13, Mar 2017

みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~
トーク 第1部:デジタル・アーカイブのための画用紙作品撮影

2017年1月29日(日)にみずのき美術館にて開催されたレクチャー&トークイベント「みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~」。本記事では同イベントのトーク 第1部の内容を掲載する。第1部のスピーカーはみずのき美術館のデジタル・アーカイブ事業にて、画用紙作品の撮影を担った中原浩大氏(美術家/京都市立芸術大学教授)と石原友明氏(美術家/京都市立芸術大学教授)。作品撮影について、経緯から、撮影環境、撮影時のルール、手順などを事細かに伝える内容となっている。

編集:中本 真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

トークイベント撮影:表 恒匡

助成:一般財団法人 ニッシャ印刷文化振興財団、日本財団(五十音順)

協力:みずのき美術館

トーク 第一部 会場風景

トーク 第一部 会場風景

2017年1月29日(日)にみずのき美術館にて開催された「みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~」。
同イベントは、アール・ブリュット(※1)美術館初となる本格的な作品保管環境の整備とデジタル・アーカイブ(※2)事業に取り組む(※3)みずのき美術館が、主にアール・ブリュットや、障害がある人によるアートに携わる福祉施設関係者に向けて企画したレクチャー&トークイベントだ。デジタル・アーカイブ事業の過程を共有することにより、日頃から同じ課題を抱えている方々に役立ててもらうこと、アーカイブの定義や意義を丁寧に伝えることで、アーカイブについて理解を深めることなどを目的に企画された。

午後の部ではレクチャー、午前の部ではトークイベントが開催されたが、本記事では午後の部として開催されたトーク 第1部の内容を掲載する。第1部のスピーカーは、所蔵作品のうち画用紙作品の撮影を担った中原浩大氏(美術家/京都市立芸術大学教授)と石原友明氏(美術家/京都市立芸術大学教授)。作品撮影について、経緯から、撮影環境、撮影時のルール、手順などを事細かに伝える内容となっている。

視覚文化研究者の佐藤守弘氏(京都精華大学教授)と建築家でリサーチャーの榊原充大氏が登壇し、それぞれの見地から、アーカイブの定義や意義などについて語った第2部の記事は3月末公開予定。

※1)第2次世界大戦後、価値観の再編成が行われる中、フランスの芸術家ジャン・デュビュッフェによりつくられた言葉。日本語に訳される場合には、「生(き)の美術」「生(なま)の美術」とされることが多い。伝統的な美術教育を受けていない作り手によって制作されるそれらの作品は、美術史的な枠組みでは解釈し尽くすことができない。イギリスの美術史家ロジャー・カーディナルは「アウトサイダー・アート (outsider art)」と訳している。日本において、アール・ブリュットという言葉はしばしば「知的障害者が作った芸術」と誤解されることがある。

※2)デジタルアーカイブ(英語:digital archive)とは、博物館・美術館・公文書館や図書館の収蔵品を始め有形・無形の文化資源(文化資材・文化的財)等をデジタル化して記録保存を行うこと。(「デジタルアーカイブ」 2017年2月26日 (日) 3:00 UTC 『ウィキペディア日本語版』)

※3)みずのきの作品保管環境の整備とデジタル・アーカイブ事業の取り組みについては、以下記事参照。
http://www.ameet.jp/digital-archives/856/#page_tabs=0

イベント情報

みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~

開催日: 2017年1月29日(日)
会 場: みずのき美術館
タイム
スケジュール:

午前の部
10:00-12:00 須之内元洋氏によるレクチャー

午後の部
13:30-13:45 みずのきアーカイブの説明
13:45-14:45 第1部/中原浩大氏、石原友明氏
14:45-15:00 休憩
15:00-16:15 第2部/佐藤守弘氏、榊原充大氏

料 金: 1,000円(入館料含む)
主 催: みずのき美術館
助 成: 日本財団
WEBサイト: http://www.mizunoki-museum.org/digitalarchive/

みずのき美術館
MIZUNOKI MUSEUM of ART
みずのき美術館<br />MIZUNOKI MUSEUM of ART

障害者支援施設みずのきで、創立5年目の1964年に始まったみずのき絵画教室の作品を所属作品とし、2012年、京都府亀岡市に開館。
絵画教室で生まれた作品の保存・研究、アール・ブリュットの考察、地域社会に開かれたプロジェクト型の企画の3つを柱に、数多くの展覧会や企画を展開している。

みずのき美術館WEBサイト
http://www.mizunoki-museum.org/


スピーカー:中原 浩大(美術家/京都市立芸術大学教授)、石原 友明(美術家/京都市立芸術大学教授)

進行:奥山 理子(みずのき美術館)

記事内で背景がグレーのテキスト及び、本注釈以降、向かって左に掲載している画像は、当日スクリーンに投影された資料です。

1. 経緯と保存状態

(奥山)
早速ですが、目標撮影枚数が10,000点を超える、画用紙作品の撮影を担ってくださっている、中原浩大さんと石原友明さんをご紹介させていただきます。どういった経緯で撮影が始まり、どのように進行され、どのような経過があったかを、お二方にお話していただきます。よろしくお願いします。
私が中原さんと出会ったのは、2014年にみずのき美術館で開催したTURN展(※4)のときです。日比野克彦さんの監修で、アール・ブリュット美術館4館が行ったこの展覧会に、出品者のお一人として参加していただきました。TURN展に展示した作品をお返しする日程を調整する中で、私から「せっかくだから作品返却の際に、ついでにみずのきの絵画作品も見ていただけたら」というご提案をしました。そして作品返却の当日、中原さんにみずのきにお越しいただき、「こんな作品たちがあるんですよ」とご紹介したことが、今回の撮影をご依頼させていただいたきっかけです。

