12, May 2017

みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~
トーク 第2部:価値と活用という視点で見るアーカイブ

2017年1月29日(日)にみずのき美術館にて開催されたレクチャー&トークイベント「みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~」。本記事では同イベントのトーク第2部の内容を掲載する。第2部のスピーカーは視覚文化研究者の佐藤守弘氏(京都精華大学教授)と、本記事の編集も担当している建築家/リサーチャーの榊原充大。アーカイブとは何か、という基礎的な概説や活用という観点からアーカイブを考察するなど、福祉施設の作品、ひいてはアートという一つの評価基準にとどまらない多様な角度から議論された。

編集:榊原 充大(建築家/リサーチャー)

編集協力:中本 真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

トークイベント撮影:表 恒匡

助成:一般財団法人 ニッシャ印刷文化振興財団、日本財団(五十音順)

協力:みずのき美術館

トーク 第2部 会場風景

トーク 第2部 会場風景

2017年1月29日(日)にみずのき美術館にて開催された「みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~」。
同イベントは、アール・ブリュット(※1)美術館初となる本格的な作品保管環境の整備とデジタル・アーカイブ(※2)事業に取り組む(※3)みずのき美術館が、主にアール・ブリュットや、障害がある人によるアートに携わる福祉施設関係者に向けて企画したレクチャー&トークイベントだ。デジタル・アーカイブ事業の過程を共有することにより、日頃から同じ課題を抱えている方々に役立ててもらうこと、アーカイブの定義や意義を丁寧に伝えることで、アーカイブについて理解を深めることなどを目的に企画された。

午前の部ではレクチャー、午後の部ではトークイベントが開催されたが、本記事では『AMeeT』にて2017年3月に公開したトーク第1部の記事(※4)に続き、第2部の内容を公開する。第2部のスピーカーは、視覚文化研究者の佐藤守弘氏(京都精華大学教授)と、本記事の編集も担当している建築家/リサーチャーの榊原充大。
本イベントには「福祉施設の作品をアーカイブするには」という副題がつけられているが、第2部のトークは「福祉施設の作品」と「アーカイブする」という2つの課題について、再考をうながすものとなっている。

佐藤氏による発表では、アーカイブとは何かという基礎的な概説や、ニューヨーク近代美術館(MoMA)を例にしたミュージアムにおけるアーカイブズのあり方が、これまでアーカイブに触れる機会のなかった方にも伝わるよう、詳細に語られた。発表の後半では、アーカイブの可能性や課題についても言及されている。
また、榊原の発表では、既存の議論で中心となっているアーカイブの「意義」や「つくり方」よりも、むしろそれを活用する方法やその主体こそが重要であるという理念から、「活用」をテーマに、広い視野でデジタル・アーカイブの事例を紹介した。アーカイブを一つの考え方と捉え、その考え方を広げていくことが重要であるという提言も行なっている。

佐藤・榊原・奥山の間で議論が交わされ、第1部の登壇者である中原浩大氏と石原友明氏による、価値付けに関する考えも述べられたクロストークも掲載。そこでは「アール・ブリュット」など、主にアートの価値基準によって評価されてきたみずのきの作品=福祉施設の作品を「アート」という一意的な視点からのみ見てしまうことへの疑義が呈されている。

※1)第2次世界大戦後、価値観の再編成が行われる中、フランスの芸術家ジャン・デュビュッフェによりつくられた言葉。日本語に訳される場合には、「生(き)の美術」「生(なま)の美術」とされることが多い。伝統的な美術教育を受けていない作り手によって制作されるそれらの作品は、美術史的な枠組みでは解釈し尽くすことができない。イギリスの美術史家ロジャー・カーディナルは「アウトサイダー・アート (outsider art)」と訳している。日本において、アール・ブリュットという言葉はしばしば「知的障害者が作った芸術」と誤解されることがある。

※2)デジタルアーカイブ(英語:digital archive)とは、博物館・美術館・公文書館や図書館の収蔵品を始め有形・無形の文化資源(文化資材・文化的財)等をデジタル化して記録保存を行うこと。(“デジタルアーカイブ”.ウィキペディア日本語版.参照2017-02-26.)

※3)みずのきの作品保管環境の整備とデジタル・アーカイブ事業の取り組みについては以下記事参照。
奥山理子[2016].“みずのき美術館 保存と記録の取り組み ―アール・ブリュット美術館初となる本格的な作品保管環境の整備とデジタル・アーカイブ事業”.AMeeT.参照2017-05-05.

※4)中本真生 編集[2017].“みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~ トーク 第1部:デジタル・アーカイブのための画用紙作品撮影”.AMeeT.参照2017-05-06.

イベント情報

みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~

開催日: 2017年1月29日(日)
会 場: みずのき美術館
タイム
スケジュール:

午前の部
10:00-12:00 須之内元洋氏によるレクチャー

午後の部
13:30-13:45 みずのきアーカイブの説明
13:45-14:45 第1部/中原浩大氏、石原友明氏
14:45-15:00 休憩
15:00-16:15 第2部/佐藤守弘氏、榊原充大氏

料 金: 1,000円(入館料含む)
主 催: みずのき美術館
助 成: 日本財団
WEBサイト: http://www.mizunoki-museum.org/digitalarchive/

みずのき美術館
MIZUNOKI MUSEUM of ART
みずのき美術館<br />MIZUNOKI MUSEUM of ART

障害者支援施設みずのきで、創立5年目の1964年に始まったみずのき絵画教室の作品を所蔵作品とし、2012年、京都府亀岡市に開館。
絵画教室で生まれた作品の保存・研究、アール・ブリュットの考察、地域社会に開かれたプロジェクト型の企画の3つを柱に、数多くの展覧会や企画を展開している。

みずのき美術館WEBサイト
http://www.mizunoki-museum.org/


スピーカー:佐藤 守弘(視覚文化研究者)、榊原 充大(建築家/リサーチャー)

進行:奥山 理子(みずのき美術館)

本注釈以降、向かって左に掲載している画像は、当日スクリーンに投影された資料です。各画像下のリンクからPDFにて拡大してご覧いただけます。

佐藤守弘 発表
「ミュージアムとアーカイブズ
——ニューヨーク近代美術館をモデル・ケースに」

(奥山)
デジタル・アーカイブは、福祉の造形活動の現場ではまだまだ身近になっていない取り組みかと思います。今日お二人の話をうかがって、デジタル・アーカイブを日々の業務や営みの中で用いたいと感じてもらえるような時間にしたいと思っております。ではまず佐藤さんから、よろしくお願いします。

