16, Mar 2014

“sonihouse”が目指す音楽の場

スピーカーを媒介に音と空間、そして聴き手を有機的に結び付け、そこに豊かな音楽的循環を生むことをコンセプトに活動を続ける"sonihouse(ソニハウス)"。今回は音響設計・製作を担当する鶴林 万平さんに、「"sonihouse"が目指す音楽の場」についてご寄稿いただいた。

寄稿:鶴林 万平(sonihouse)

1. "sonihouse"とは

"sonihouse"は12面体スピーカー"scenery(シナリー)"をはじめとするオリジナル/オーダースピーカーの受注・製作・販売をしています。また"scenery"を介して人と音楽が出会う場を企画したり、"scenery"を使用したライブの音響を請け負っています。

音響設計・製作を担当する鶴林が、京都の美術系大学を卒業後、「音響再生と空間の不分立」をテーマとして12面体無指向性スピーカーの製作を手掛けたことが活動を始めたきっかけです。当時は"soni sound project"という名前で、12面体スピーカーの製作と、12面体スピーカーを使用したライブパフォーマンスやインスタレーション、ワークショップなどを行っていました。

"sonihouse"という名前は、音そのものを表す言葉「sonic」、音が生じるという意味の言葉「soniferous」の"soni"と、「自宅=house」を合わせた造語です。自宅を音響機器が固定された器としてとらえ、理想の音響環境を生活空間に構築し、観客をその場に招くことで、"soni sound project"がさらに発展すると考え、"sonihouse"としての活動を開始しました。

スピーカーから再生される音は、音源(ソース) - アンプなどのオーディオ機器 - スピーカー - 空間 - 聴者へと伝わり、すべては強く影響しあう一つの「系」となります。このとき、スピーカーは中点となる重要なポジションを担います。部屋の壁面・天井・床、それぞれの吸音と反射の比率。機器を設置する床の強度。形状から、気温・湿度・その他...あらゆる要素が複雑に影響しスピーカーからの再生音を左右します。

それは単純な足し算・引き算ではなく、時間を経て淘汰と安定を繰り返し変化する生態系に似ています。空間は住人により観察され、吟味され、バランスを細かく調整されます。そういった時間と手間をかけた音響空間を個人で完結するのではなく、場として他者に開放し共有することで、音楽と音をめぐるコミュニケーションの問題にもう少し踏み込んでいけるのではないかと考えたのです。

現在では、もうすでにミュージシャンが大きなホールや有名なライブハウスで演奏することを目指すような時代は終わったのではないかと考えています。生楽器でも電子音を中心とした手法でも、静的な音楽を演奏する場にS/Nの良くない(騒音の多い)演奏会場は向いていません。演奏家も観客も、小規模でも、その繊細な音楽をうまく表現できる質の高い音響環境を欲しているのではないでしょうか。

もっと親密で音に集中できる環境。
大音量ではなく小音量の美しさが際立つような、演奏者と聴衆が静寂を共有し合うような美しいライブ。
私たちはそんな音楽体験との出会いを実現してみたい。
そうすることで演奏家、聴衆、そして演奏空間の3つが有機的に結びつき豊かな循環を生む。そこに理想的な音楽が現れるものと考えます。

家宴 -IEUTAGE- vol.10 On the Corner

2012.2.18 『家宴 -IEUTAGE- vol.10 On the Corner』 @sonihouse(奈良)
出演:安藤雅信(ギャルリ百草廊主、陶作家)、中上修作(古美術 中上)
料理:森田三和(MIA'S BREAD)

トウキョウの家宴 vol.2 maltiform

2012.6.10 『トウキョウの家宴 vol.2 maltiform』 @AKICHI RECORDS(東京)
出演:evala(port主宰、ATAK所属)、高橋健太郎(文筆家/音楽制作者)、
山崎真央(AKICHI RECORDS) 料理:トラネコボンボン (撮影:後藤武浩)


鶴林 万平 TSURUBAYASHI Manpei
(sonihouse)(音響設計・製作)
鶴林 万平 TSURUBAYASHI Manpei

1975年
大阪生まれ。京都造形芸術大学 美術学部洋画コース卒業。2001年より美術作家として活動する。

2004年
12面体スピーカー開発をはじめる。

2006年
スピーカー製造専業メーカーに就職、市販スピーカーの企画、設計、製造に携わる。その傍ら2007年より奈良の自宅を拠点にsonihouseとしての活動を始める。

2010年
電子音 vs 自然音という二項対立の消滅した音をコンセプトに設計された12面体同軸・無指向性スピーカー"scenery"(シナリー)を完成させる。

sonihouse WEBサイト
http://www.sonihouse.net/


2. 音楽の風景を再現する

12面体スピーカーの名である"scenery"とは「風景」という意味です。一般的な指向性のあるスピーカーはリスナーに向けて直接音を届けようとしますが、この12面体無指向性スピーカーを使用した場合、リスナーは直接音よりも、部屋中を反射してかえってきた音を多く聴くことになります。音の自然な振る舞いを再現すれば、その空間と音との関係はより強く結びつき、音の実在感はより日常(リアル)に近づきます。日常にある音楽の情景・演奏されるシーン・風景と、自分がいる環境を自然につなぐ感覚をもたらすもの、という想いを込めて名づけました。

scenery

なぜ無指向性か?