(中原)
当初は「施設内の屋根裏スペースにある旧収蔵庫に収蔵されている作品を、新収蔵庫に引っ越しするので、そのお手伝いをしませんか」という話でした。僕は「旧収蔵庫に収められている作品を運び、運ぶときに作品を見せてもらえる」というようなことをイメージしていました。「これは楽しいことが待っているぞ」というのが最初の印象で、実は撮影するという話はそのときにはまだありませんでした。これが今話に出た、屋根裏スペースにあった旧収蔵庫の写真です。

みずのきの施設内の屋根裏スペースにあった旧収蔵庫。
みずのきの施設内の屋根裏スペースにあった旧収蔵庫。

みずのきの施設内の屋根裏スペースにあった旧収蔵庫。

(中原)
これらの写真は、最初にみずのきに訪れたときにではなく、もう少し話が進んで、「一度現状を見せてほしい」ということで改めて伺った際に撮影しました。すぐ上に屋根があるような場所にこのような状態で作品が収められていました。とはいえ、ちゃんと保管されているというのが第一印象でした。

(石原)
すごくよく整理されていると思いました。

(中原)
今回撮影させていただいた画用紙作品は、プラスチックのコンテナに入っていました。

画用紙作品が収納されたプラスチックのコンテナ。

画用紙作品が収納されたプラスチックのコンテナ。

(中原)
いつ頃からこのように収納されているんですか。

(奥山)
2002年、岡山の林原美術館にて展覧会(※5)を行った際に、準備の一環で整理してからです。

(中原)
絵画教室だけでなく絵画クラブ(※6)で描かれた作品も、同じ状態でコンテナに入っていました。コンテナの側面には、絵を描いた方のお名前や作品のサイズなどがわかるようにラベルが貼ってあります。

コンテナにはラベル貼られている。写真に写っている2つのコンテナには小笹逸男氏の作品が収められている。

コンテナにはラベル貼られている。
写真に写っている2つのコンテナには小笹逸男氏の作品が収められている。

(中原)
なかなかこんなふうにきちんと整理されていないですよね。

(石原)
撮影するうえで、すごく助かりました。

(中原)
さらにすごいと思ったのは、作品の裏面にナンバリングが入っていることです。これが画用紙作品の裏に書かれたナンバリングです。

画用紙作品の裏に書かれたナンバリング。

画用紙作品の裏に書かれたナンバリング。

(中原)
これも2002年に整理した際に書き込んだものですか。

(奥山)
そうです。

(中原)
HTが作者のイニシャル、4がHTの通し番号、Dがドローイング、8が八つ切りを意味します。
コンテナを開けると作品と作品の間にグラシン紙(※7)が挟んであります。

コンテナに収納された作品。作品の間にはグラシン紙が挟んである。

コンテナに収納された作品。作品の間にはグラシン紙が挟んである。

(中原)
続いてこれが作品の引越し先の新収蔵庫です。この写真は内装を変える前ですね。

みずのきの施設にある新収蔵庫(2016年4月撮影)。

みずのきの施設にある新収蔵庫(2016年4月撮影)。

(奥山)
2012年に美術館が開館すると同時に、施設のリノベーションを行いました。その際、いずれ新収蔵庫として利用しようと作ったスペースです。

(中原)
こうして収蔵庫や作品を見せていただく中で、「全ては難しいけれど、一部であれば作品の撮影に協力できるかもしれない」という話になっていきました。大きく分けて、画用紙に描かれたドローイング類と、それ以外のパネルやキャンバスなどに描かれた大きい作品があるということがわかったのですが、大きい作品を移動して撮るというのはなかなか難しい。しかし、画用紙サイズであれば、コンテナに入れたまま比較的容易に持ち運びができます。そこで、対象を画用紙作品に限定し、僕が勤めている京都市立芸術大学(以下、京都芸大)に撮影セットを組んで、適宜何箱かずつ大学まで運びながら撮影をするということになったんです。

※4)アール・ブリュット作品を展示する全国の美術館4館による初めての合同企画展。日比野克彦氏が監修を務め、みずのき美術館の展示では、中原浩大氏他15組が展示した。
展覧会情報:日本財団アール・ブリュット美術館合同企画展2014-2015『TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)』 2014年11月8日(土) - 2015年1月12日(月・祝)/みずのき美術館(京都) 2015年2月1日(日) - 3月29日(日)/鞆の津ミュージアム(広島) 2015年4月18日(土)- 6月28日(日)/はじまりの美術館(福島) 2015年7月12日(日)- 9月23日(水・祝)/藁工ミュージアム(高知)
http://artbrut-nf.info/

※5)林原共済会が「希望の星」と題した国際芸術祭の第一弾として開催した特別展。
展覧会情報:『みずのきの絵画-鶏小屋からの出発-』 2003年9月21日~11月24日
林原美術館(岡山) 監修:西村陽平

※6)みずのきで1964年から2001年に開催した入所者を対象とした絵画活動のうち、選抜メンバーによる時間を「絵画教室」、より余暇活動的な時間を「絵画クラブ」と分類している。

※7)グラシン紙は「透明度が高く、光沢があり、滑らかである」「耐油性・耐水性がある」(「グラシン」 2017年2月21日 (日) 23:17 UTC 『ウィキペディア日本語版』)といった性質を持っており、包装紙として利用されることも多い。