(佐藤)
佐藤守弘です。僕は芸術学/視覚文化論を専門としていて、基本的には写真を中心に研究しています。芸術学研究者という立場ではアートに関わっていますが、アートの「外側」にあるような、遺影写真の研究なども行っています。最近はアーカイブに関わる研究会に招かれることもあり、これまでにアーカイブに関する論文が2本書籍に掲載されています。今回の私の発表では、本来アーカイブズとは一体何なのか、デジタル・アーカイブという概念が入ってくることによってそれがどのように広がっていったのか、というところまでをまとめてみたいと思います。

広い/狭い意味でのアーカイブズ/アーカイブ

(佐藤)
基本的に「アーカイブズ」という言葉は複数形であって、単数形で用いられることはありません。辞書では常に複数形で使うと書かれています。語源は、ギリシャ語で「政府」を意味する言葉。公的記録、歴史録が保管される場所という意味を持っており、要するに「公文書館」です。日本では、1971年に東京は竹橋につくられた国立公文書館がそれに当たります。それまで公文書は各省庁で保管されていましたが、公文書館ができたことで、ひとところにまとめて保管されるようになりました。公表の基準としては、重要な歴史資料の中である程度の期間を経たものを公表する、というかたちをとっています。中には公表はしたものの黒塗りばかり、ということもあるんですが(笑)。

京都には国立公文書館より前の1963年につくられた「京都府立総合資料館(2017年4月28日より「京都府立京都学・歴彩館」としてオープン)」があります。この施設が興味深いのは、Kyoto Prefectural Library and Archivesと訳されることからわかるように、図書館でありなおかつ公文書館であるという性格を持っているということです。京都に関する資料や公文書まで含めて、行政文書、歴史古文書などを統合的に収集しています。そして京都府立図書館では、デジタル・アーカイブの取り組みも非常に積極的に行われています。
当然、国立のアーカイブズは各国にあります。アメリカでは、「ナショナル・アーカイブズ」と呼ばれる国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration)がそれに当たります。

「アーカイブズとは何か」について、より正確に把握するために、類似した構造を持つものと比べてみましょう。まずミュージアム(美術館/博物館)。これは展示するための場所であって、絵が壁という支持体にかけられている。さらには収蔵庫という機能もあって、いわば「本物」「物そのもの」が置いてあるんです。次はライブラリ(図書館)。閉架書庫は別として、ライブラリでは基本的には本の背表紙が見える状態になってます。書棚は、収められた本のタイトルだけが一覧でき、書籍内容を見たければ本を取り出す、という構造になっています。ミュージアム、ライブラリと比較して、アーカイブズにおいてまず重要なのは、「どこに何が収められているのか」ということです。アーカイブズが持つ構造は基本的に「抽斗(ひきだし)」です。中に入れられる主なものは、本にもなっていない状態の「紙」など。ここで必要なのは、索引システムや、索引システムに代わる管理システムといったものです。その管理を専門としているのがアーキビストです。日本では司書としてのライブラリアンとアーキビストがきっちりと分業化されていないという問題も聞きますが、最近はアーキビストの数も増加しているようです。

これらが狭い意味でのアーカイブズですが、他にも様々なところで「アーカイブ」という言葉が使われるわけですね。例えばNHKは「アーカイブス」と称し、古い番組を系統立てて収集しています。なお、発音しにくいという理由により、NHKは独自の判断で濁点を抜いているそうです。あるいは「アーカイブ立国宣言」のように国策や政策の中で「アーカイブ」という言葉が使われる場面も増え、それに伴い言葉の意味も拡張しています。こうして拡張された先に、「ウェブ・アーカイブ」や「デジタル・アーカイブ」という言葉があるわけです。

MoMAの体制

(佐藤)
ここから、ニューヨーク近代美術館(MoMA)を例に挙げて、ミュージアムにおけるアーカイブズのあり方を見ていきましょう。MoMAは世界最初の同時代の美術を収集する美術館です。早い時期から、いわゆる絵画や彫刻以外に、デザイン、映画、写真、舞台芸術といった様々な分野のものを収集対象にしています。

佐藤守弘 スライド06

スクリーンショットはMoMAの公式ウェブサイト より。赤字の翻訳、茶色の枠は佐藤氏が付加(本画像以下同じ)。
[PDFで見る(4.69mb)]

まずMoMAの組織がどうなっているかを簡単に説明します。MoMAは「学芸部門」と「研究・教育部門」という二つの部門に分かれています。キュレーターを抱え、作品を直接管理しているのが、学芸部門。学芸部門には建築&デザイン、素描、映画、メディア&上演芸術、絵画&彫刻、写真、版画&絵入り本といった分野があります。目立つのはこの学芸部門ですが、MoMAには研究・教育部門もあり、アーカイブズはこちらが担当しています。

展覧会などの事業に比べてあまり表には出ませんが、研究・教育部門はその他にも講座、国際プログラム、小中学校の教員に向けたプログラムや所蔵歴調査、保存修復、企画などを手がけています。よく言われるのは、アメリカの美術館ではそれぞれの分野のプロフェッショナルがいて、お互いを尊重しながら独立して仕事をしている、ということ。つまり、コレクションを管理する部門と、また別でアーカイブズを管理する部門があるわけです。日本の美術館・博物館でここまで分業した体制が取れているところはなかなかないのではないかと思います。

MoMAのアーカイブズは「研究・教育部門」の「研究資源」のカテゴリにあります。MoMAのウェブサイトの「研究資源」のページでは「アーカイブズには、美術館の歴史に関係する第一次資料が収められています」と説明されています(※5)。対して、「コレクション」というページもあり、そこには「常に進化しているコレクションは、ほぼ20万点の近代美術の作品があり、現在7万3000点以上がネット上で閲覧できます」と説明があります(※6)。

※5)原文は「The Archives contain primary source materials related to the history of the Museum」(”Research Resources”.MoMA ウェブサイト.参照2017-05-05.)

※6)原文は「Today, MoMA’s evolving collection contains almost 200,000 works from around the world」そして「This website features more than 73,000 artworks」
(”About the Collection”.MoMA ウェブサイト.参照2017-05-05.)


