20, Jan 2012

原神松雄

由良泰人

12月10日にCLUB METROで行われた、レイハラカミ生誕41周年のお誕生日会「広い世界」でオープンリールを操作する大野松雄氏と筆者。(写真:梅原渉氏)

12月10日にCLUB METROで行われた、レイハラカミ生誕41周年のお誕生日会「広い世界」でオープンリールを操作する大野松雄氏と筆者。(写真:梅原渉氏)

2011年7月に学生時代よりの友人、レイ・ハラカミが急逝した。
彼とはお酒を飲んでばかりだったのだけれど、仕事を少しだけしたことがある。
2001年に彼のリミックスアルバム「レッドカーブの思い出」が計画されていた時に、僕は京都の白川通にあった居酒屋でハラカミに提案したことがある。「大野さんにリミックスしてもらったらどうだろう?」と。
大野さんとは大野松雄さんのことである。音響デザイナーの草分けで、数々のテレビ番組から映画、演劇や博覧会パビリオンの音響設計だけでなく、映画監督までこなす数々の実績のある人だ。今年は大野さんを題材にした映画「アトムの足音が聞こえる」が公開された。僕は大野さんが京都に亡命(詳しくは映画を参照)して以来、いろいろとお手伝いをさせてもらっていた。

原神の快諾を得て史上最高齢のリミキサーが誕生し、僕はまたお手伝いをすることとなった。
ハラカミから素材のテープが届くと「由良君、素材を全部聞いて使えそうなのをピックアップしといてよ」とテープを渡された。準備をして大野さんのところへ作業に行ったのだが、すでにほとんどの骨格は出来上がっていた。せっかく準備をしたので僕の選んだ素材を伝えると「わかった、何とかやってみるよ。コーヒー飲みに行こう」とその日はあまり仕事をせずおしゃべり(大野さんはダベリングと言う)で一日が過ぎた。次の日に大野さんのところへ行くと僕が選んだ素材が見事にミックスされていた。
大野さんはあまり仕事をしているところを人に見せず一人集中してこっそりとやるのだ。他人がいると集中できないのだろう。

そして僕は言いたい放題リクエストをし、コーヒーを飲み、大野さんはいろいろなテクニックを駆使した音を聞かせてくれた。例えば「アナログメロディ」と大野さんが命名した、オープンリールをスクラッチして出す音にテープディレイをかけると生まれる摩訶不思議な音(鉄腕アトムの飛行音などで使われた音がそれだ)。そんな音が重なり、聞いたことも無い音が出来上がっていく毎日を楽しんだ。
だが次第に「これは好き勝手やりすぎているのでは?」と突然不安になった。直ぐ様ハラカミを呼び出して確認してもらったのだが、彼は気に入ってくれた。それどころか、彼の手を抜いて仕事が出来ない性格が災い(?)して細かなところにこだわりはじめ、音の微調整など一緒に作業をすることとなった。そして最後に大野さんが手を入れ仕上げたのが「put off and other」である。


由良泰人 YURA Yasuto
由良泰人  YURA Yasuto

1991年ごろより個人映像の制作を始める。作品発表を京都、東京などの日本を中心にヨーロッパやアジア地域など海外でも活発に発表する。映像作品以外にもインスタレーション作品の発表、コラボレーションでの制作、コンピュータ技術書の執筆やアニメーション制作など多岐にわたる活動をしている。主な発表としてヨーロピアン・メディアアート・フェスティバル(ドイツ)、オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ)、EXiS(韓国、AVID賞受賞)、WROメディアアート・ビエンナーレ(ポーランド)、KIRIN CONTEMPORARY AWARD(奨励賞受賞)、第5回テクノアート大賞(大賞受賞)ほか。

レイ・ハラカミ
http://www.rei-harakami.com/

大野松雄
http://www.ohno-matsuo.com/

映画「アトムの足音が聞こえる」
http://www.atom-ashioto.jp/

京都シネマ公開イベント「原神松雄」
http://kyotocinema.jp/report/
re2011/re_2011_22.html

大野松雄氏のスタジオにて「put off and other」制作中。(2001年4月)

大野松雄氏のスタジオにて「put off and other」制作中。(2001年4月)

アナログメロディ録音中の大野松雄氏(2001年4月)

アナログメロディ録音中の大野松雄氏(2001年4月)


幸運にも二人の近くに居る事が出来た僕は、意外と二人は似ていると思った。
大野さんの音響制作機材は、わりと最新のものを導入している。かなりの新しい物好きだ。アナログ時代の職人のイメージがあるが、現在のスタジオにはアナログ機材はほぼ無い。あるのはコンピュータによるシステムだけだ。Apple II による自動演奏システムを、たぶん日本で初めて導入していたし、デジタルレコーディングやMacintoshによる音声波形編集も早くから導入していた。大野さんは「情報や物はまだ何も無かったけど、面白そうなものは何でも試した」と言った。