中原 浩大 NAKAHARA Kodai
中原 浩大 NAKAHARA Kodai

京都市立芸術大学教授。1961年岡山県生まれ。同大学でのテーマは、現代の社会における芸術活動の“Another Model”についての彫刻領域及び脱領域的アプローチによる制作と研究。1996-1997年、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに滞在し、「人間形成に関わる芸術の可能性」についての調査を行う。
主な共同研究に、「微小重力環境のライナスの毛布」(共同研究:AAS 宇宙への芸術的アプローチ、2001~2003年)、「盲目のクライマー/ライナスの散歩」(共同研究:Creative Engagement、2009~2011年)など。主な個展に、1990年『Homage LEGO age』(Heineken Village、東京)、2012年『中原浩大 Drawings 1986-2012:コーちゃんは、ゴギガ?』(伊丹市立美術館、兵庫)、2013年『中原浩大展 自己模倣』(岡山県立美術館、岡山)など。

京都市立芸術大学 教員紹介ページ
http://www.kcua.ac.jp/professors/nakahara-kodai/


石原 友明 ISHIHARA Tomoaki
石原 友明 ISHIHARA Tomoaki

京都市立芸術大学教授、芸術資源研究センター所長。1959年大阪府生まれ。
主な個展に2016年『拡張子と鉱物と私。』(MEM、東京)、2014年『透明人間から抜け落ちた髪の透明さ』(MEM、東京)、2004年『i [the imaginary number]』(西宮大谷記念美術館)、1998年『美術館へのパッサージュ』(栃木県立美術館)など。主なグループ展に、2010年『Trouble in Paradise-生存のエシックス』(京都国立近代美術館)、2006年『Rapt! - 20 Contemporary Artists from Japan』(モナシュ大学美術館、メルボルン)、1992年『彫刻の遠心力』(国立国際美術館、大阪)など。

京都市立芸術大学芸術資源研究センター
http://www.kcua.ac.jp/arc/


2. 特別研究助成の申請

(石原)
これは学内の書類です。

特別研究助成の申請書(左:1ページ目 右:2ページ目)。

特別研究助成の申請書(左:1ページ目 右:2ページ目)。

(中原)
京都芸大には学内の特別研究に充てられる予算があるのですが、それを利用しようという話になりました。というのも、画用紙作品だけでもかなりの枚数があるので、少人数では難しいだろうと。主に大学院生たちに協力してもらいながらということになれば、完全なボランティアということではなく、それなりの報酬が出せる形をとりたい。それならばということで申請書を書きました。

(石原)
ボランティアで長期間拘束するというのはなかなか難しい。この作業をすることで学生がアルバイトを休んでも生活が成り立つような、最低限のお金を確保しようということで、研究費を申請したわけです。

(中原)
みずのきのデジタル・アーカイブ事業全体や、作品の保管環境の改善に対してということではなく、デジタル・アーカイブに向けての作品撮影をお手伝いするということに絞って申請をしました。
研究として考えるならば、通常は考察を加えたりしなければいけないんですけど、「撮影の協力に限定したい」と。この作品はどういう位置付けができるのか、どういう見方ができるかというのはまた別の機会に取り組んでもらって、今回は作業をお手伝いするだけということにしました。申請書にはそういうことが書いてあります。
コンテナのまま作品を大学に持ってきてデジタルカメラで撮影し、撮影したデータをそのままの状態でハードディスクに保存、ハードディスクに入れた状態でみずのきにお渡しする。ただし、大学の特別研究として撮影を行ったので、データのコピーをとって、大学の方でもシェアさせてもらうということになりました。

(奥山)
当初、撮影のための費用をじゅうぶん予算に組み込んでいなかったんです。なので中原さんや石原さんには、時間があるときに来ていただいて、お手伝いいただくくらいのことしか考えていませんでした。でも一つひとつ考えていくと、色々やることが多く、人手と時間がかかることがわかり、このような形で助成を申請いただけたことは、とてもありがたかったです。

(中原)
なんとか助成がとれまして、学内で撮影を行うことになったのですが、学内には撮影専用のスペースがありません。私が教えている彫刻専攻の博士課程の立体教室が、かなり広いスペースなのですが、授業に使用する目的の教室なので通常は今回のような目的では使えないんですね。そこで、「夏休みを利用してやりましょう」ということで話が進みました。

トーク 第一部 会場風景
トーク 第一部 会場風景

3. 現場の様子

(中原)
最初に、実際の撮影がどんな感じだったのか現場の様子を紹介します。
作品の入ったコンテナは、施設の収蔵庫からみずのき美術館へ運んでおいてもらい、何箱かずつ、美術館から大学へ車で運びます。この写真は、届いたコンテナの蓋を開けた状態ですが、一番上にのっているクリアファイルの中にはBox別データシートが入っています。

コンテナの蓋を開けるとBox別データシートが入っている。

コンテナの蓋を開けるとBox別データシートが入っている。

(中原)
「このコンテナにはこういう内容の作品が入っています」という情報から、「この束は崩さないようにしてほしい」という注意事項、「この作品はここが破れています」といった伝達も記されています。まずこれを読んでから撮影に入ります。

(奥山)
データシートは美術館の方で、状態をチェックして記入し、同梱させていただきました。

(中原)
同様のシートがコンテナの側面にも貼ってあります。

コンテナの側面に貼られたデータシート。

コンテナの側面に貼られたデータシート。

(中原)
作品を返却するときには、もともと入っていた順番通りに収めました。1箱に100枚から250枚程度入っています。先ほどお伝えしたように、作品と作品の間にはグラシン紙が挟んであるんですけど、撮影のときには新しいグラシン紙の上に移します。

コンテナから出した作品は、新しいグラシン紙の上に移される。

コンテナから出した作品は、新しいグラシン紙の上に移される。

(中原)
さらに撮影が終わってコンテナに収め直すときには、また別の新しいグラシン紙を挟み直しました。
これは立体の教室です。こういった撮影ブースを2セット組みました。

