09, Feb 2018

映画前史博物館 訪問記
―映像技術の生と死を巡る旅

映像技術に寄り添いつつ、時に俯瞰しながら、多様な作品を生み出してきたトーチカ。今回はお二人に、ドイツ西部にある映画前史博物館の訪問記を寄稿していただいた。記事内では、同館に展示されている映画が発明される以前の視覚的装置や、当時の人々が作り出したコンテンツなどを写真・動画付きで紹介している。また同時に、それらと現代の映像技術(VR、ストリーミング配信)との共通点に触れることで、「過去と現在がどのようにつながっているのか」について考察している。

文・写真(※1):トーチカ(ナガタタケシ+モンノカヅエ)

めまぐるしい映像技術の変遷の流れに沿いつつ、時に俯瞰しながら様々な制作スタイルをとってきた私達トーチカにとって、映像とは「光と闇、あるいは、生と死が繰り返される、鑑賞者が手に取ることのできないイリュージョンである」と、前回の記事(※2)でお話しさせていただいた。そして、「その生と死を見つめ続けていきたい」と締めくくった。

今回は、ドイツの映画監督であるヴェルナー・ネケス(※3)の発案により作られた、ドイツ西部のミュールハイム・アン・デア・ルールにある映画前史博物館(※4)を訪問した。同博物館は、貯水タンクに設置された世界最大(※5)の中に入ることができるカメラ・オブスクラと、1100点にもおよぶ、映画が発明される以前の視覚的装置の常設展示施設を有する。

記事を通して、映画が生まれる前何がおこっていたのかを、3つの視点で見つめ直し、そして現在とどのようにつながっているのか考察していきたい。

目次

  1. 写真機を「カメラ」と呼ぶ由来を知る
  2. 映画興行の源流をたどる
  3. もう一つの現実を作りだそうとしている様々な試み

※1)特に明記のない画像はすべて、博物館で筆者が撮影。その他はパブリックドメインの画像を利用。

※2)トーチカ 執筆.“「PiKAPiKA >> Ka-Ta-Ka-Ta」 〜映像技術の生と死を見つめる〜 ”.AMeeT.2018-01-06参照.

※3)ヴェルナー・ネケスは1986年に『フィルム・ビフォー・フィルム』という映画を作っている。同作は映画の発明に先立つさまざまな視覚的装置についてのドキュメンタリー映画で、私達が作品制作にあたっておおきな影響を受けた映画でもある。

※4)映画前史博物館に関しては、Wikipediaに詳しく書かれている。

※5博物館のホームページによる情報。1992年時点である可能性も有。


トーチカ TOCHKA
トーチカ TOCHKA ポートレート

ナガタタケシとモンノカヅエの2人による映像および現代美術作家。1998年に京都造形芸術大学で協同制作活動をはじめる。空中に光で描くライトペンディング技法によるアニメーション作品を中心に、様々な手法で「活動絵画(=活動写真+絵画)」を生み出している。制作においては「実験精神」を掲げ、試行錯誤の中から、ハッピーアクシデント(偶発的な幸運な出来事)を誘う。芸術活動のほか、テレビコマーシャルやプロモーションビデオなどの制作も行っている。ナガタは大阪電気通信大学で准教授も務めている。
主な作品に「PiKAPiKA」(第10回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞、クレルモンフェラン国際短編映画祭LAB部門グランプリ)、「TRACK」(オランダ国際アニメーション映画祭ノンナラティヴ部門グランプリ・観客賞グランプリ)、最新作は、東アジア文化都市2017京都プロモーション映像「Time Travel Guide feat. Shing02」。

トーチカ オフィシャルサイト
http://tochka.jp/

東アジア文化都市2017京都プロモーション映像
「Time Travel Guide feat. Shing02」
https://youtu.be/ToAXqvTdeSg/


1. 写真機を「カメラ」と呼ぶ由来を知る

カメラといっても、映画用、監視用、家庭用など用途に合わせたもの、さらに最近流行りのアクションカメラや全天球カメラなど、色々な種類があるが、2018年現在、日本人にとって最も身近なカメラはスマートフォンに内蔵されているものだろう。撮影された画像や動画は即座にクラウドに転送され、いつでもどこでも見返し、他者へ共有することができて便利だ。忘れてしまいそうな事をメモするために使っているという人も多いのではないだろうか?