佐藤 守弘 SATOW Morihiro
佐藤 守弘 SATOW Morihiro

京都精華大学デザイン学部教授。専門は芸術学、視覚文化論。近代における風景/トポグラフィの視覚文化研究、ポピュラー/ヴァナキュラー・イメージ研究など。単著に『トポグラフィの日本近代――江戸泥絵・横浜写真・芸術写真』(青弓社、2011年)、アーカイブに関連する著作として、「写真とアーカイブ――キャビネットのなかの世界」(原田健一、石井仁志編『懐かしさは未来とともにやってくる――地域映像アーカイブの理論と実際』学文社、2013年)、「産業資本主義の画像=言語――写真アーカイヴとセクーラ」(『PARASOPHIA京都国際現代芸術祭2015[公式カタログ]』、2015年)がある。

IN THE STUDIO:佐藤守弘の講義情報
http://d.hatena.ne.jp/satow_morihiro/

佐藤守弘の経歴/業績
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/
b-monkey/intro.html


コレクションとアーカイブズ

(佐藤)
ここで、今触れた「コレクション」と「アーカイブズ」の定義について整理してみたいと思います。MoMAのウェブサイトでは、MoMAのアーカイブズについて、「国際的に認められている近現代美術の研究センターです。アーカイブズでは、ほぼ90年にわたる美術館の、そして40年にわたるMoMA PS1(現代美術に特化した別館)の歴史記録、さらには芸術家、ギャラリー、ディーラー、美術史家、批評家などの個人的アーカイブズや論文を含むその他の20世紀、21世紀の美術史、文化史に関する一次資料文献を収集、保存、公開しています(※7)」と説明しています。基本的には紙の資料が対象になっています。

では「コレクション」とは一体何か? それは作品そのもの、ということになります。
ただ正確に言うと私は、コレクション≒作品ととらえています。ここで「なにが作品か」という美術史的・美術思想的な問題が出てきます。第1部で語られた裏面の書き込み(※8)をどのように考えるのか、という非常に重要な問題もここに含まれるでしょう。今回はその話には展開しませんが、研究者にとって刺激的な問いを投げかけられているように感じます。

ここまでは「アナログ」の世界の話です。

(佐藤)
そしてここからデジタルの話に入ります。MoMAのアーカイブズのページをクリックしてみます。アーカイブズのページは、ほぼ目次のようになっています(※9)。クリックすると、その資料がどういうものか、という情報にアクセスでき、実物は館に行き、要請することで見ることができます。キュレーターが書いた研究論文や、美術館の年報や、展覧会の図録、聞き書き、アーティストの作品制作に関する資料、従業員によるストの記録まであります。興味深いことに、銀行通帳もデジタル化しているみたいです。このように、作品の「外側」にあるものが記録された資料がアーカイブズに収められているのです。

(佐藤)
続いて、MoMAのウェブサイトのコレクションページを開くと、作品の写真、そして作品の解説、スペック、サイズなどを見ることができます。コレクションは作品そのものなので、厳密な意味でのアーカイブズではないかもしれません。ただ、作品そのものはコンピューターの中には入りません。作品の写真やそれに付随するデータなど、作品を別の情報で表したものが掲載されているという点においては、このページの内容は作品の「外側」でもあるわけです。ゆえにデジタル・アーカイブの一部として考えられる、ということも言えるのではないかと思います。

公開が進むデジタル・アーカイブ

(佐藤)
去年、MoMAが過去に行われたすべての展覧会の記録をデジタル公開したことが事件と言ってもいいほどの騒ぎになりました(※10)。1929年から現在に至るまで、約3,500の展覧会の記録や資料をオンラインで公開し、更新し続けています。初代館長であるアルフレッド・バーJr.が担当した「セザンヌ、ゴーギャン、スーラ、ゴッホ」展という最も古い展覧会から、今後開催予定のものまですべてオンライン上で公開されています。MoMAが保存している紙の資料の中から、第一弾としてこれらを公開したんだと思います。他の美術館も、様々な形でアーカイブズの公開に踏み切っています。

各展覧会の出品作は、「チェックリスト」と呼ばれる資料から、出品者の住所付きで、知ることができます。またプレスリリースでどのようにその展覧会を紹介していたのかも分かる。そしてこれらがPDFデータで全てダウンロードできます。近現代美術史の研究がどれほど楽になることでしょうか。

現在、MoMAのアーカイブズのページでは、アーティスト名でも検索ができるようになっています。例えばパブロ・ピカソの絵がどの展覧会に出たのかがすぐにわかります。また、ウィキペディアやロサンゼルスのゲティ財団との連携を取り、それらのサイトのリンクを設置することで、参照しやすくなっています。こうしたオンライン・アーカイブの機能や構造はよりよいものにつくり変えられていくと思います(※11)。

ここまでMoMAの事例を見てきましたが、デジタル・アーカイブの意義を考えると、全てを公開する必要はないわけです。MoMAでもごく一部を公開しているだけですが、これがMoMAの広報にどれほど貢献したことか。一方でメトロポリタン美術館のデジタル・アーカイブは完全にクローズドです(※12)。「これだけのものをアーカイブしているので、実際に館に来てください。研究者は申請してください」という方針ですが、それもひとつのやり方です。

一方で、アートやデザインの領域に収まらない、いわば「外側」にあるものなどは制作者がわからない場合もあります。それをどうやって扱うか、という問題も出てくるでしょう。

未来へのメッセージとしてのアーカイブズ

(佐藤)
みずのき美術館のデジタル・アーカイブについての記事を拝見すると、18,000点の所蔵作品全ての撮影・登録を目標とした「コレクションのデジタル化」を2016年の取り組みと位置付けています(※13)。恐らく今後は、絵画教室や関係者の日誌など、非常に重要な資料がアーカイブされていくでしょう。コレクションのデジタル化に比べると多少地味な感じはしますが、それらは特に研究者にとって非常に重要なものです。みずのきに関して言えば、関係するのは美術関係者だけではありません。福祉関係者、教育関係者、様々な人たちにとっても、重要なものになると思います。

ただ、そのデジタル・アーカイブを誰が使うかはまだ分かりません。むしろ分からないままつくるのもアーカイブズのあり方ではないかと思います。賛否両論あると思いますが、アーカイブズとはそもそも未来へのメッセージであるべきです。現在・未来の研究者、教育者、製作者のためにまずは資料を整理して保存し、さらにそれをアクセス可能な形にすることが先決ではないでしょうか。

