06, Oct 2009

デザインの日常から 1

杉崎 真之助(グラフィックデザイナー)

名刺 杉崎 真之助

たかが名刺、されど名刺ですね。

これは私の名刺です。20年間、基本のカタチは変わりません。というよりも変えることができないのです。この名刺の考え方は、デザインしないデザイン。なるべくニュートラルな印象、保守的でも革新的でもない表現です。それでも他の名刺の中に混じると、目立ってしまうというパラドクスも生じます。

手元にある名刺を眺めてみましょう。名刺の数だけデザインがあるといっても大げさではないですね。取引先や友人、行きつけのお店など、どれもデザインするための工夫と努力が凝らされています。私は職業柄、グラフィックデザイナー同士で名刺を交換することが多いのですが、いただいた名刺を見れば、そのデザイナーの水準と考え方が、これは残念ながらしっかりとわかってしまいます。名刺という小さな宇宙に、たったひとつの世界観をつくり出すのは、極めてタフな仕事なのです。

ところで名刺は、究極のブランディングアイテムだと思いませんか。意識はしていないかもしれませんが、名刺をもらって瞬時にそれを眺め、全体の印象、紙の手触り、重さ、書体と色、ロゴなどのディテールを無意識に読み取り、その人の存在や人柄を確かめているのではないでしょうか。
お互いに手から手へ名刺を交換する。まさにインタラクティブなツールです。しかも五感に訴えるリアルメディアです。企業のブランドが入った名刺であれば、所属する会社の活動を通じて、信頼感や親しみを伝えられます。お店の場合は、その雰囲気をうまく記憶させることができます。

ではいい名刺とは、なんでしょう。もらった人の記憶に明快に残る印象、しっかりと整理整頓された情報、この二つの品質を高めることに尽きると思います。
それを支える書体や文字組、色、レイアウトなど、デザインの質と知識と知恵が、そのまま名刺の力の差になるのです。コンマ1ミリの研ぎすまされた感覚が試されます。だからデザイナーにとっては、とてもとても手強いアイテムです。
名刺づくりはまた、情報を改めて点検する作業でもあります。なにを伝えたいのか。どう読み取ってほしいのか。たとえば会社や組織の名前を取り払ったら、そこになにが残るのか。一度パーソナルな名刺を自分でつくることにチャレンジしてみてはどうですか。自己のアイデンティティがなにかを発見できるかもしれません。


杉崎 真之助 Shinnoske Sugisaki
杉崎 真之助 Shinnoske Sugisaki

デザインを情報の構築と印象の設計と定義し、明快で良質なコミュニケーションの実現をめざす。文化関連から企業広告、ブランディング、情報デザイン、空間計画まで幅広い分野で活動。
2008年dddギャラリー、2007年ハンブルグ美術工芸博物館など、国内外で多くの展覧会や講演を行う。ニューヨークADC特別賞、ニューヨークTDC優秀賞、グッドデザイン賞、日経広告賞ほか、トヤマ、ワルシャワ、ブルノ、ラハティ、トルナバ、上海などの国際ポスター展で受賞。著書に「印象の構造」「ソリッドグラフィ」「新世代グラフィックデザイナー」など。
株式会社シンノスケデザイン代表、AGI国際グラフィック連盟会員。大阪芸術大学客員教授。

SHINNOSKE INC.
http://www.shinn.co.jp/

デザインの日常から 1

Category: Column





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