対してハラカミは20年ほど音楽制作の環境は同じものを使い続けた。ソフトウェアは10数年前に開発が終っているものだ。彼はソフトウェアや楽器が変わって音楽が変わることを嫌っていたし「新しい機材を覚える時間があれば、その分音楽を作りたい」と言っていた。そのため古いソフトウェアを使用する際に必要となるコンピュータやOS、シンセサイザーも古いものをわざわざ揃えていた。ハラカミは「機材や音色も含め、今ある限られた環境でどれだけの音楽が作れるかやってみたい」と言った。

ハラカミ氏が使用している音楽ソフト「Opcode EZ Vision」。画面はアルバム「Unrest」の中の「On」のもの。

ハラカミ氏が使用している音楽ソフト「Opcode EZ Vision」。
画面はアルバム「Unrest」の中の「On」のもの。

不自由であるからこそ、貪欲に使えるものは何でも使い、アナログ時代からデジタルまでどんな環境でも変わらない音を創る大野さんと、環境から音色まで自ら制限し、不自由な中の可能性を模索するハラカミ。対照的に思える二人だが、現代のデジタル技術によって均一化してしまったツールに頼らず、環境を自分のフィールドに引き寄せ自在な音を繰り出す。
二人とも「道具なんてなんでもいいんだよ」と言う。しかし新しい道具を手に入れると徹底的に試してみる。彼らにはよく技術的な相談をされることがあるのだけれど、初めて聞くような使い方をしていることが多かった。遊びながら自分なりの使い方を模索しているのだ。彼らは目的がハッキリとしているので必要なことがよく見えているのだろう。

二人の作業を見ていると職人だなぁとよく思った。
大野さんは千分の一秒の音の違いがサラウンドに及ぼす影響を測定するための実験を数日続けて耳を悪くした。そうしてあらゆる事を試した後に勘を働かせる。
ハラカミは曲を構成する音に関してはすべてをコントロールする。そのためエフェクトが創り出すような部分まで細かく入力した。勝手に音が鳴る事が許せないのだ。
それでも二人は「まぁ適当に」と言う。このこだわりこそが彼らが唯一無二の存在であることの根幹となっているのでは無いだろうか。

ハラカミ氏のスタジオ。(2003年1月)

ハラカミ氏のスタジオ。(2003年1月)

ハラカミ氏の音楽制作機材(2003年1月)

ハラカミ氏の音楽制作機材(2003年1月)


2011年そんな二人と再び一緒に仕事が出来るチャンスが巡ってきた。
二人の地元である京都での「アトムの足音が聞こえる」公開に合わせ、8月9日に「原神松雄」と題した二人のライヴセッションを京都シネマでやろうと思ったのだ。機材の手配、スケジュール調整と着々と準備を進めていた最中の7月28日早朝、ハラカミの訃報を受け取った(命日は27日)。そしてイベントは中止となってしまった。
しかしその後ハラカミが引き合わせてくれた、多くの人達の協力を得て8月17日に再び上演する機会が訪れた。

残念ながらハラカミは出演しないが、彼が最後に電話で話してくれたチャンスオペレーションというヒントを元に、たぶん彼が予定していたであろう楽曲「eve ~ガブ山ガブ太郎のテーマ~」に大野さんがアナログメロディで応えるセッションが実現したのだ。
このライヴは「レッドカーブの思い出」の時からいつか実現したいと、僕自身が一番渇望したものであった。実現までに多くの人を巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っている。この場をお借りして協力してくださった方々、機会を与えてくださった方々に心からお礼を申し上げたい。
大野さんは現在新しい音響作品を制作中であり、また新たな企画も準備しているので楽しみにお待ち頂きたい。

8月9日に京都シネマで行われた「アトムの足音が聞こえる」公開記念イベント「原神松雄」より。(写真:井上嘉和氏)

8月9日に京都シネマで行われた「アトムの足音が聞こえる」公開記念イベント「原神松雄」より。
(写真:井上嘉和氏)

8月9日に京都シネマで行われた「アトムの足音が聞こえる」公開記念イベント「原神松雄」より。(映像:RUBYORLA氏 写真:井上嘉和氏)

8月9日に京都シネマで行われた「アトムの足音が聞こえる」公開記念イベント「原神松雄」より。
(映像:RUBYORLA氏 写真:井上嘉和氏)

8月9日に京都シネマで行われた「アトムの足音が聞こえる」公開記念イベント「原神松雄」で使用したオープンリール。

8月9日に京都シネマで行われた「アトムの足音が聞こえる」公開記念イベント「原神松雄」で使用したオープンリール。


原神松雄

Category: Column





PAGE TOP