立体の教室内に組まれた撮影ブース。

立体の教室内に組まれた撮影ブース。

(中原)
作品を複写台の上にのせて、デジタルカメラで撮影するのですが、シャッターを押すと連動してストロボがたかれます。また、テザリング(※8)用ソフトを導入したので、ファインダーをのぞいてシャッターを押す必要はなく、デジタルカメラの液晶に映っている画面をパソコンの画面からライブで確認しながら、そのままパソコンでシャッターを切ることができます。

複写台の上にのせられた作品の位置を、パソコンの画面で確認することができる。

複写台の上にのせられた作品の位置を、パソコンの画面で確認することができる。

(石原)
スキャニングではなく撮影というやり方で記録をとっているのですが、そこには、繊細で美しい絵の具やクレヨンなどのテクスチュアが、スキャニングで記録すると単なる色面になってしまうというような事情があります。だからちょっと手間なんですけど、できるだけ質感を生かすことのできる撮影というやり方を選びました。

(中原)
普通は複写台の上に、無地のグレーの画用紙を敷いて、それを背景にするのですが、今回は位置合わせをしやすいように、格子状にサイズのラインが入ったカッティングマットを採用しています。カッティングマットと作品の間にはグラシン紙を敷いて、撮影時にはデータを記入するためのカードと色見本を写しこみます。

作品の左下に写っているのがデータ記入カード。作品の右下に写っているのが色見本。

作品の左下に写っているのがデータ記入カード。作品の右下に写っているのが色見本。

(石原)
グラシン紙を敷くことによって、グラシン紙の上に作品を置いた状態でグラシン紙ごと移動できるので、作業している人の手に作品が直接触れない。作品保全の観点からこのような方法をとっていました。

(中原)
ちなみに色見本の右下に写っているのは名札です。両面撮影するので、途中でひっくり返すのですが、それを素手でやると作品を傷付けてしまいます。だからお好み焼きのように道具を使ってひっくり返すんです。

(石原)
名刺とか色々なものを使っていましたね。

(奥山)
どういう流れで撮影するのが効率的か、はじめて実験した日に立ち合いましたが、どの位置にどの役割の人がいるのがよいのかということまで、かなり工夫されていましたよね。

(中原)
そうですね。このセットでは、データを記入したり、作品を複写台まで持ってくる人が一人、撮影をする人が一人、最低二人いるとずいぶんスムーズです。

(石原)
データ記入カードを写真に写し込んでいるのですが、これは撮影した作品のデータを作品と別のところに記録するのではなく、写真の中に記録するという考え方です。

写真中央にいる人は撮影をしており、写真右奥にいる人はサイズを測ったり、データを記入する作業を行っている。

写真中央にいる人は撮影をしており、写真右奥にいる人はサイズを測ったり、データを記入する作業を行っている。

(中原)
これは使用済みのグラシン紙を積んでいくために発明されました。

使用済みのグラシン紙を積んでいくための道具。

使用済みのグラシン紙を積んでいくための道具。

(中原)
作業の中で生まれた道具ですね。これはデータ記入カードの束です。

記入済のデータ記入カードをまとめた束。

記入済のデータ記入カードをまとめた束。

(中原)
こういう感じでどんどん溜まっていきます。後で確認したりするとき、すごく役に立つので捨てずにまとめておきます。

(石原)
最初の段階で、データ記入カードの項目を決めるのにすごく時間をかけました。データを記録することが中心ではないので、どう絞るか、どこまで広げるかというのを色々考えました。

(中原)
あと、同じ学生がずっと作業するわけでなく、複数の学生が出入りしながら作業を行うので、「作品裏面は奇数、表面は偶数のファイル名になる」といった伝言が書かれた付箋のようなものがパソコンに貼られたりもしました。

パソコンに貼られた伝言。

パソコンに貼られた伝言。

(中原)
こちらには、もし間違って撮ってしまった場合、どういう手順でソフトを操作して撮り直すのかという手順が書いています。こういうものが教室内に貼られていきます。

パソコンの下に貼られた、写真を撮り直す場合の手順。

パソコンの下に貼られた、写真を撮り直す場合の手順。

(中原)
この写真でカッティングマットの上に、貼られている黄色い記しはマスキングテープです。サイズによってセッティングする場所が決まっているので、バミリに合わせて作品を置いていきます。

カッティングマット上のバミリ。

カッティングマット上のバミリ。

(奥山)
サイズには、いくつくらいのバリエーションがあるのでしょうか。

(中原)
基本的には四つ切りと八つ切りです。

(石原)
変形もけっこうありました。

(奥山)
デジタル・アーカイブのメタデータ(※9)の一つとして作品のサイズがあるのですが、調べてみると、実はかつてみずのきで入力したデータには「一般的な四つ切りといえばこれくらい」というサイズが、一律で入力されていたんですね。だけれど正確に測ってみると、メーカーによってサイズが違ったり、中には西垣籌一先生(※10)が大判の紙をカットしたと見られるものもありました。

(中原)
描いた人自身が切っているんじゃないかと思える場合もあって、そういった画用紙はかなり歪んでいます。

(奥山)
今回はすべてイチから採寸していただきました。

※8)テザリングは日本語で「つなぎ止める」を意味する言葉。デジタルカメラにおけるテザリング用ソフトは、カメラとパソコンを連動させ、パソコンからシャッターを切れるようにしたり、カメラの液晶に映っている画面をパソコンの画面からライブで確認できるようにする機能を持つものを指す。

