18, Jul 2017

アナザ・サイド・オブ
『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』

「映画制作の自由を模索する」をテーマとする、山口情報芸術センター(以下、YCAM)の映画制作プロジェクトYCAM Film Factoryの第一弾として制作された映画監督 柴田剛の新作映画『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』(2017年7月21日(金)まで渋谷ユーロスペースにて上映中)。本記事では、同映画のプロデューサーであるYCAMの杉原永純氏に、同映画に関して、プロデューサーの目線から寄稿していただいた。文中では「『ギ・あいうえおス』メンバーそれぞれに別個の事実があり、そのあわいとしてこの映画が存在する」ということへの言及、及びその状況を生み出す制作体制に対する意識などに触れられており、そこに杉原氏の映画制作について批評が表れている。

文:杉原 永純(山口情報芸術センター[YCAM]キュレーター)

『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』 スチル

『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』 スチル

先立ってAMeeTで公開された柴田剛(※1)監督インタビュー(※2)を大変興味深く読んだ。足掛け3年ぐらい柴田監督とは付き合っているが、今回の映画の原型になるアイディアもこの記事からいくつか知り得た。

プロデューサーとして、記事公開前にこのインタビューの原稿を確認したのだが、その際、私が編集者に伝えた「監督本人がインタビューで伝えたかったこと、監督が制作時に考えたこと、経験したことも全て真実であると思います。 しかし、一方で自分が傍で見て来たことも別個の事実としてあって、それが『ギ・あいうえおス』メンバーそれぞれにあり、そのあわいとしてこの映画が完成したような気がします。」という言葉をきっかけに、プロデュースした側から何らか記事を書けませんか、というお誘いをAMeeTよりいただいた。まだ自分自身クリアになっていない部分もあるが、プロデューサーからの返歌として、できる限り書いてみる。

目次

  1. 柴田剛監督指名
  2. 『堀川中立売』の「嫌な気持ち」
  3. 映画(人)として「振る舞う」ことから距離をとる
  4. バンドとして映画を撮る
  5. 「ギ・あいうえおス」の撮影現場と運動神経
  6. ギャグレベル

作品・上映情報

※1)1975年生まれ。映画監督。代表作『おそいひと』『堀川中立売』では国内外の賞を受賞。MVや映像作品も発表している。平成22年度愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品の制作作家に選出され『ギ・あいうえお ス ―ずばぬけたかえうた―』を制作。
TOY FILM PROJECT( 玩具映画及び映画復元プロジェクト )に参加。
主な受賞・出品に2005年 ハワイ国際映画祭 Dream Digital Award 受賞、第5回東京フィルメックス コンペティション 部門出品、2009年 ドイツ・フランクフルト日本映画祭(NIPPON CONNECTION 2011) NIPPON VISIONS AWARD(最優秀賞)受賞、第10回東京フィルメックス コンペティション部門出品などがある。
http://www.shibatago.com/


杉原 永純 SUGIHARA Eijun
杉原  永純 SUGIHARA Eijun ポートレート

1982年生まれ。福井県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻製作領域(現・プロデュース領域)修了後、2011年、東京・渋谷にオープンしたミニシアター「オーディトリウム渋谷」にてプログラム編成に携わる。2014年4月より山口情報芸術センター[YCAM]シネマ担当。「YCAMシネマ」や「YCAM爆音映画祭」など映画上映プログラムを担当すると同時に、柴田剛監督を第一弾作家として迎えた映画制作プロジェクト「YCAM Film Factory」では、プロデュースを行なう。
これまで、柴田剛「ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし」(2016年/長編映画)、空族+スタジオ石+YCAM「潜行一千里」(2016年/マルチスクリーン・インスタレーション)、染谷将太「ブランク」(2017年/短編映画)、染谷将太+菊地凛子+金林剛+YCAM「ブランクVR」(2017年/インスタレーション)のキュレーションとプロデュースを行なっている。

撮影:Gottingham
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

山口情報芸術センター[YCAM] オフィシャルサイト
http://www.ycam.jp/


1. 柴田剛監督指名

最初に、なぜ柴田監督を指名したかに触れておきたい。YCAM(※3)での映画制作プロジェクトYCAM Film Factory(※4)第1弾委嘱作家として柴田監督の招聘を決めたのが、2014年の秋頃である。「映画制作の自由を模索する」をテーマに構想した同プロジェクトの第1弾委嘱作家を柴田剛監督に、と決めるには、色々な思いがあった。

YCAMはメディアアートセンターであり、映画を作るスタジオではない。様々なアーティストの制作の場としてはすでに10年の経験が蓄積されていたが、映画の作家が長く滞在制作したことはない。前例がない中、自分と一緒に山口で何を作るべきか考えられる作家であることが指名の必要条件だった。だからこそ天衣無縫の才能である柴田剛が必要だと考えた。また、柴田監督だったら2、3年公開までかかったとしても、この仕事に「飽きない」だろう。そういう直感があった。

※3)「山口情報芸術センター・通称「YCAM(ワイカム)」は、山口県山口市にあるアートセンターです。メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸に活動しており、展覧会や公演、映画上映、子ども向けのワークショップなど、多彩なイベントを開催しています。」(“山口情報芸術センター WEBサイト” より引用.2017-07-16参照.)
http://www.ycam.jp/

※4)YCAM Film FactoryはYCAMのプロデュースのもと新作映画を製作するプロジェクト。『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』はその第1弾として製作された。
http://www.ycam.jp/projects/ycam-film-factory-vol1/

「YCAMの環境やこれまでの知見を背景に、コンパクトな映画制作方法にて、今の時代の映画のあり方を模索・実践し、作品を発表していくプロジェクトです。」
“『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』プレスリリース”より引用.参照2017-07-16.)