「カメラ」という呼称の由来となった装置にカメラ・オブスクラがある。カメラ・オブスクラという言葉は「暗い部屋」(元々はラテン語で、カメラ=天井のある部屋もしくは箱、オブスクラ=暗い、闇)を意味している。その仕組みは、「暗い部屋や箱に小さい穴(ピンホール)を空けることで部屋もしくは箱の外の景色が内側に投影される」というもので、写真や映画の歴史の原点ともいえる。

実用的な用途は風景画のデッサン(素描)のために使われていたとされており、そういった意味では、カメラ・オブスクラも、現代のカメラと同じく、人間の目と脳の機能を補助し、情報伝達を正確にするために普及した技術である。

映画前史博物館 外観写真

Mülheim Hbf(ミュールハイム中央駅)から、トラムもしくはバスに乗って“Schloß Broich”(ブロイヒ城跡)で降り、植物園を5分ほど歩いて抜けた所にある高さ38メートルの給水塔が映画前史博物館。
貯水タンクの上部には、可動式のミラーとレンズがついていて中に入る事ができる巨大なピンホールカメラとなっている。
ドイツ東部のイェールにあるカール・ツァイス社が技術面を支援しており、
東西ドイツ統合後の一大プロジェクトだったと記されている。

映画前史博物館 内観写真

博物館に入るとカメラ・オブスクラの図解と、近代の小型化されたものが展示されている。

映画前史博物館 内観写真

貯水塔の最上階から螺旋階段を登り、貯水タンクの中に入ると丸いテーブルと椅子が並んでいる。

映画前史博物館 内観写真
映画前史博物館 内観写真

電気が消されると、外の景色が鮮明にテーブルに映し出される。
近くでフリーマーケットをやっている様子。
画像素子やフィルムの粒子を感じさせずくっきりと映し出される景色に圧巻。 動画

映画前史博物館 屋上から撮影した写真

こちらは、屋上から直接景色を撮影したもの。
肉眼でやっと確認できる離れた所でフリーマーケットが開催されていたので驚きである。
みなさんどこにフリーマーケットがあるか見えますか?

普段、ピクセル単位の画像や連続するフレームで刻んだ動画を見ているからか、それらの記録メディアを介さない映像を見た時、不思議な感覚になる。それが高画質だと感じたりするわけではないが、自然とそこにある。この感動をどうやってもデジタルカメラでは伝えきれないことが残念であり、現代の映像技術の限界を感じるのである。


2. 映画興行の源流をたどる

35mmフィルム用の映写機

35mmフィルム用の映写機も展示されている。

現代において、映画を見る術は様々である。映画館、テレビ放送、ケーブルテレビ、物理的なディスクメディア、ビデオオンデマンド。どれも、なんらかの対価を払うことで観ることができる。例えば、映画館ではボックスオフィス(券売所)でチケットを買うこと、地上波のテレビの場合は、映画の間に挟まるCM(広告動画)を観ることで対価を払っている。「映像」と「映画」を言い分ける時、この対価の有無が判断基準ではないだろうか?

映画前史博物館とそこで得た資料をたどると、映画が発明される前も、ヨーロッパでは様々な形態の光と影のイリュージョンが興行に用いられていたことがわかった。

2-1. ミュートスコープ

例えば、クランクを回すことでフリップブック(連続する紙写真)をめくり、それを覗き見ることで映像が再生されるミュートスコープは、コインを入れることで動き出す様に設計されている。映画興行の始まりとなった1890年代に作られた。