自然の音は本来、一点から四方八方へと球状に放射される、特定の発音方向を持たない音、いわゆる無指向性の音として存在しています。それに対し、われわれが普段何気なく接しているスピーカーは、正面から音を直線的に発する、指向性がある音として存在しています。伝えたい方向に、より遠くへ効率的に音を伝えるという機能をもった一般的なスピーカーの発音は、自然本来の発音ではありません。無指向性スピーカーが目指すのは、音をより自然な響きとして再現することです。そうすることによって、スピーカーから発せられてはじめて音として聴くことができる電子音を、声や楽器と同じアコースティックな響きとして発音することができるのです。
電子音の発音が根本から変われば、電子音楽は土台から変革され、人々の電子音楽に対する感性も変わるのではないか?そして電子音の響きとアコースティックの響きを対等な響きとして聴くことができるのではないか。そんな想いから私はこの12面体無指向性スピーカーの開発を始めました。

scenery

今までの12面体無指向性スピーカーとの違い

12面体を含む「多面体無指向性スピーカー」は、もともと音楽ホールの音響測定など、特殊な用途を目的として開発されました。その後、いくつか音楽再生に向けた多面体無指向性スピーカーが市場に出回りましたが、一般的なスピーカーとくらべ、発音原理の面では理にかなった構造である反面、構造的な問題から音質が明瞭さに欠けるなど、音質面ではまだまだ正当に評価されない特異なスピーカーとして存在してきました。音質の問題を解決するため、外部機器で電気的に補正する方法がほとんどだったため、市販のアンプが使えなかったり、専用のケーブルが必要だったりと、使用に制限がありました。"scenery"は外部機器の電器的補正に頼らず、スピーカー単体でこの問題を解決した12面体無指向スピーカーです。一般的なスピーカーと同じように、どこにでも設置でき、特別なケーブルや電源は不要で、どんなアンプにも組み合わせられます。
さらに"scenery"は今までの12面体無指向性スピーカーにはなかった「同軸・無指向性」という構造から広帯域な再生音とシャープな音質を獲得しています。

scenery

同軸・無指向性とは?

「同軸・無指向性」とは、12面体の6対中1対の面にツイーター(高音用スピーカー)と低音拡張のためのバスレフポートを配し、さらにツィーター – バスレフポートを中心とする軸を取り囲むように中音のスピーカーを配することで無指向性でありながら正面からは同軸を実現したスピーカーの構造のことです。
現在では、更に音質を向上させるためツィーターを3方向に配し、3方向へ同軸発音する無指向性スピーカーとなっています。これによっていままでの無指向性スピーカーと有指向性スピーカーの間をいく、それぞれの長所を合わせ持った新しいタイプのスピーカーとしてさらなる進化をとげたと考えています。


3. 演奏者と観客の境界をなくす

現在主流となっている、音の扱い方は「大は小を兼ねる」というものではないでしょうか。空間に対し、必要十分以上の大きな音で再生することによって、繊細な響きをもった音楽は本来の意図からかけ離れた印象で受け取られてしまいます。また、一般的なライブ音響では、演奏者は自身の音を確認するため、観客側スピーカーとは別に、ステージモニタースピーカーを使用しますが、モニタースピーカーの音は観客が聴く会場全体の響きと異なるため、観客の聴く音をとらえることができないまま音を出すことになります。

その点、12面体スピーカーを使ったライブでは、ステージと会場を区別することがないので、演奏者と観客は同じ音を聴くことになります。同じ響きに耳をすますことで、演奏者の集中力が観客の集中力を呼び、観客の集中力の高まりが演奏者を更に高い集中へと誘います。そんな集中力の循環による渦が音の切れ際まで神経の行き届いた響きを実現し、観客も最後まで意識を切らさず音楽に集中します。
そして会場は静寂そのものとなります。美しい音楽は美しい静寂をも響きとして作り出します。

0 + Sylvain Chauveau Japan Tour 2013 in KYOTO

2013.4.27 night cruising present
『0 + Sylvain Chauveau Japan Tour 2013 in KYOTO』 @法然院(京都)

mama!milk 演奏会『ときのあとさき』

2013.9.8 mama!milk 演奏会『ときのあとさき』 @flowing KARASUMA(京都)