(佐藤)
アール・ブリュットや美術教育のアーカイブ化はこれからどんどん進んで行くでしょう。その際、複数のアーカイブズがどのように繋がるのかを考えなければなりません。また、同様に重要になるのは、どこまでを公開するかというプライバシーの問題です。他にも、発表のためにつくられた作品ではないものを、むやみやたらに「アート」の名の元に公開してもいいのか、という問題もある。そういったケースでは「研究者には公開してもいい」というような線引きをすることが大事ですね。一方では、MoMAの例のように広報効果も見逃せません。こういった点などを押さえながら、デジタル・アーカイブを考えていかなければならないのかなと思います。以上です。

※7)原文は「The Museum of Modern Art Archives is an internationally recognized research center for modern and contemporary art. The Archives collects, preserves, and makes accessible nearly 90 years’ worth of the Museum’s historical records, 40 years’ worth of MoMA PS1 records, and other primary source documents concerning art and cultural history in the 20th and 21st centuries, including private archives and papers of artists, galleries, dealers, art historians, critics, and others. 」
(”Archives”.MoMA ウェブサイト.参照2017-05-05.)

※8)(みずのきの作品における)裏面の書き込みについては、第1部の内容を掲載した以下記事のp.10を参照。
中本真生 編集(2017).“みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~ トーク 第1部:デジタル・アーカイブのための画用紙作品撮影” p.10.AMeeT.参照2017-05-05.

※9)MoMA ウェブサイト内「Guides to the Archives’ Holdings」ページ「Administrative Records and Papers」参照
(”Archives’ Holdings”.MoMA ウェブサイト.参照2017-05-05.)

※10)”Exhibition history”.MoMA ウェブサイト.参照2017-05-05.

※11)MoMAは、展覧会のデータベースをGitHubというプログラムやデータを共有するサービスに公開している(https://github.com/MuseumofModernArt/exhibitions )。2017年1月には、Good, Form & Spectacleというロンドンのデザイン会社が、そのデータを利用して、MoMA Exhibition Spelunkerというウェブ・ページ(http://spelunker.moma.org )を作った。そこでは展覧会名や年月だけではなく、関わった人——出展作家やキュレーター——や部門別で展覧会を検索することができる。同ウェブ・ページはGood, Form & Spectacleが自ら申し出て制作したが、このようにミュージアム外部の人びとが自発的に協力して、インターフェイスを改善することができるのも、デジタル・アーカイブの利点であると考えることができるだろう。

※12)”Museum Archives”.メトロポリタン美術館ミュージアム ウェブサイト.参照2017-05-05.

※13)「デジタル・アーカイブの構築・運用については、デジタル・アーカイブ・システムを導入し、施設と絵画教室にまつわる年表を公開した2014年度を第一期、約700点の作品資料を登録した作品ページを新たに設けた2015年度を第二期、そして約18,000点の所蔵作品全ての撮影・登録を目標とする2016年度を第三期と定義している。」
(奥山理子[2016].“みずのき美術館 保存と記録の取り組み ―アール・ブリュット美術館初となる本格的な作品保管環境の整備とデジタル・アーカイブ事業” p.4参照.AMeeT.参照2017-05-05.)

トーク 第2部 会場風景
トーク 第2部 会場風景

榊原充大 発表
「デジタル・アーカイブの活用について」

(榊原)
榊原充大です。私は普段、建築や都市に関して困りごとをもつ行政、企業、施設から相談を受け、それを解決に結びつけていくというような仕事を、京都を拠点に行っています。

(榊原)
私がアーカイブの実践を考えるようになった一番大きなきっかけとして、2011年から現在まで奈良県は斑鳩で行っている、地域の記憶を収集することを目的とした事業があります。地域で建てられた住宅の悉皆調査(※14)を行った研究者から「その調査結果をどうしたらよいだろうか?」という相談をいただき、はじまった取り組みです。金沢大学に所属するその研究者と、地域の図書館との共同事業なのですが、今年で6年目になります。この事業については後ほど紹介します。

アーカイブの事例について調べると、総務省がデジタル・アーカイブとまちづくりという観点で整理している事例集(※15)をはじめ、どのような形でアーカイブがつくられたのか、どういう記録が集められているのかという資料が中心です。それがどのように使われているのか、どういうふうに使われることを想定し設計されたのかといった、いわゆる「活用」の観点から考えれば情報が乏しい。私の発表ではこの点について考えてみたいと思います。

アーカイブには多様なバリエーションがあるので、今回は佐藤さんにお話していただいたような美術館に紐付くアーカイブにとどまらず、「活用」をテーマに広い視野で事例をまとめました。今回はデジタル・アーカイブに限定してご紹介します。

「デジタル・アーカイブ」とは

(榊原)
まずは前提として、「デジタル・アーカイブ」の定義、意義を紹介したいと思います。
基本的に「アーカイブズ」という言葉が常に複数形で使われるということは佐藤さんのお話にもありました。一方で「アーカイブ」という言葉をある種比喩的に使うということも一般的になってきました。

では「デジタル・アーカイブ」とは何か。2005年に解散したデジタルアーカイブ推進評議会なる組織は「展示物等をデジタル化し保管したもの」と定義していたそうです(※16)。これは比較的ざっくりとした定義です。私が専門としている建築で言えば、日本建築学会が「デジタルアーカイブス」をつくっています(※17)。ここでは過去に刊行された学会の雑誌や資料などをオンラインで見ることができます。また、笠羽晴夫氏の「デジタルアーカイブ整備の近年の動向」という論考を見ると、「デジタルアーカイブは1990年代前半に始まり,最初はそのアピール性から美術,地域振興などに適用され,その後はゆるやかに,収蔵量や社会的なミッションという点で図書館や公文書館など本来アーカイブの充実を目指すべきところに,アーカイブ構築・運営の道具として,また公共利用者へのサービス拡大の道具として位置付けられ,進展してきた。(※18)」と説明がなされています。

オンラインマガジン『AMeeT』の中にデジタル・アーカイブに関する記事を掲載するカテゴリーがあります。そこに中原まり氏という、米国議会図書館司書であり建築アーキビストの方がデジタル・アーカイブの可能性について書いた記事があります。印象的だったのが、「私にとってのデジタル資料、特に建築に関するものは、原資料にたどり着くための便利な道具(ツール)に過ぎず、たとえ高画質のデジタル資料が提供されたにしても、それでは伝えきれない情報がアナログ資料に存在すると信じている(※19)」という指摘です。