ミュートスコープの内部構造 写真

ミュートスコープの内部構造。
See page for author [Public domain], via Wikimedia Commons

映画前史博物館 展示写真

実際にクランクを回して動画をみることはできなかったが、実物が展示されていた。

2-2. マジック・ランタン

幻灯機と日本語で訳されるマジック・ランタンは、透明なスライドする板に描かれた絵を投影する初期のプロジェクターといえる。発明された時代や場所は諸説あるものの、土星の輪を発見し、振り子時計を発明したオランダ人の物理学者/天文学者であるクリスチャン・ホイヘンスが17世紀に発明したとされている。18世紀のはじめまでは科学的な用途で使われていたが、その後、エンターテイメント性のあるものが作られた。

映画前史博物館 展示写真

男女の愛が描かれているマジック・ランタンを観るギリシャ神話に登場するヘーローとレアンドロス(1810年)。
ラブストーリー=エンターテイメントが描かれている事が見て取れる。

映画前史博物館 内観写真

映画前史博物館では、マジック・ランタンの、絵の描かれた透明の板を、
鑑賞者がバックライトをスライドさせて間近で見ることが出来る。
写真の最も左にあるのは18世紀に製造されたもので、右にあるものほど製造年が新しい。
写真の最も右にあるのは、20世紀に製造されたものとなっている。

映画前史博物館 展示写真

18世紀にはガラス板に手書きで描いていたものが、19世紀には印刷技術の進歩により印刷物となっている。
19世紀後期になると、写真の技術の登場により、白黒フィルムのスライドも登場する。

Edme Bouchardon Lorgue de Barberie 画像

Edme Bouchardon "Lorgue de Barberie"(1737)
バレル式オルガンを持ち、背中にマジック・ランタンを背負っている。
Anne Claude de Caylus [Public domain], via Wikimedia Commons

1730年代に入ると、マジック・ランタンは、街から街へ、村から村へと移りつつ、小銭をもらったり家に泊めてもらったりしながら興行を行っていた、ショーマン(後述)、奇術師、弁士などの演目のレパートリーのひとつとなった。そうして、マジック・ランタンによる興行はヨーロッパのどの街でも観ることができる光景となった。

2-3. ゾグラスコープ

映画前史博物館 展示写真

ゾグラスコープを覗かせて小銭をとっているショーマン。
マジック・ランタンが暗い所で見るものであるのに対し、
ゾグラスコープは明るい場所で日光を取り込んで見せていることがわかる。

ゾグラスコープ(Zograscope=覗き眼鏡)も歴史的には、カメラ・オブスクラやマジック・ランタンと同時期に生まれた。凸型レンズを通して風景画を覗き見ることで、より近くに存在を感じられる装置である。

映画前史博物館 展示写真

展示されているゾグラスコープ。
オランダのユトレヒトにある、オランダで1番高い塔であるドム塔の絵を見ることが出来る。動画
描かれた絵は、別の地に訪れる擬似的な体験がエンターテインメントとなっていた事を表している。

映画興行の源流には、マジック・ランタンやゾグラスコープによって小銭をもらって見せる興行主がいたことがわかった。

現在、インターネットの普及により、制作者側、視聴者側、双方向に情報を交換でき、誰もがスマートフォンひとつでストリーミング(ライブ映像配信)を行える。配信者は、動画に付加される広告収入に加え、チップ(=投げ銭)を受け取る事も可能となってきた。2017年末の段階で、1年間のチップの総額は1億ドルに達すると言われている(※6)。この収益は映画産業に比べればまだ数百分の1の規模であるとはいえ、年間2倍、3倍の規模で急速に伸びてきている。現在はその多くがテレビゲームの実況であるが、ゲームという完成されたコンテンツを、音楽や解説を交え、ひとつのエンターテインメントとして配信する様子は、まるで小銭をもらいながら興行を行ったショーマンの様にも見えてくるのである。

※6“Streamlabs Live Streaming Report Q2’17 — 53% Growth, $100M+, Twitch & YouTube Crushing It” by Antonio Hicks


3. もう一つの現実を作りだそうとしている様々な試み

ヘッドマウントディスプレイを通して、視聴覚に立体的な情報を送るVRデバイスが一般化されてすでに数年が経つ。現代において、VR(バーチャルリアリティ)は「仮想現実」と訳されることが多いが、本来ヴァーチャルという言葉は「実質的な」という意味である。つまりVRは、それが本当であるかのように感じられる状態を人工的に作り出そうという試みといえる。