※9)資料に関する様々な属性を表現するデータ群のこと。例えば、資料のタイトル、制作・記録日時、作者、履歴、サイズ等。

※10)西垣籌一(1912-2000)。みずのき絵画教室・みずのき絵画クラブの指導を担当した日本画家。

トーク 第一部 会場風景
トーク 第一部 会場風景

4. 撮影環境と機材

撮影環境

  • 撮影場所の適正。
  • 外光からの影響を比較的受けない。ストロボを使用。
  • 撮影用スペース、採寸等作業するためのスペースの確保。
  • 保管のために湿度があまり高くない。

(中原)
先ほど写真で見ていただいた立体教室内の撮影ブースで、夏休みの間、朝7時から夜9時くらいまで毎日作業していました。完全な遮光ができる部屋ではないのですが、極端に光線が変わらないように注意し、光線に頼らなくていいようにストロボを用いました。

(石原)
時間帯に影響されないように撮影しています。

(中原)
撮影ブースと共に、データの記入や採寸などをするスペースも確保したかったので、それなりの広さが必要になります。それに加えて湿度ですね。あまり湿気の多いところだと紙があばれてしまいます。十分な環境と言えるかはわかりませんが、こういった理由を総合して、立体教室を選択しました。

(石原)
美術館の収蔵庫のような環境ではありませんが、学内では比較的マシな場所です。

撮影機材

同じ作家は同じ機材で。

Bセットの機材一覧
  • 複写台:LPLコピースタンドCS-6
  • 雲台
  • シナ合板(コピースタンドの複写テーブルサイズでは四つ切り画用紙をカバーできない)
  • カッティングマット(複写背景用)
  • マスキングテープ(複写物の位置決め用)
  • デジタルミラーレスカメラ:Sony α7RII
  • レンズ:55mm
  • ストロボ 2台
  • ワイヤレストランスミッター(ストロボとカメラをシンクロ)
  • PC:iMac
  • テザリング用ソフト:Capture One
  • USB接続ケーブル(カメラとPCを接続)

(中原)
さっき写真に出ていたような撮影ブースを2セット作りました。既製品では、四つ切りの画用紙をそのままのせられる複写台がないので、学内にある一番大きな複写台の上に、シナ合板をカットしたものをのせて、その上にカッティングマットを敷くという方法をとりました。

Aセットの機材一覧
  • デジタル一眼レフ:Nikon D800E
  • レンズ:60mmマクロ
  • 雲台
  • PC:iMac
  • テザリング用ソフト:Camera Control Pro
  • USB接続ケーブル(カメラとPCを接続)
  • ストロボ 2台
  • シンクロケーブル(ストロボとカメラをシンクロ)

(中原)
こちらはAセットの機材一覧です。主にBセットと異なるところだけ書き出しました。

(石原)
同じ機材を揃えることができなかったので、必ず一つの機材で同じ作家の作品を撮り切ってしまうように作業していました。

撮影備品

  • カラーサンプルチャート:X-rite
  • データ記入用カード + タテヨコ指示用矢印
  • グラシン紙
  • カッティングマット(グラシン紙にのせた状態で、作品の状態確認や採寸を行う)
  • プラスティック製定規(採寸用)
  • 筆記具等
  • Box別データシート
    (各箱に同梱された状態で受け取り、適宜留意点などを書き込んで、元の箱に同梱し返却)

(中原)
写真に写しこむためのカラーチャートというのがこれです。

カラーチャート。これを作品と一緒に写す。

カラーチャート。これを作品と一緒に写す。

(石原)
これは割と業界標準的なもので、色の再現がしやすくなります。印刷屋さんとか、出力サービスを行っている業者は利用しています。

(中原)
ちなみにカラーチャートは下半分が写り込んでいればいいそうで、さらに正方形が欠けていてもいいということです。
それからデータ記入用のカードですね。3枚綴りになっているので、A4で出力した後にカットします。

データ記入カードのフォーマット(A4)。3枚綴りになっている。

データ記入カードのフォーマット(A4)。3枚綴りになっている。

(中原)
一番上にある作品通し番号というのが撮影日です。
例えばこちらのカードには、作品通し番号の欄にB_160918_001と表記されています。これはBセットで2016年9月18日に撮影した1枚目の作品という意味です。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_001)のデータ記入カード(記入済)。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_001)のデータ記入カード(記入済)。

(中原)
旧ナンバリングというのは、作品の裏に書かれたナンバリングのことです。後で詳しく説明しますが、サイズの欄には今回新たに採寸したサイズを記入します。一番下の欄は描画材料です。作業の途中から「描画材料も必要だろう」という話になり、追加しました。左に表面、右に裏面の材料を記入します。カードの右側に矢印がのせてありますが、これは作品の天地を表しています。データ記入カードは撮影を進める過程で進化していて、当初は今よりも手書きの部分が多かったのですが、それでは間に合わないということで、印刷部分が増えていきました。そのために間違いも増えていったのですが(笑)。
後は、間に挟むためのグラシン紙、それから背景用のカッティングマットです。カッティングマットは採寸するときに便利なので、採寸やデータ記入を行うためのテーブルの上にもありました。採寸には透明のプラスチック定規を使っていました。

トーク 第一部 会場風景
トーク 第一部 会場風景

5. 撮影時のルール

作品の描画面(表面)および裏面を撮影

  • 作品ウラ面には、ナンバリング以外にも本人による日付、名前などの記載があるものや描画されているもの、何も記載されていないものなど様々ある。
  • 記録するという目的を考慮し、全ての作品についてオモテ面、ウラ面を撮影した。
  • 両面に描画されている作品は、ナンバリングのある面(多くの場合、2つの番号が連記されている)をウラ面とする。
  • それぞれに番号表記がある場合は、若い数字の面をウラ面とする。

