30, Jun 2011

プロジェクション・コントロール ~Modul8を使って

これまでに地点、維新派、金魚(鈴木ユキオ)、山下残などの、演劇やコンテンポラリーダンスなどのカンパニーに多数参加してきた、気鋭の舞台映像デザイナー山田晋平氏。今回は同氏に、舞台映像のオペレーションと調整に最適なソフトウェア、「Modul8(モジュール エイト)」についての文章を寄稿いただいた。

山田晋平(舞台映像デザイナー)

稽古風景

劇場で映像のクオリティーを上げるために

演劇やコンテンポラリーダンスなどで上演中に使用される演出映像(以下「舞台映像」)のオペレーションと調整に最適なソフトウェア、「Modul8(モジュール エイト)」を紹介する。
Modul8は、スイスのGarageCUBE という会社から発売されている、MacOSに対応したVJソフトである。ハードディスク上のムービーやスチールをプロジェクターなどに再生・出力しながら、ミキシングはもちろん、素材の明度やコントラスト、色味調整をリアルタイムで加工、調整することができる。

私が専門とする舞台映像の製作、設営、オペレーションにおいて、舞台に映像をプロジェクションしながらの画像調整は、必要不可欠な作業である。というのも、PC上でつくった映像(素材)を、そのモニターに表示されている通りに舞台上に投影することはまず不可能だからだ。そもそもそれを目標とすることにあまり意味がない(もちろん舞台上で素材が「うまく投影されている」イメージをもっておくことはとても大事なことだが)。
なぜなら舞台上でのプロジェクションは映画館での上映と異なり、舞台セット、照明、衣裳、音響、身体、それら全てが共存する中に投影され、そのバランスの中で体験されるものだからである。照明が明るいシーンでは映像はモニターで見えるように鮮明には映らないので調整が必要だし、逆に照明の暗いシーンで映像だけが明るすぎるということはあってはならない。舞台映像は結局舞台空間の一部であり、舞台上に存在する全てのメディアと共存し、空間のクオリティーを高めていくためにも、現場である劇場で柔軟かつ迅速に、プロジェクションをコントロールしなくてはならない。
出演者や他のスタッフワーク(照明、音響など)と共に上演のクオリティーを求め続けるなら欠かせない作業であり、技術である。

舞台芸術の現場、特に演劇やダンス、オペラなど、上演の度にテクニカルリハーサルの成果を「再現」するオペレーションが必要とされる現場では、「VJソフト」の直感的でフィジカルなコントロールはあまり魅力的ではなく、その再現能力や操作性がいまいち信頼できない、というイメージを持っている方もいるだろう。
しかしこのModul8は、使い方と周辺機器の拡張によって、数多くのパラメーターを精密に数値データ化できるので再現性における問題はない。多様なエフェクトの恩恵をフルに活用することができるVJソフト、それがModul8である。

繰り返しになるが、このソフトは周辺機器、あるいはソフト自身を拡張することで、舞台映像での使用に最適化される。裏を返せば、単体ではほとんど使い物にならないということだ。ここでは私がいかにModul8を「舞台映像仕様」にチューンアップしているか、その工夫をお伝えしたい。舞台映像デザインの最終段階におけるレベルアップのヒントとなれば幸いである。


山田晋平 YAMADA Shimpei
山田晋平 YAMADA Shimpei

舞台映像デザイナー。1979年生、京都市左京区在住。京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科 舞台芸術コース卒業。大学在学中の2003年よりフリーランスで活動を開始。これまでに参加したカンパニーは、地点、維新派、金魚(鈴木ユキオ)、山下残など、演劇やコンテンポラリーダンスなど多数。

Modul8は以下からダウンロード購入可能。
http://www.garagecube.com/modul8/

この記事に関するお問い合わせ
email : adamay@gaia.eonet.ne.jp


Modul8の概要

まずはModul8の基本的なインターフェースを見ていこう。

メインパネル

1. メインパネル

グループAとBにそれぞれ映像(動画、静止画共に表示可能)を読み込み、フェーダーでどちらを出力するか選択できる。一般的なビデオミキサーに、レイヤーの概念が加わっていると考えればわかりやすいだろうか。それぞれのグループにファイルを5つ読み込むことができ、それらはレイヤーとして積み上がる。最上部のクリップの不透明度を下げれば、下のクリップが透けて見えてくるわけだ。ルマキー合成も可能。もちろん、レイヤーは1から5まですべて同時に再生をコントロールできる。

メインパネル拡大図

メインパネル拡大図

このメインパネルでは多くのエフェクトを調整できるが、舞台映像の現場では主に、サチュレーション、ライトネス、コントラストと、RGB各チャンネルのプラスマイナスを使って(1〜5)、色の調整をしている。5つのレイヤーそれぞれを個別に調整することが可能である。また、素材のサイズと角度をX、Y、Z軸方向に自由に調整でき(6)、ムービーの再生スピード、方向も自在にコントロールできる(7)。