中原氏のこの文章を読みながら、デジタル・アーカイブというのは「索引」のようなものではないかと考えるようになりました。デジタル・アーカイブを考えるうえで重要なのは、その「たどり着き方」をどのように魅力的にできるかということではないでしょう。デジタル・アーカイブを設計する際、ある資料を本当に必要としている人がいる、ということを前提にしてしまいがちですが、そういった人ばかり意識してしまうと、そうではない人にとってそのアーカイブが使いにくいもの、関係ないものになってしまう。しかし、それではもったいない。原資料への「たどり着き方」を魅力的にすることによって、デジタル・アーカイブの使い道をより広く展開していくことができるのではないか、と考えています。

(榊原)
繰り返しになりますが、デジタル・アーカイブに関する様々な研究は、「誰が」「どのようにして」「どのような」デジタル・アーカイブをつくったのか、という点に集中しているように感じます。もちろんこれらは重要な視点です。しかし一方で、デジタル・アーカイブの具体的なあり方を検証したり、その活用を実践したりする主体こそ不可欠なのではないかと思っています。

では、ここから活用という観点を軸に、いくつかの事例を紹介していきます。

デジタル・アーカイブの活用|斑鳩の記憶アーカイブ化事業

(榊原)
事例紹介のひとつ目は、先にも触れた、奈良県斑鳩での「斑鳩の記憶アーカイブ化事業」です。取り組みを進める中でどういう課題や可能性が見えてきたのかをお話します。

奈良県の斑鳩町は、法隆寺で有名です。逆に言うと、法隆寺があまりにも有名すぎて、訪れる人も住む人もその地域にある他の資源に意識が向かない、というのが課題です。事実、法隆寺の周りにある古くて魅力的な街並みがどんどん失われている、という状況があります。そんな中、当時京都大学にいた建築史の研究者の方が現地の建物を調査し、調査結果を分厚いファイルにまとめる作業を行いました。「その調査資料を活用をしたい」ということが最初の相談でした。

その研究者と話をするうちに、建物の資料のアーカイブをどうにかするというよりも、一軒一軒の建物が配置されたまちを知るための機会をつくることが必要ではないかと考えるようになりました。そして導き出したアイデアが、地域の人がお持ちの古い写真を集めてアーカイブ化する、というものです。過去を思い返すだけではなく、「過去を再構築する」ということがひとつのテーマになっています。具体的に私たちはワークショップのデザインとアーカイブシステムの構築を担っています。

ワークショップでは、地域の方々に写真を持ってきてもらい、その写真にまつわる当時の記憶を語ってもらいます。それを聞き取り、記録し、そしてその記録を「チエノワ・イカル」というアーカイブサイトにまとめています(※20)。

(榊原)
地域の古い写真を集めたデジタル・アーカイブは他の地域でも多くつくられているのですが、最初にキーワードを入れて検索するものが一般的です。ただ、自分の調べたいものが明確になっている研究者の方ならまだしも、そうでない方には語の選択自体が困難になってしまいます。その地域を知ってもらうためには、もっと「なんとなく」情報にアクセスできる方がいいのではないか。そう考えて、このサイトでは斑鳩の地図に置かれたピン、主要な10の道、そして写真に写っているもの(=キーワードを記したタグ)から、個々の資料にアクセスできるようになっています。

(榊原)
個々の資料ページでは、関連する資料やタグをクリックできるようにして、「行き止まり」のない回遊性を持たせています。これまでにワークショップを数回重ね、計200枚から300枚くらいの資料を蓄積しています。連携している地域の図書館のみなさんが、地域の様々な方にお願いをして写真を集めてくださっているおかげです。

(榊原)
前述のようにワークショップでは、撮影された当時の記憶や、写真に写っているものは何かといった、写真に添える「メタデータ」を引き出すためヒアリングをし、お話を整理しています。ヒアリングのために使用しているツールを「コメントシート」と呼んでいます。

(榊原)
そのワークショップの副産物のひとつとして、集めた資料をもとに「新聞」をつくりました。私たちは「斑鳩旧聞」と呼んでいるんですが、当時どういうことがあったのかを新聞調にまとめて発行する、というものです。デジタル・アーカイブをつくるための活動、そしてつくったあとの資料の活用法で様々なトライアルを重ねています。

※14)悉皆調査:調査しようとする事象の全数を調査する、という考え方。

※15)関東ICT推進NPO連絡協議会なる組織が平成20年度に「住民参加型のデジタルアーカイブ」をテーマに調査を行った結果をまとめた「デジタルアーカイブまちづくり事例集」
http://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/ai/npo/hokokusho/h210603.pdf

※16)渡邉英徳(2013).『データを紡いで社会につなぐ——デジタルアーカイブのつくり方』 p.154参照.講談社.

※17)日本建築学会図書館デジタルアーカイブス
http://www.aij.or.jp/da1/

※18)笠羽晴夫(2010).“第1章 第1節 デジタルアーカイブ整備の近年の動向”.笠羽晴夫・菅野育子・水嶋英治・米澤誠執筆『「文化・学術機関におけるデジタルアーカイブ等の運営に関する調査研究」報告書』.カレントアウェアネス・ポータル.参照2017-05-06.

※19)中原まり(2014).“建築デジタル・アーカイブの可能性” p.2参照.AMeeT.参照2017-05-06.

※20)斑鳩の記憶データベース Chienowa Ikaru
http://archive-ikaruga.org/


榊原 充大 SAKAKIBARA Mitsuhiro
榊原 充大 SAKAKIBARA Mitsuhiro

1984年愛知県生まれ。2007年神戸大学文学部人文学科芸術学専修卒業。建築や都市に関する調査・取材・執筆、物件活用提案、ディレクション、アーカイブシステムの構築など、編集を軸にした事業を行う。2008年建築リサーチ組織RADを共同で開始。2016年から愛知県岡崎市のまちづくり「おとがわプロジェクト」プロモーションディレクター。2014年度から京都精華大学非常勤講師、2016年度から京都建築大学校非常勤講師。制作書籍に『LOG/OUT magazine ver.1.1』(2016)。


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

(榊原)
先ほど佐藤先生からプライバシーや、公開非公開の問題に関する話がありましたが、この斑鳩の記憶アーカイブ化事業では「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(※21)」という仕組みを使って、なるべく二次利用がしやすいようにしています。ワークショップを行う際に集まっていただいた高齢者の方々にも、「クリエイティブ・コモンズとは何か」というレクチャーを行っています。毎回、皆さん熱心にメモを取っておられ、その姿から強い関心を感じます。