(中原)
裏面には、ナンバリング以外にも本人による日付や名前が書いてある場合や、真っ白でナンバリングだけが入っている場合など、色々なパターンがあるんですね。記録するという目的を考えて、全ての作品について表面も裏面も撮影するということにしました。仮に白紙だったとしても、白紙だったことを伝えるために撮影しています。両面に絵が描かれている作品も存在しますが、その場合は、ナンバリングのある面を裏面とみなしました。また、表面、裏面それぞれにナンバリングがある場合は、ナンバリングの数字が若い方を裏面としました。

撮影時の縦横、上下位置についての考え方

描画されている画面の内容からタテ位置ヨコ位置、天地を判断するのではなく、ウラ面の撮影時に、書かれているナンバリングの天地を参考に矢印の表示方向を決定し、この時の天地を保持しながらオモテ面へ裏返す。従って、見た目のタテヨコや天地と矢印の向きは必ずしも一致していない。

(中原)
描画されている画面の内容から縦位置か横位置かが想像できる作品もいっぱいあるのですが、今回の撮影ではそれは無視しました。何を頼りにしたかというと、裏面のナンバリングの向きです。例えばこの作品は、ナンバリングの向きに合わせたとき、表面に描かれている人間が横向きになるのですが、そうなったとしても番号を参考にして縦位置にしました。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_004)。裏面のナンバリングの向きに合わせて矢印の表示方向を決定している。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_004)。
裏面のナンバリングの向きに合わせて矢印の表示方向を決定している。

(中原)
表面を撮影する際には、この天地が変わらないようにひっくり返していました。こうすることで、写真の上下関係が崩れません。

採寸方法、表記

  • ナンバリングをもとにタテ位置ヨコ位置、天地を決め、4辺を採寸。
  • 描画面をオモテにした時の天地左右辺として表記。
  • 天地、左右が同サイズの場合は、W(高さ)、H(幅)のみ表記。R(右)、L(左)、天、地で異なる場合は各サイズを表記。
  • 紙面の歪みや欠損がある場合は、最長サイズを採寸し、Maxとして表記。

(中原)
寸法する際には、どちらが幅で、どちらが高さかを決めないといけないのですが、今回はナンバリングの向きをもとにして決めた天地を参考にしました。裏向きにした状態で採寸していますが、表記としては表を向けた状態での天地左右を記入しています。

(石原)
一般的には、縦の最長サイズ、横の最長サイズのみを測るのですが、今回は4辺を採寸しました。
台形の作品もあるので。

(中原)
天地及び、左右が同サイズの場合は、高さ、幅のみ表記しています。 斜めにカットした画用紙に描かれた作品や、紙面の歪みや欠損がある作品は最長サイズを採寸し、数字の前にMaxと表記しています。収蔵されている作品には60年代の作品も含まれているのですが、そうすると不思議な曲がり方をしている作品もあります。丸くなっていたりとか、扇形になっていたりとか。

トーク 第一部 会場風景
トーク 第一部 会場風景

6. 撮影手順

  • Box(コンテナ)から作品を取り出し、描画面(オモテ面)を上にして新しいグラシン紙の上にのせる。
    データ記入カードに以下を順次記入。

    • 撮影日別の通し番号「作品通し番号」(例:160901_001など)を記入。
    • 束別になっている場合は束番号(例:/束2、/束なし、など)を記入。
    • 描画面(オモテ面)の「描画材料」を確認し、記入。
  • 裏返して、

    • ナンバリングと記載位置を確認、ナンバリング「旧ナンバリング」(例:YK-80-D4など)を記入。
    • ウラ面の「描画材料」(ナンバリング以外の描画材料、何も描かれていない場合は-を表記)を記入。
    • 作品を採寸し、「サイズ」(オモテ面にした状態でのR、L、天、地)の記入。
  • グラシン紙に裏返した状態でのせたまま、複写台に運ぶ。
  • 作品、データ記入カード、色見本をセット。
    (グラシン紙越しに複写台のマスキングテープ位置に合わせる。)
  • PCのライブ画面で位置を確認し微調整する。
  • 撮影。PCで撮影された画像を確認。
  • 作品を裏返して、同様に位置調整を行い、撮影。PCで撮影された画像を確認。
  • データ記入カードを回収し、作品をグラシン紙ごと移動させ、撮影済み作品に重ねて置く。

(中原)
色んな人が入れ替わり撮影するので、手順をあらかじめ決めておいて共有しました。まずコンテナから作品を取り出し、採寸、データ記入用のテーブルに運ぶ。表面を上にして新しいグラシン紙の上にのせ、データ記入カードに日付を入れたり、コンテナの中で束になっている場合は束の番号を入れる。表面の描画材料をカードに記入してからひっくり返して、ナンバリングの向きを見て天地を決める。カードにナンバリングを記入して、ナンバリング以外に何か描かれている場合は、裏面の描画材料をカードに記入、何も描いてなかったときには「-」と記入する。裏を向けた状態でサイズを測ってカードに記入し、作品をグラシン紙にのせたまま、グラシン紙を持って複写台へ作品を移動。写しこむものと一緒にセットして撮影し、作品を裏返して、もう一度撮影する。撮影後、データ記入カードをなくさないようにまとめ、作品をグラシン紙にのせたまま移動して撮影済の作品に重ねていく。

(石原)
口で説明するとすごく面倒な印象ですが...(笑)。できるだけ迷わないように撮影するシステムがだんだん出来上がっていきました。これが正解かどうかはわからないですが、作業を迷わずに進めるために、この手順に決まったという経緯があります。