2. プレビューパネル

出力される映像を確認する。また、このウィンドウ上で映像をドラッグすることでX軸、Y軸方向に自由に移動することができる。後述するが、ドラッグの代わりに数値でポジションを管理することも可能だ。

3. メディアパネル

ここで映像素材を管理する。各コマに1素材読み込むことができる。読み込みはファインダーからファイルをドラッグドッロプするのみ。16コマで1ページ、計8ページで16×8=128クリップまで読み込んでおくことができる。
このパネルの最後のページは以下のようになっており、テストパターン、テキスト入力モジュール、Video Inputがある。Video Input では、USBやFireWireを介したリアルタイム映像の入力にも対応しており、他の素材と同様に色調整、サイズの調整などほとんどのエフェクトが適応できる。なお、入力映像はリアルタイムとは若干のタイムラグがあるので、現実のアクションとシビアに同期させたい場合は、このソフトを使わないほうが賢明だろう。

パネル

さて、このソフトの魅力は何よりもその拡張性にある。周辺機器を接続することで操作性が格段に上がる。また、ソフト自体をカスタマイズし、機能を拡張していくこともできる。ここではその拡張性を3つに分けて紹介する。


1. Midiコントローラーによる拡張

メインパネルを見ると、小さなバーとノブが狭いスペースにならんでいるのがわかる。それらはマウスでも操作可能だが、それでは精密な操作は望めない。そこで有効なのがMidiコントローラーだ。Midiコントローラーから送られるMidi信号は、あらゆるバー、ノブが制御するパラメーターにマッピングすることができる。

Midi Map

操作は至ってシンプル。Midi Map を編集するモードに入り、Midiをアサインしたいボタンやノブを選択する。画面の緑色になっている部分がアサイン可能なパラメーターである。画面上で選択したあと、接続したMidi機器の割り当てたいフェーダーなりボタンなりを動かせば、そのMidiチャンネル番号が自動的にModul8に読み取られるのだ。
例えば今、メインパネルの画像中央左寄りのA-Bフェーダーに「1/1」と表示されているが、これは、A-Bフェーダーを選択し、Midiコントローラー画像の上段一番左のフェーダーを操作した結果である。フェーダーのMidiチャンネル1/コントロールナンバー001 がアサインされた状態である。

Modul8は様々なMidi機器を認識可能だ。私が使っているのはAKAI製MPD26。フェーダーとノブを色調整などのパラメーターに、パッドを再生ボタンなどに割り当てる。Midiコントローラーもピンキリだが、このソフトで使うにはフェーダー、ノブを操作した時に、その数値が0-127(Midi信号では0%=0、100%=127である)のどこまで上下したか、その数値が表示されるものが有効だ。本番オペを考えると、ノブの操作時にクリック音が出ないものを選びたい。

Modul8は様々なMidi機器を認識可能だ。私が使っているのはAKAI製MPD26。フェーダーとノブを色調整などのパラメーターに、パッドを再生ボタンなどに割り当てる。Midiコントローラーもピンキリだが、このソフトで使うにはフェーダー、ノブを操作した時に、その数値が0-127(Midi信号では0%=0、100%=127である)のどこまで上下したか、その数値が表示されるものが有効だ。本番オペを考えると、ノブの操作時にクリック音が出ないものを選びたい。

同様に、メインパネルのSaturationのノブには「1/11」とあり、これは コントローラーの右側にあるノブのひとつを割り当てた。マウスで画面上のノブを操作するとなるとその調整度合いは数値化できないが、Midiで操作すれば、そのときのMidiデータ(0%=0、100%=127のなかでの上下)を記録することで再現が可能になる。データの上下はMidi機器に表示される(Modul8には表示されないので注意)ので、それを記録していくことで再現を保証できる。(写真の右上パネル部分参照。ノブを操作して1/11 を54 に調整したのがわかる。)

万一のトラブルがあっても数値を打ち込み直すだけで復元できるように、色、サイズ、ポジションなどの調整結果をこのようなシートに記録していく。

万一のトラブルがあっても数値を打ち込み直すだけで復元できるように、色、サイズ、ポジションなどの調整結果をこのようなシートに記録していく。


2.映像出力の拡張性—MacBookProからのマルチプロジェクション

このソフトでは、出力する画面の解像度を任意に設定できる。出力を設定する画面を見てみよう。

出力設定画面

Macの仕様にもよるが、ソフト側では最大で8つのアウトプットに対応している。画面最下部のボックスでそれぞれのアウトプットに対する解像度を幅(width)、高さ(height)で入力できるようになっている。最大で8台のプロジェクターなどの機器に映像を送信でき、なおかつそれぞれの解像度を変えることができるわけだ。
 アウトプットがひとつしかないMacBookProの場合でも、機材を追加することでマルチプロジェエクションが可能となる。私が使用しているのは「Matrox Triple Head 2 Go(以下T2G)」というグラフィックボックスである。