(榊原)
「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」というのは、作者が「この条件を守れば私の作品を使っても良いですよ」とルールを定めて意思表示するための仕組みです。「公開して良いけど商業利用はダメだよ」とか、「商業利用しても良いけど加工しちゃダメだよ」など、いくつか条件の組み合わせがあります。例えばFlickrという、オンライン写真共有サービスがありますが、同サービスでは、クリエイティブ・コモンズのライセンスが付与されている写真だけを検索することもできます(※22)。だんだんこの仕組みも一般に浸透してきたなと思います。

権利の問題をどのようにクリアにしていくのかは、オンラインでアーカイブをつくっていく上で極めて重要な問題です。例えば、科学技術に関する論考がオンラインで読める「J-STAGE」というサービス(※23)。すでにかなりの資料が公開されていますが、古いものに関しては著作権がどうなっているのか分からない、著作権者と連絡がとれない、といった問題もあるそうです。

許諾が得られないことでアーカイブをオープンにできないという問題に対して、J-STAGEがどのような対応をしたのか、時実象一氏の『デジタル・アーカイブの最前線』から引くと、「過去の論文についても著作権を学会に委譲してもらうこととし、申し出のない限り了承されたものとみなす(オプト・アウト)という便法をとった。」とのこと。その後に続く、「学術論文の場合、研究者にとっては公開されることこそ重要であるから、この方法でも苦情はほとんどなかったようである。(※24)」という指摘が印象的でした。

デジタル・アーカイブの活用|ヒロシマアーカイブ

(榊原)
続いてご紹介するのは、2011年に公開された「ヒロシマアーカイブ」です。1945年広島で戦争被害に遭われた方の記憶をGoogle earth(※25)上に落とし込むかたちで蓄積したアーカイブです。これを作ったのが「情報アーキテクト」を名乗る渡邉英徳氏とその研究室の方々です。

渡邉氏が作成したヒロシマ・アーカイブのプロモーションムービー

(榊原)
映像を見ていただくと分かりますが、「ヒロシマアーカイブ」にアクセスすると鳥瞰する広島の地図上に顔写真と一体になったピンが立っています。このピンをクリックすると情報がポップアップで出てきます。動画もうまく活用していて、当時の記憶を本人が語っている映像をそのまま埋め込んで公開しています。

なぜGoogle earthを活用しているか、について、渡邉氏による『データを紡いで社会につなぐ——デジタルアーカイブのつくり方』という書籍の中でその理由が語られています。曰く、「ユーザは、仮想世界に再現された「もうひとつの地球」を空間体験します」そして「この空間体験には、ことばを超える強い説得力があります」と(※26)。そのためにGoogle earthを使っている、というわけです。現実世界と仮想世界とをつなぐツールとして、アーカイブを使っていると言い換えることができると思います。

この取り組みが興味深いのは、アーカイブに収録する記憶を採集するためのヒアリングが、教育プログラムに取り入れられているということです。渡邉研究室に在籍する学生たちがガイドになり、高校生が当時を知る方にヒアリングを行う。その取り組みは、アーカイブのためだけでなく、教育のためにもなっているのです。この取り組みは実際に新聞などでも紹介されています(※27)。

教育への活用には他にも、様々な方法があります。例えば、先ほど紹介した中原まり氏の論考では、米国国会図書館による、教育者にレッスン・プランを開発してもらうためのワークショップが紹介されています(※28)。

あたらしいアーカイブのかたち ―アーカイブが場を生み出す

(榊原)
ここまで、デジタル・アーカイブの事例を中心に紹介してきましたが、最後に、比喩的な意味で「アーカイブ」を捉え、ひとつの「場」としてのアーカイブ作りを実践している事例を紹介します。

例えば、remo(NPO法人記録と表現とメディアのための組織)というNPOの取り組みに「AHA!(Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ)」プロジェクトというものがあります(※29)。ほぼ死蔵に近い形で各家庭に眠っている、8ミリカメラにて録画された映像を持ちよってみんなで鑑賞しながらその映像について語るという内容です。ウェブサイトでは、「フィルムに残された映像を人びとが共に観ること―そのことによって、記録者以外の別の誰かの記憶までが刺激され、よみがえり、語られるという現象を、アーカイブの一つのあり方として捉えようとしています。(※30)」と説明しています。

同じように「場」をつくることでアーカイブの新しいかたちを想像させてくれる「ウィック・キュリオシティ・ショップ」というプロジェクトがあります。東ロンドンにハックニーウィックというエリアがあるのですが、そこではクリエイターたちがコミュニティをつくっています。同プロジェクトでは、ハックニーウィックという場所にまつわるプロダクトや記憶、オーラルヒストリーなどを収集しています。public works(※31)という、建築家を含むクリエイター集団が主導しているのですが、オンラインアーカイブと並行して、地域にポップアップショップ(※32)のような物理的な「場所」をつくっています(※33)。

アーカイブの活用を考えたときに、そのアーカイブがひとつの場になって、多様な人たちが関与し、それぞれがそれぞれなりに活用していくことは望ましい状態だといえるでしょう。こうした取り組みはこれからもっと発明されていくべきなのではないか、と考えています。

※21)クリエイティブ・コモンズ・ライセンス:クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのウェブサイトによれば、「インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのツール」とある。このライセンスを提供している国際的非営利組織とそのプロジェクトを「クリエイティブ・コモンズ」と呼ぶ。
“クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは” .クリエイティブ・コモンズ・ジャパン ウェブサイト.参照2017-05-06.)

※22)数多くのユーザーによる写真が日々アップロードされているFlickrは、それ自体ひとつのデジタル・アーカイブととらえることもできるだろう。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスが付与された写真も21万点を超えている。
https://www.flickr.com/search/?text=&license=
2%2C3%2C4%2C5%2C6%2C9

※23)J-STAGE
http://www.jstage.jst.go.jp/

※24)時実象一 (2015) .『デジタル・アーカイブの最前線——知識・文化・感性を消滅させないたいめに』 p.150-p.152参照.講談社

※25)Google Earth:2005年からGoogleが無料で配布しているオンラインサービス。渡邉氏はこれを「三次元のデジタル地球儀」と呼んでいる。
https://www.google.com/earth/

※26)渡邉英徳(2014).『データを紡いで社会につなぐ——デジタルアーカイブのつくり方』 p.88-p.91参照.講談社.