トーク 第一部 会場風景
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7. 描画材料の表記及び特定

描画材料の表記

  • クレヨン、クレパス
    --> O.P(Oil Pastelの略)、金、銀、白使用
  • パステル、コンテ
    --> パステル
  • 油性色鉛筆、水性色鉛筆
    --> 色鉛筆、油性色鉛筆(特定できる場合)、水性色鉛筆(特定できる場合)
  • 鉛筆
  • 油性ペン、水性ペン
    --> 油性サインペン、サインペン
    --> 油性フェルトペン、フェルトペン、サインペン(細)
  • 筆ペン
  • 木炭
  • ボールペン
  • マット水彩、ガッシュ、アクリルガッシュ
  • アクリル絵の具
  • 版画用インク
  • 印刷
  • 印字

(中原)
大きな課題だったのは描画材料の特定です。

教室内のホワイトボードに記された、描画材料の記入方法一覧。

教室内のホワイトボードに記された、描画材料の記入方法一覧。

(中原)
例えば、クレヨンとクレパスの特定。西垣先生はクレパスを使ってらっしゃったという話もありましたが、最終的にはオイルパステルに統一しようということになりました。専門家がどういう表記をしているのかはわからないのですが。

(石原)
クレパスは商品名なので、材料名にしたときには恐らくオイルパステルになると思います。描かれてから年月が経っていて、蝋分が溶けてまた固まったりしているせいで、質感から判断するのはとても難しいです。

(中原)
昔販売されていたけど、今は出回ってないクレパスやクレヨンもあるので。あと、途中から特記しておいた方がいいだろうということになったのは金色や銀色です。これらの色は写真に写りにくいんです。それから白地に白で描いている場合も、わかりにくいので特記しました。パステル、コンテ類はパステルに統一し、色鉛筆は油性と水性があるので、特定できる場合にはそれも表記しています。製品の種類が様々な油性ペンのマジックインキやラインマーカーなどのようなものをどう表記するかですが、最初は油性サインペン、サインペンというふうに記入していました。途中で学生から「サインペンは商品名だからフェルトペンにしてください」という意見が出て、油性フェルトペン、フェルトペンという表記に変更し、ものすごく細いペンに関してだけ「サインペン(細)」にしようということになりました。
ぼく個人としては、商品名が書いてあってもいいと思っています。後々読み替えられるように表記してある方が、気を利かしてかっこよく表記するよりはわかりやすい。

(石原)
それぞれの時期にアトリエにどのような画材が置かれていたかの写真や、実際そこにいた人の発言があれば、それぞれの時期においての描画材料が特定しやすくなると思います。

(中原)
描いている状況のスナップがあると、そこから類推できるのでよりいいと思います。

(石原)
今回作業をするうえで、ほとんどの学生が、作品を見るだけでちゃんと材料の特定をできていました。それは芸大生に手伝ってもらったことのメリットでした。

(中原)
丸や四角があらかじめプリントされた紙に描かれている場合もありましたが、それは印刷と表記にしました。日付用のスタンプが捺してある場合は印字としました。

  • (描画材料名)
  • 描画材料名?

特定が困難な場合 Mixing Technique

  • MT1: O.P. and or ダーマトグラフ and or クーピーペンシル and or etc.
  • MT2: マット水彩 and or ガッシュ and or アクリルガッシュ and or etc.

特定可能なものが含まれている場合は明記

  • O.P.、MT1

(中原)
整理するため、もしくは本人ではない誰かによって書かれた可能性がある場合は、描画材料にカッコを付けました。また、本当にその材料かどうかわからないような場合には、材料名の後に?をつけました。色々な描画材料が混ざっていて特定不可能だったのは浅木久輝さんの作品です。

浅木久輝氏の作品(作品通し番号:160915_002)。様々な描画材料が使用されている。

浅木久輝氏の作品(作品通し番号:160915_002)。様々な描画材料が使用されている。

(中原)
こういった場合の表記にはMT1とかMT2という、自作の用語を使いました。

浅木久輝氏の作品(作品通し番号:160915_002)のデータ記入カード。描画材料にMTと記されている。

浅木久輝氏の作品(作品通し番号:160915_002)のデータ記入カード。
描画材料にMTと記されている。

(中原)
MTはミクストされているテクニックを意味するMixing Techniqueを省略しています。線描などに使われる材料だけど、なんなのかわからないというときにはMT1、塗ってあるんだけど、アクリルなのかマット水彩なのかわからないときにはMT2としました。MTの場合でも、わかっている描画材料だけは表記します。しかし、正確に判断するには、ちゃんと解析しなければいけないと思います。

トーク 第一部 会場風景
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8. 失敗例

  • ウラ面、オモテ面の撮影を忘れる。
  • 日付の連番記入ミス。
  • 別の箱(コンテナ)のものを撮影。

(中原)
素人が複雑な作業をすると色々と間違いがおきます。一番単純なミスは、両面撮らなくてはいけないのに、裏を撮った気になって表だけ撮っている。

(石原)
連続で撮っていると、どの作品の裏を撮ったのかわからなくなってくるので、飛ばしてしまうことがあります。

(中原)
こうした場合、その日撮り終えた最後のデータの番号が偶数になっていない。例えば、1日100枚撮るとして、どこかで1枚抜けているため99で終わっているとか。そうすると大変です。

