

  1. ’16年11月17日 - 『Spindrift』 ’92年初出 / 水音源
  2. ’16年12月15日 - 『Drip』 ’92年初出 / 水音源
  3. ’17年1月15日 - 『Luminous』 ’93年初出 / 蛍光灯音源
  4. ’17年2月9日 - 『Flash-Point』 ’93年初出 / 蛍光灯音源
  5. ’16年3月16日 - 『Submerged Tension Remix』 ’93年初出 / 水音源
  6. ’17年4月16日 - 『Frequency For Collapse』 ’94年初出 / 廃ビルでの環境音源
  7. ’17年5月21日 - 『E-Power』 ’94 年初出 / 1 Voltage Controlled Oscillator(発信機)使用

shrine.jp 再発CDリリース情報

AUBE 中嶋昭文が、自身のレーベル「G.R.O.S.S.」から90年代にリリースした初期カセットテープ作品7タイトルを、京都のレーベル shrine.jpがCDにて再発。

Aube 『Spindrift』

再発第1弾は水音を素材にした1992年作『Spin Drift』。

2016年11月17日リリース ¥2,000(税別) SGR-001

Aube 『Drip』

再発第2弾。前作『Spin Drift』(しぶき)に続き、水音をマテリアルにした1992年作『Drip』(しずく)。美術作家、笹岡敬の個展時に行なったライヴ・パフォーマンスの録音を加工。スピーカーからしたたり落ちる電子ノイズ雫。

2016年12月15日リリース ¥2,000(税別) SGR-006

Aube 『Luminous』

再発第3弾はAUBE活動初期に親交が深かった美術作家、有地左右一と笹岡敬によるインスタレーション『Luminous』から生まれた1993年作。変圧して意図的に切れかけの状態にした蛍光灯と点灯管の点滅音をマテリアルにしたフリッカー・ノイズ音響。

2017年1月15日リリース ¥2,000(税別) SGR-011

Aube 『Flash-Point』

再発第4弾はAUBE活動初期に親交が深かった美術作家、有地左右一と笹岡敬による蛍光灯の点滅を題材にしたインスタレーション『Luminous』への音響制作参加を発展させ、大阪造形センターで行ったライヴ・パフォーマンスを収録。変圧した点灯管の音を素材に使用。録音はDiesel Guitar 能勢山陽生。

2017年2月9日リリース ¥2,000(税別) SGR-016

Aube 『Submerged Tension Remix』

再発第5弾は、1993年に、岡崎豊廣(ディスロケーション)のレーベル「Steeple & Globe」からリリースした1992年録音作『Submerged Tension』のリミックス版。音源マテリアルは初期AUBEが繰り返し使用した水音。

2017年3月16日リリース ¥2,000(税別) SGR-021

Aube 『Frequency For Collapse』

再発第6弾。美術作家しばたゆりが、岡山の廃ビルにあったアート・スペース「自由工場」内で、1993年から1994年末のビル解体に至るまで、ワイヤーを張り巡らせたインスタレーション『崩壊の周波数』設置時にフィールド採集した音源を加工。

2017年4月16日リリース ¥2,000(税別) SGR-026

Aube 『E-Power』

再発CD化第7弾にして最終リリース作。1つの電圧制御発信器(VCO)だけを音源に使用した1994年作。オリジナル・カセットのアートワークは1点づつ異なる廃棄レントゲン写真を再利用。タイトルは中嶋氏が敬愛していたEP-4へのオマージュ。

2017年5月21日リリース ¥2,000(税別) SGR-031


AUBE 初期作品の再来 / 中嶋昭文さんの情熱と創造の姿勢 前編

Category: Column





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