※27)例えば、2014年6月23日の中国新聞朝刊に掲載された記事「デジタル活用 被爆継承 「ヒロシマ・アーカイブ」 広島女学院中高生ら データの登録体験」など。同記事は以下より読むことができる。
“デジタル活用 被爆継承 「ヒロシマ・アーカイブ」 広島女学院中高生ら データの登録体験” .ヒロシマ平和メディアセンター.参照2017-05-06.

※28)「毎年夏に全米から教師40名が首都ワシントンに位置する米国議会図書館に集まり、実際の展覧会や原資料を鑑賞。それらのデジタル資料を基に各自レッスン・プランを作る。その後教師は地元に戻り、40名の教師を対象に自分が習ったことを伝達する。そして受講者40名がまた新たに各々のレッスン・プランを作る。最終的には1,600のレッスン・プランが作られることになる。米国議会図書館の専門家によって優れたレッスン・プランと判断されたものは、米国議会図書館のウェッブサイトに掲載され、全国の教師が授業に使用できるように工夫されている。」
(中原まり[2014].“建築デジタル・アーカイブの可能性” p.6参照.AMeeT.参照2017-05-06.)

※29)remoウェブサイト「AHA!」プロジェクト
http://www.remo.or.jp/ja/project/aha/

※30) remoウェブサイト内「AHA!プロジェクト」ページ「カンバセーション_ピース:かたちを(た)もたない記録ー小西紀行+AHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]」参照
“「AHA!」プロジェクト”.remoウェブサイト.参照2017-05-07.)

※31)public works:イギリスを拠点に活動を行う、建築家、アーティストらからなる非営利組織。パブリックスペースに焦点を当てた活動を行う。
http://www.publicworksgroup.net/

※32)ポップアップショップ:空き店舗に期間限定で生まれる店舗のこと。

※33)ウィック・キュリオシティ・ショップ ウェブサイト
http://wickcuriosityshop.net/

トーク 第2部 会場風景
トーク 第2部 会場風景

クロストーク

(奥山)
ありがとうございました。今日集まってくださっている人の中には、アーカイブをつくってみたいと思ったけど途中で諦めてしまった、という方、勤めている施設の中でやってみようと話題には挙がったけど「結局大変だよね」と着手すらできなかった、という方もおられるでしょう。このクロストークは皆さんが「大変な課題だけど取り組んでみたい」と感じていただけるような内容にできればと思います。

(佐藤)
実現できなかった理由、諦めてしまう理由に、費用対効果がすぐに出ない、ということがひとつあると思いますね。そういう成果がすぐに見えないところになかなかお金がかけられないご時勢になってきている。これは教育も同じですが。

(奥山)
実際にアーカイブを制作・公開していく中で、どのような意識を持つべきか。それについて佐藤さん、榊原さんはどのように考えておられますか?

(佐藤)
価値の問題ですね。まず言いたいのは、みずのきの作品はひとつの閉じられた業界で終わるものではない、ということ。現状では「アール・ブリュット」としてとらえられることが多いと思いますが、そういった切り口ばかりでとらえられてしまうことに私は懸念を抱いています。
例えば、なぜ戦後の学校教育で版画教育があれほど進められたのかを調べてみると、作文教育や政治的な動きなど様々なことが関係していて面白い。少なくともみずのきのアーカイブにおいては、いわゆる芸術的価値だけで見てはいけなくて、教育史的、福祉史的な価値という視点も重要だと思います。ゆえに様々な尺度を持たないといけません。
みずのきの場合、美術館側の実体験という尺度の他に、教育史、福祉史の研究者などをオブザーバーとして入れることで複数の尺度を持たせるのがいいと思います。そのうえで、ある情報を公開するのか公開しないのかにも気を遣わなければなりません。大変ですが、波及効果は期待できる。MoMAが行った展覧会の記録の公開ほど派手にはなりませんが、後々重要になると思います。

(榊原)
アーカイブをつくったり公開したりする際に「どういう人が使うのか」という視点が重要になってくると思います。先ほども佐藤先生から専門家との連携の重要さが指摘されましたが、複数の専門家が利用者側の視点を持ちながらオブザーバーとしてアーカイブづくりや管理へのアドバイスをするという枠組みは意義があると私も思います。

(奥山)
アーカイブの必要性を感じた当初、みずのきの評価や価値付けを、私たち自身が主体的にできる状態にはなかったんです。そもそもみずのきは障害者支援施設ですからバックグラウンドが美術ではありませんし、かといって福祉的な側面から作品を伝えたいわけではない。でも、作品も社会的状況によって評価が揺れ動いてしまうものなんですね。作品そのものが主体を持たない存在というか...。

(佐藤)
近代的な芸術概念において、芸術は主体の表現という捉えられ方をするようになりました。ファン・ゴッホあたりを想像すればいいと思います。でも、みずのきの人たちもそうだし、遺影写真、写真館の写真、記録写真などは、そういう「芸術における近代的な意味での主体」の枠には入らないところに制作の主体が存在します。それらは芸術作品という概念自体も脅かすものでしょう。だからこそアール・ブリュットという概念がよくも悪くも重要なのではないでしょうか。こういった理由があるので、「アート」のみに縛られないほうがいいのではないかなと思います。

(奥山)
みずのきのアーカイブに関して言えば、「これがアール・ブリュットなのかそうではないのか」ということを考えながらアーカイブするのではなく、あくまでも作品情報などを収めることで、経てきた歴史そのものを収めていく、という作業に集中しています。作業過程に分析を持ち込まないように心がけており、そうして結果的にできた総体、つまり「アーカイブズ」にこそ、研究者などにとって非常に豊かな情報素材が揃っているということになると思います。そのときには、私たちみずのき美術館の職員が研究者という立場になる場合もあることでしょう。
また様々な福祉施設では、毎日利用者と呼ばれる方々が絵を描いたり、陶芸をしたり、その他いろんな活動をしています。そうした日々更新されていく蓄積をどう考えるかに関して、榊原さんが事例に出してくださったようなプロジェクト型の取り組みは、今日訪れた方にとってもヒントになるんじゃないかなと思うのですが。