(石原)
結局取り直しになりますね。

(中原)
それから、データ記入カードの作品通し番号に関するミスもありました。作品通し番号の「その日撮影した何枚目の作品か」という部分の連番を、一つずつ書いていると間に合わないので、010や020までまとめて書いてしまうんですよ。まとめて書いた後、そのデータ記入カードを一番上から使わなければいけないのに、間違って一番下から使ってしまい、どんどん数字が減っていく。10枚撮って気が付けばいいんですけど、30枚撮ってから気が付くと30枚がぱあになる。そういうことも起きました。石原先生がいたときに、僕がそれをやってしまったことがあって、泣きそうになりました(笑)。

(石原)
すごくへこんでいましたね(笑)。

(中原)
土日は休みにしていたんですけど、土日に出てきて...。

(石原)
一人で出てきて一人で撮影するというフォローの仕方をしていて偉いなと思いました(笑)。

(中原)
もっと初歩的なミスとしては、コンテナに浅木久輝01、浅木久輝02というふうに番号をふっているのですが、浅木久輝01を撮っているつもりが、空けているコンテナが浅木久輝02だったというケースなど。こういう場合も撮り直しです。

(石原)
なぜ撮り直しになるかというと、後でナンバーを振り直すということができないからです。カードを一緒に撮影することによって、写真にメタデータを固定してしまいたかったのですが、そうするとミスがあると全部撮り直しになってしまう。正に諸刃の剣です。

(中原)
つなげていくことで後から拾い出しやすくなるけど、そうするとミスが起こったときに修正が大変になる。

(石原)
今回の総撮影枚数は何枚でしたか。

(中原)
7,000点くらい撮影したので…。

(石原)
1点につき表と裏を1枚ずつ撮っていますから14,000カットくらい撮影していることになります。

(中原)
最初の計算だともっと撮影できる予定でした。ペースとしては、順調に進めば1セット1日100点超えるくらいだったでしょうか。70、80点を超えると「今日は進んだね」という感じでした。

(石原)
Aセット、Bセットともに動いていたらその2倍進められます。

(中原)
何か改善する必要があることが見つかると、一度ストップするので進み方が遅くなっていました。

(石原)
これまでにご説明したように、途中からデータ記入カードと、その表記方法を改良しているのですが、過去に撮影した作品のカードまで書き換えるということはしていません。

(中原)
だから、最初の方に撮影した中原安見子さんや、森昭慈さんの作品などは材料の表記がありません。

(石原)
サイズについても、4辺測らず、2辺だけ測っている作品が多いです。

トーク 第一部 会場風景
トーク 第一部 会場風景
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9. 撮影の中での発見

(奥山)
ありがとうございます。このような形でひと夏をみずのきの作品に注いでいただいたわけですが、大変だったことだけをお伝えいただくのではちょっと勿体ないので、最後に作業の中で楽しかったことを伺えますか。当初期待されていた「絵が見れる楽しさ」につながることや、先ほど裏面の話が出ていたんですけど、普段は見られない絵の裏面を見ることができるというのもアーカイブならではの醍醐味だと思います。いかがでしょう。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_001)の表面。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_001)の表面。

(奥山)
これは小笹逸男さんの作品ですね。

(中原)
これはこの作品の裏面です。

同作品の裏面。

同作品の裏面。

(中原)
小笹さんの作品の裏面には、小笹さん自身が文章を書きこんでいる場合が多いのですが、ここでは雪という漢字が雨冠の下で改行していて、一つの漢字の中で行が分かれています。作業しているとこういう発見があります。表面だけ見ていると全く気が付かない。こちらは別の作品の裏面ですが、同じように雲という字が上下に分かれています。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_009)の裏面。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_009)の裏面。

(中原)
こちらは元気の気が气と米の間で改行しています。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_004)の裏面。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_004)の裏面。

(中原)
それからこの作品のように、裏から見ることで表面の描画材料がわかるというケースもあります。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_017)の表面。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_017)の表面。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_017)の裏面。
表面が部分的に透けている。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_017)の裏面。
表面が部分的に透けている。

(中原)
この作品では笹という漢字が途中で改行しています。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_031)の裏面。

小笹逸男氏の作品(作品通し番号:B_160918_031)の裏面。

(中原)
こういったことは、小笹さんを理解しようとするうえで大切だと思います。

(石原)
竹冠で区切るわけでもなく…。

(中原)
部首の下の1角目と2角目で分かれている。

(石原)
左の行に2角目の縦線も入っていますからね。

(奥山)
このことを中原さんに教えていただいてびっくりしました。小笹さんの作品では、表面に描かれているものの一部が見切れていることがよくあります。よくわからない塊のようなものが描かれていたり、ネコが描かれた絵で「もしかしたら2匹目のネコのお尻かもしれない」というような形が描かれていたりすることもあるのですが、裏面にそのヒントが隠されているのかもしれません。すごく面白い発見をしていただきました。
画用紙作品の撮影は、まだすべてが終わったわけではありません。ぜひ引き続きよろしくお願いいたします。

(石原)
現在、再度予算を申請中です。

(中原)
また気持ちを立て直して取り組みます。

(奥山)
ちょうど時間になりました。午後の部 第1部では、画用紙作品の撮影がどのような手順で行われたかということを中原浩大さん、石原友明さんにご登壇いただき、振り返っていただきました。ありがとうございました。


中本真生 Nakamoto Masaki
中本真生 Nakamoto Masaki

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。UNGLOBAL STUDIO KYOTO代表。&ART編集長。映像芸術祭MOVINGディレクター。東日本大震災後の南三陸町を舞台にしたドキュメンタリー映画『沖へ』『千葉さん家の夏休み』(監督:村川拓也)プロデュース。
『みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~』では、トーク 第二部のコーディネートなどを務めた。

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MOVING公式WEBサイト
http://www.movingkyoto.jp/


みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~
トーク 第1部:デジタル・アーカイブのための画用紙作品撮影





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