2. 『堀川中立売』の「嫌な気持ち」

自分が柴田剛監督作の中で、最初に見たのは『堀川中立売』(※5)だった。その時分シネフィル的に映画館に足繁く通う生活を送っていた身からすると、初見は「嫌な気持ち」のする映画だったと記憶している。映画として良い悪いではない。映画が映画ではなくなってしまうかもしれない、深淵のギリギリを垣間見せてくるような、異端の傑作である。映画を見続けてきたことが、180度ひっくり返って全く無意味になってしまうかもしれない。そんな気持ちにさせる危うさが満ちていた。

映画『堀川中立売』 予告編

その後、『ギ・あいうえおス -ずばぬけたかえうた-』(※6)を見て、「映画に一体何ができるのだろうか」と考え抜いている(ように見えた)作家の意図が、とても意識的であろうと思うに至った。つまり柴田剛は信頼に足る作家だ、と受け取った。映画を深く知り、知りすぎてしまったことによって、映画の深淵を見ている。その深淵を自分も覗いてみたいと思った。

『ギ・あいうえおス -ずばぬけたかえうた-』(平成21年度愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品) スチル

『ギ・あいうえおス -ずばぬけたかえうた-』(平成21年度愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品) スチル

※5)『堀川中立売 "DOMAN SEMAN"』
2010年/HD/123分45秒/シマフィルム作品
第10回東京フィルメックス コンペティション部門出品、映画芸術 2010年日本映画ベストテン第2位、NIPPON CONNECTION 2011 [NIPPON VISIONS AWARD]受賞
http://www.horikawanakatachiuri.jp/

※6)『ギ・あいうえおス -ずばぬけたかえうた-』
2010年/HD/56分/モノクロ(一部カラー)/ステレオ/愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品
http://gui-aiueos.com/


3. 映画(人)として「振る舞う」ことから距離をとる

続いて、「ギ・あいうえおス」の制作体制に対する意識について紹介したい。通例、一つの映画を制作するスタッフ集団は監督の名字をとって「〇〇組」と呼ばれたりする。完全に柴田監督と一致したのは、柴田組と呼ぶことはやめよう、ということだった。

映画制作は、関わることで「酔える」行為である。実社会に直接利する訳でもない撮影という行為に、朝から晩まで毎日多ければ数十人の大人たちが、特別な熱量をかけて、金と時間を費やす。集団での肉体労働である映画制作は、一旦のめり込めばそのシンクロ度は高い。また、映画制作に酔うということは、その背後に存在する無数の既存の映画(史)に、何者でもない自分を接続する感覚を得ることでもある。精密に参照と批判を加えた学術論文の著者が、「巨人の肩の上に立つ」ことにある種の快感を得る状況に近いのかもしれない。現場レベルで映画制作に身を浸すことで、結果、批判なく、総体としての「映画」を無条件で血肉にするということに至っていく。

映画人として、プロとしての「振る舞い」には、ルールはないとも言えるが、明らかに強靭なコードが存在する。複雑な専門的分業によって成り立っている映画制作を遂行するには、そのコードが集団で共有されることが望ましい。現場からノイズがなくなり、一気に効率化される。そうすると、撮/録ろうとしていたもののクオリティは確実に上がる。決して悪いことではない。しかし、結果「映画」を模しただけにしかなっていないのではないか、と思うような作品を散見することも確かだ。

私も監督も、既存の映画制作を否定したいわけでも、積み重ねられてきた知見を軽視しているわけでもない。ただ、今という時代に、映画という容れ物(=メディア)で、メディアアートセンターという場だからこそ、映画の別の箇所にハシゴをかける(これは北野武の言葉だが)、そのことには真摯でいたいと思っている。

自分は上映プログラムを担当しているし、一方で柴田監督は昔大阪で映写技師のバイトをしていた。いっときでも無作為に映画を浴びる経験をすると、総体としての「映画」からはみ出る映画に出くわすことがある。そんな異端に自由を見たりする。自分の場合はそれが『劇場版テレクラキャノンボール2013』だったり、『ギ・あいうえおス -ずばぬけたかえうた-』だったりした。そうした映画は、映画の容れ物としての「淵」に非常に自覚的である。


4. バンドとして映画を撮る

今回、最初から、柴田監督には「『ギ・あいうえおス』の続編を山口でやろう」とオファーをした。「ギ・あいうえおス」は、そもそもは監督が作りたかったバンドの名前だと聞いている。様々な場所に赴き、彷徨い、空を見上げる中年男性の集団。映画に記録されている彼らの行為が「バンド活動」だと、柴田監督は言い切る。その企みに賛同し、行動を共にしているのが「ギ・あいうえおス」の面々であり、彼らのロードムービーとして『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』が完成した。