(榊原)
色々と調べながら思ったのは、アーカイブをつくることはもちろん重要だけれども、一方でアーカイブという考え方を広げることも重要だな、ということです。例えば最後に紹介した、「AHA!」プロジェクトはしっかり構築された「アーカイブズ」ではありません。でも物理的な場所があることによって、そこに人が集って、そこで「こういうことがあったんだよ」という話が生まれる。その場のあり方自体を魅力的なものととらえたり、未来のためのより有意義な状況ととらえることも必要だなと思ったんです。そう考えた時、アーカイブは何のためにつくるのか、という視点が必要であり、一方で佐藤さんが発表の最後におっしゃったように、具体的な活用の仕方と離れたところにもアーカイブの価値があると考えることも重要ではないかと。

(佐藤)
その時重要になるのはアーカイブズへのアクセスの仕方ですよね。資料へアクセスするための「索引付け」は重要であり、また難しくもある。現代的に言うと、SNSで使われる「ハッシュタグ(※34)」のように、利用者自身が「タグ」を追加していくといった索引付けの仕方は重要になってくるでしょう。さらにアクセスに関するもう一つの課題として、リテラシーの問題がある。アーカイブズを使い慣れている人とそうでない人のリテラシーの差は大きい。だからこそ、どのようなアクセス可能性を確保できるのかというデザインがすごく重要になります。でもまずはやらなきゃはじまらないところもあります。

(奥山)
きっとアーカイブを公開してみると「ここは足りてなかった」ということが見えてくるんでしょうね。様々な分野に関わっている方々の意見を取り入れながら運用し、それらの問題を解決していくことが大事なのかなと思います。利用者の方たちが描いた絵を、作品として取り扱う場合、第三者、とりわけ美術関係者に作品が評価されることで初めて、「作品を制作できる施設」としても美術関係者に評価され、その結果、支援現場やその周囲の意識も変化するということが起きています。
しかし「制作現場」と「支援現場」は必ずしもイコールではありません。また本来「作品」と「制作環境」は二対一体で評価されるものでもないはずで、それぞれが独立して価値付けできる土壌が整っているべきです。アーカイブは、実は展覧会で発表されていない時間こそ価値に溢れている、ということに気づくきっかけになるんじゃないかなと思います。

(佐藤)
だから絵画教室の歴史にもアクセスしたいし、みずのきに関する新たな物語を読みたい気がするんですよね。言い換えればそれは「資料から再構成されたみずのきの絵画教室」とも言うことができる。それぞれのミュージアムは成り立ちもそれぞれに異なっているものですからね。

(奥山)
現場から伝えられる情報や資料は膨大であり多様で、それが現場のリアリティに即した形で蓄積されると、研究者の方も全く想像していなかった要素の中で作品が生まれていた、という発見があるかもしれません。

※34)ハッシュタグ:オンライン上、とりわけtwitterやFacebook、Instagramといったミニブログやソーシャルネットワーキングサービス上でのやりとりに使われる、キーワードの前に「#」をつけたタグ。これによって同一のハッシュタグが付与された情報をグルーピングすることができる。

トーク 第2部 会場風景
トーク 第2部 会場風景

(佐藤)
突然ですみませんが、ここで、もし第2部の内容について、第1部でお話いただいた中原さん、石原さんからご感想などあればぜひお願いしたいのですが。

(石原)
佐藤さんがお話しされた価値付けについての問題は重要だと思います。「アウトサイダーアート」という言葉に対し、僕や中原先生は、美術大学で美術を教えているという意味で「インサイダー」と言えます。自分ではそうありたくはない、とは思うんですが、社会的な位置づけとしてどうしてもそうなってしまいます。そうした一方向からの価値付けみたいなものからどう逃れるか、というのは課題だと思っています。
今回、撮影の作業をしていく中で大量に絵を見ましたが、そうしていると「作品」や「作家」というラベルが剥がれていくというか、目の前にある絵自体が「見えてくる」という感覚を持てる時があるんです。それが作業の中で一番面白いことだったんじゃないかな。「現代美術」であれ、「アール・ブリュット」であれ、業界の慣習から分類がなされてしまうものですが、そういったラベルをどう剥がしていけるか。そしてそれを剥がした状態でそのものが見えてくるということが、面白いなと思うところです。

(奥山)
中原さんはいかがでしょうか。

(中原)
その対象をどのように紹介するかによって「どう見えるか」「どう価値付けるか」という色付けがされてしまいますよね。本当は立場が違えばどういうふうに見えるかなんて変わってしまう。社会情勢に置き換えて考えてみると、「この国から見るとこう見える」ということが、別の国からの視点だと全く違って見えるということもある。ある社会情勢の話をする前に、そういった話をするために必要な資料というものがあるわけです。その資料を収集する過程が飛ばされ、適当に集められた資料を基に、適当な推論が語られるのが一番危険だと僕は思うんです。作品の話に戻りますが、作品そのものや、その作品に関して交わされたであろうメモなどがいかに大切に保管されているかが重要ですよね。その状況がなければ、そもそも作品や資料を撮影したり整理したりすること自体が不可能になってしまいます。我が身を振り返ってみても、保管していくことはすごく難しい。でもそれなくして次のことは考えられません。撮影する時も、「こういう見方で撮影しなければ」ではなくて、そこを離れて「まず撮ってしまう」「資料として残せる状態にする」ということを意識していました。
ちなみに僕は今、Gallery Nomartで2歳から小学校6年生ぐらいまでに描いた作品をそのまま展示しています。この展示では、僕という個人のことだけではなく、60年代から70年代の子供がどうやって何を描いて、どう成長しているか、を知ることができるわけです。色付けをしてから眺めるのではなく、まずそれを目にしてからどう考えるか、という接し方をする方がいいのかなと思います。

(奥山)
ありがとうございます。私たちもアーカイブに取り組み始めて、普段のスタンスとは違う立ち位置を持てることが安心感に繋がりました。それを経て、みずのきの絵に向き合う自信が育まれていると思います。
これからデジタル・アーカイブを進めていく中で、課題が見えてきた時は、今日ご登壇いただいた方々と一緒に考えて行きたいと思います。また今日来てくださった方々が何か始められた時は、それを共有していただけると幸いです。アーカイブやデジタル・アーカイブといった分野が知られるようになり、活動背景の異なる様々なところで取り組みが生まれていけばいいなと思います。

トーク 第2部 会場風景
トーク 第2部 会場風景

みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~
トーク 第2部:価値と活用という視点で見るアーカイブ





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