映画前史博物館を一巡してみて、展示された視覚装置を深く調べていくと、その使われ方は、現代のVRのように「現実を越えた現実」、もしくは、「もうひとつの現実」を作り出そうとしている様々な試みであると感じた。3章目は、当時の人々が作り出したコンテンツに注目して解説していきたい。

3-1. ファンタスマゴリー

映画前史博物館のカタログの中でマジック・ランタンを使ったショーに、ファンタスマゴリー(フランス語:Fantasmagorie, 英語:Phantasmagoria, Fantasmagoria)というものがあることを知った。18世紀末にフランスで発明された、マジック・ランタンを用いた幽霊ショーで、19世紀を通して流行したという。マジック・ランタンによって、壁、煙、半透明の幕に画像が映写された。映写されたのは、骸骨、悪霊、亡霊などの画像であったそうだ。人が生きている限り経験し得ない「死」という空想の世界を具現化しようとした試みが見て取れる。

Interpretation of Robertson's Fantasmagorie 画像

Alphonse de Neuville or A. Jahandier” Interpretation of Robertson's Fantasmagorie”(1867)
左側にあるマジック・ランタンから骸骨やコウモリが映し出され、人々が驚き怖がっている様子が描かれている。
By Alphonse de Neuville or A. Jahandier (F. Marion "L'Optique" 1867) [Public domain], via Wikimedia Commons

3-2. アナグリフ/ステレオスコープ

アナグリフやステレオスコープは、3D映像やVRにもつながる技術でその撮影技法や表示方法も19世紀中旬には確立されていたようである。平面の写真より強く現実を感じたいという人々の欲求を見て取れる。

映画前史博物館 展示写真

アナグリフ(1900年ごろ)。
赤と青の画像は視差をもっていて、メガネを通して覗くことで立体的に写真が浮かび上がる。

映画前史博物館 展示写真

19世紀後半に作られたステレオスコープ。左右それぞれの目に、視差のある写真を見せることで、立体感を生じさせる。

博物館で撮影した写真を利用して、擬似的に奥行きを感じる様に加工したGIF画像

博物館で撮影した写真を利用して、擬似的に奥行きを感じる様に加工したGIF画像

3-3. 折りたたみ式ののぞきからくり

ドイツ語で「Faltperspektiven(折りたたみ遠近感)」と書かれたキャプションを添えて展示されていた折りたたみ式ののぞきからくりは、主にイギリスで19世紀のヴィクトリア王朝期に作られた視覚玩具で、トイシアターやペーパージオラマなどとも呼ばれる(※7)。世界中を植民地化していた大英帝国の繁栄が描かれている様にも見える。

映画前史博物館 展示写真

Faltperspektiven(折りたたみ式ののぞきからくり)。積層された風景を上の穴から覗き見る。

映画前史博物館 展示写真

覗き穴から覗くことで視野角が狭まり、レンズ無しで深い奥行きを感じられる。

※7)ロンドンにあるPollock's Toy Museum にもかなりの数が展示されている。


終わりに

「過去となってしまった技術に未来の技術やコンテンツを生み出すヒントがあるかもしれない」と思い、今回は映画前史博物館を取材し、3つの視点から私が発見したことを綴ってみた。いかがだっただろうか。

ヨーロッパは映像撮影機器に関する技術や映像を読み解く人々のリテラシーが高いと聞いていたが、それが納得できる歴史的な層の厚みを見せつけられた気がした。

そして、これらの視覚装置に込められた、壮大な「もうひとつの現実」を獲得しようとする人類の夢が、現在のARやVRといった現実を拡張する映像技術へ脈々とつながっていると感じ取れた。

今後もこうした旅を続けながら、映像技術の生と死についての新たな視点を見つけ出し作品制作につなげていきたい。


映画前史博物館 訪問記
―映像技術の生と死を巡る旅

Category: Digital Imaging





PAGE TOP