バンドとして映画を撮るということは、〇〇組の集団としてではなく、必然個々人としてそれぞれの立場で映画に関わることを促していた。均質化を促すのが「組」体制であるとしたら、「バンド」は個人の集まりである。それぞれが音を出す。音楽性が合わなければ抜ければいい。新メンバーが加入することもある。そんな風通しをよくする仕掛けとして「ギ・あいうえおス」があったように思う。

山口県宇部市・オープンハウスにてひとときの休憩。 | 筆者撮影

山口県宇部市・オープンハウスにてひとときの休憩。 | 筆者撮影

某所にて、それぞれが座る位置を決め、焚き火を囲む。 | 筆者撮影

某所にて、それぞれが座る位置を決め、焚き火を囲む。 | 筆者撮影

こうした仕掛けがあったからこそ、「メンバーそれぞれに別個の事実があり、そのあわいとしてこの映画が存在する」ような状況が生まれたと言える。その結果『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』は、観客にとっても解釈の幅が非常に広い映画になった。人によっては戸惑いを起こさせるだろう。映画として成立するギリギリの地点にその存在がある。


5. 「ギ・あいうえおス」の撮影現場と運動神経

「ギ・あいうえおス」メンバーが全員揃ったのは撮影の始まる1-2日前。久々に顔をあわせるメンバーも少なくないのだが、現場は始まると早い。とにかく早い。リハーサル、カット割りの撮影順に整理する段取り、カメラテストもない。高木風太カメラマンと柴田監督のごくシンプルなやり取りで、いつのまにかカメラが回っている。その環境に、全員が順応していく。

山口県秋吉台にて撮影素材を確認する柴田監督とメンバー。 | 筆者撮影

山口県秋吉台にて撮影素材を確認する柴田監督とメンバー。 | 筆者撮影

ギ・あいうえおスには映画のプロだけでなく、身体表現のプロも同列に混ざるが、全員「運動神経」がいい。ともすれば均質化しやすい現場だが、そうならない最大の仕組みが、映画スタッフ全員がカメラの前に出る、というルール。そうすることで、映画スタッフである自身のことを客観視せざるを得ない。その認識の往還の間に、メンバーそれぞれのギ・あいうえおス像が生まれていった、と、現場で唯一の「傍観者」の立場から記しておく。

撮影の段取りは自発的に、とても素早く意志決定が行なわれる。 | 筆者撮影

撮影の段取りは自発的に、とても素早く意志決定が行なわれる。 | 筆者撮影


6. ギャグレベル

柴田監督は「ギャグレベル」という言葉をよく使う。自身が本作最大の魅力と考えているのは、この「ギャグレベル」の高さ、言い換えればどこまで映画で遊べるかというところである。この映画を観た人の10人に1人がそのことに気づいてもらえれば嬉しい。

『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』 スチル

『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』 スチル


作品情報

『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』(trailer)

作品名: ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし
基礎情報: 2016年 / 86分 / HD / 16:9 / B&W(パートカラー) / Stereo
キャスト:

ギ・あいうえおス

Gui 0:柴田 剛 / Gui 1:西村立志 / Gui 2:森野順 / Gui 3:堀田直蔵 / Gui 4:酒井力 / Gui 5:高木風太 Gui 6:松本哲生 / Gui 7:加藤至 / Gui 8:星野文紀 / Gui 9:吉田祐 / Gui?:VP-MONCHI(秦浩司)

ヒスロム (加藤至 / 星野文紀 / 吉田祐)

AbRabbi ‒油火‒ 益田文和 / 岩本守夫

プロデューサー: 杉原永純(YCAM)
ラインプロデューサー: 酒井力 (『堀川中立売』『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』)
撮 影: 高木風太 (『セトウツミ』『味園ユニバース』『恋の渦』)
録音・整音: 森野順 (『ギ・あいうえおス ‒ずばぬけたかえうた‒』)
美 術: 西村立志 (『新しき民』『太秦ヤコペッティ』)
衣装協力: mainSpace ‒mai‒
宣 伝: 岩井秀世
デザイン: 楯まさみ
オープニング曲: 吉田靖『Heavenly Me』(tuba...disk)
製 作: 山口情報芸術センター[YCAM]
WEBサイト: http://gui.shibatago.com

上映情報

渋谷ユーロスペースにて、1週間限定上映!

待望の新作が7年ぶりに公開!異才・柴田剛による新作映画『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』 2017年7月15日(土)より1週間限定レイトショー!

日 時: 2017年7月15日(土)~21日(金)
21:10~22:50(上映時間:86分)
会 場: ユーロスペース
渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 3階
http://www.eurospace.co.jp/
料 金: 前売:1,100円
当日:一般1,500円 / 大学・専門学校生 1,200円 / 会員・シニア 1,100円 / 高校生 800円 / 中学生以下 500円

アナザ・サイド・オブ
『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』

Category: Digital Imaging





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