4. 開かれた音楽

昔、ヨーロッパの小さな教会で開催されたクラッシクギターのコンサートに行ったときのことです。演奏中、聴衆はじっと耳を澄まして音楽を聴いていました。演奏者もそれを望んでいたはずです。
ところが、ライブが始まった夕方頃の教会周辺は人通りが多く、通りからの喧騒、自動車などの往来の音、犬が吠える声など、外から環境音が入ってきて、会場内は演奏に集中しにくい環境となっていました。

そんな中でも、教会中に響きわたるギターの音に、たまに外の音がきれいにはまる時がありました。それは、単純に演奏と環境音が合わさり、1+1が2になるということではなく、もっと大きな美しさに昇華していくような体験でした。もし演奏者が外からの音に敏感で、もっと自由であったとしたら、それは素晴らしい音楽になったのではないでしょうか。
つまり音楽は閉じられた空間と時間で構成されるものではなく、その空間とその時間に対して開かれた状態である方がより美しいものになる。

"scenery"で発せられる音は、外からの環境音を単なるノイズにしません。そのため、楽音と環境音を区別しない音環境を作ることができます。自然の中にある音楽のための空間。そこでは演奏と環境音は常に対等に開かれた耳で聴かれます。

そんなライブが京都の法然院で実現しています。
法然院がある地域は山林に囲まれた静かな環境で、京都の町の喧騒からは少し隔絶されたような立地です。方丈という70畳程の部屋でイベントが行われるのですが、部屋の縁側に広がる美しい日本庭園に配された鹿威し、虫の音、鳥の声、池に住む蛙の声、そして風が吹けば葉擦れの音が聴かれる豊かなサウンドスケープを持った場所です。

京都を拠点に洗練されたイベントを行っている"night cruising "が企画する法然院でのイベントにライブ音響として参加させて頂いたのが、初めて法然院で"scenery"を使ったイベントでした。
"night cruising"は、京都の最先端の音楽シーンを支える重要なイベント&レーベルで、クラブ向けからリスニング寄りのイベントまで幅広く開催しており、イベントのコンセプトに合わせて、その都度会場選びを工夫しています。

イベントでは6台の"scenery"を持ち込みました。6台ものスピーカーを使った理由は、演奏の繊細な弱音を隅々にまで行き届かせるため、そして均質に繊細な音を拡げることによって、会場のどこにいても外からの環境音が観客に十分聴こえるようなバランスをつくるためです。

その時に出演された京都在住の音楽家 原 摩利彦 さんの演奏がまさにヨーロッパの教会で思い描いた理想の音楽に近いものでした。原さんは最弱音が聴こえるか聴こえないかのギリギリの音量で電子音を演奏されました。それは明らかに外からの環境音も自らの音楽に取り込むためでした。演奏を集中して聴いているうちに、庭の鹿威し、葉擦れ、遠くで聴こえる鳥の声と…、どこまでが原さんの発した音なのか、外からの音なのか区別がつかなくなり、意識はどこまでも外へと広がっていきました。それは不安定な感覚でなく、それによってより大きな調和を感じたと思います。あの時間の、そしてどこまでも広がった空間への意識のすべてが音楽であったと感じました。

night cruising meets scenery

2012.6.29 『night cruising meets scenery』 @法然院(京都)

原 摩利彦(撮影:井上嘉和)

原 摩利彦(撮影:井上嘉和)


5. sonihouseの今後の予定

今年も4/27に法然院でnight cruising主催のイベント「Springintgut & F.S. Blumm Japan Tour 2014」にライブ音響で参加させて頂きます。
ベルリンを拠点に活動し世界中の人気レーベルからソロ作品を発表、近年ではNils Frahmとのコラボ・アルバムをリリースしているF.S. Blumm(エフエスブルム)と、ハンブルグ出身で、京都での滞在経験も持つ電子音楽家/チェロ奏者、Springintgut(シュプリンギントグート)による公演です。京都出身でベルリン在住の女性アーティストmidori hiranoがオープニングゲストとして出演します。
F.S.Blummは私も昔から愛聴している音楽家なので、この機会をとても楽しみにしています。

5/5には、神戸元町「space eauuu」にツアー巡回します。この「space eauuu」は12面体スピーカー"scenery"が常設機器として設置されたイベントスペースです。音楽はもちろん、それだけにとどまらず現代美術の展示企画などで独自な活動をされており、大変注目を集めているイベントスペースです。こちらでも音響オペレーションで参加させて頂きます。

その他の活動予定もいくつか決定していますが、そちらはsonihouseのホームページ にてお知らせしております。過去の活動記録もアーカイブしていますので、sonihouseのホームページをぜひ覗いてみてください。

yagya Japan Tour 2013 in KOBE

2013.3.2 『yagya Japan Tour 2013 in KOBE』 @space eauuu(神戸 元町)


“sonihouse”が目指す音楽の場

Category: Digital Imaging





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