Matrox Triple Head 2 Go

写真のパッケージを見てもらえればわかりやすいが、最大3画面に連結した横長の映像を送信する機器である。これをMacBookProに接続すると、2400×600(他にもいくつか選択できるが)ピクセルという横長な外部ディスプレイとして認識される。T2Gからの3つのアウトプットはそれぞれ800×600の、一般的なアスペクト比の解像度で各プロジェクターに送信される。Modul8側では、先ほどの「Advanced output setup」の最下部で解像度を2400×600に設定すればよい。
この3画面をどう使用するかだが、プロジェクターを3台並べて連結した画面を投影するなら、2400×800のサイズの素材を用意してひとつのレイヤーに放り込めばいい。

2400×800
「LAYERPOS」というパネルの中で、各レイヤーのポジションを指定する。2400×800の画をX:0 Y:0、つまりセンターに配置した場合。左下の画が実際の出力。

「LAYERPOS」というパネルの中で、各レイヤーのポジションを指定する。2400×800の画をX:0 Y:0、つまりセンターに配置した場合。左下の画が実際の出力。

また、3つの独立した画面として別々に操作することも可能だ。その場合は、例えば800×600の素材を3つ用意し、それぞれをA(B)のレイヤーの1~3を利用する。それぞれのレイヤーはデフォルトでは画面のセンターに位置するが、そのポジションは任意に変更できる。下図の通りである。

800×600
800×600の画を3つのレイヤーに読み込み、3画面それぞれのセンター(X: -800、0、800)に配置した場合。左下の画が実際の出力。

800×600の画を3つのレイヤーに読み込み、3画面それぞれのセンター(X: -800、0、800)に配置した場合。左下の画が実際の出力。

マルチプロジェクション時にこそ、Modul8の色調整機能が力を発揮する。プロジェクターとは、同じ機種であっても明るさや色味に個体差があるものだ。それをModul8の色調整機能で近づけていくことができるからだ。


3. プログラミングによるソフト自体の拡張性

Modul8の最大の特長は、ソフト自体の拡張性である。このソフトは「Python」というプログラミング言語で構築されており、スクリプトを書くことで「Module」と言われる、特定の機能に最適化したパネルを新規に開発することができるのだ。また、それらのModuleをオンラインライブラリーにアップし、他のユーザーとシェアすることができる。Modul8の基本性能に必要な物がなければ、このライブラリーから目的の物を探せば良いし、そこになければ作ればいい。

オンラインライブラリー。メーカーであるGrageCUBEが開発したモジュールは「GarageCUBE Library」に、ユーザーが開発した物は「Public Library」に表示される。世界中のユーザーが作るモジュールをダウンロードし、ソフトをカスタマイズすることが可能なのだ。

オンラインライブラリー。メーカーであるGrageCUBEが開発したモジュールは「GarageCUBE Library」に、ユーザーが開発した物は「Public Library」に表示される。世界中のユーザーが作るモジュールをダウンロードし、ソフトをカスタマイズすることが可能なのだ。

実際このソフトの導入の決め手となったのは、機能を拡張できることと、知り合いにプログラマーがいたことが大きかった。様々なパラメーターを数値化するモジュールをプログラマーに作ってもらえれば、舞台での使用に耐えうる正確さを得られると考えたのだ。私たちが開発したモジュールをいくつかここに紹介する。なおこれらのモジュールは全て上記のオンラインライブラリーにアップロードしているので、ダウンロードして自由に使っていただければ幸いである。

MainConsole

MainConsole

グループA、B間のクロスフェードのタイムを打ち込めるボックス(1)と、クロスフェードを実行、同時に素材の頭出しと再生をするボタン(2、3)。再生、停止、頭出し、頭出し&再生、A、B各グループを一括で実行するボタン(4)が埋め込まれたパネル。通常、私はそれぞれのボタンにMidiコントローラーのパッドをアサインして使用している。

LAYERCNT

LAYERCNT

全てのレイヤーのムービーの再生を個別にコントロールするモジュール。頭出し、ストップ、再生、頭出し&再生の4種類のコマンド。マルチプロジェクションの際、ある画面は静止したまま、別の画面のみ再生、というようなことができる。

LAYERFADER

LAYERFADER

全てのレイヤーを別々にフェードイン、フェードアウトさせるモジュール。フェードタイムを打ち込むことができる。マルチプロジェエクション時、それぞれの画面を別々に表示/非表示させるときに使う。

LAYERSR、LAYERPOS

LAYERSR、LAYERPOS

LAYERSRは各レイヤーのスケールと角度の調整を数値化、LAYERPOSはX、Y軸方向のポジションを数値化するモジュール。4:3や16:9ではない変形スクリーンは舞台でよく使われるが、その際素材を正確に投影するための微調整に、特にサイズとポジションの調整をよく利用する。角度は調整すると画像が荒れるのであまり使用しない。


最後まで舞台映像をデザインするために

制作環境写真

舞台芸術は劇場で作られる。稽古場で試みていたことが具現化するのが劇場でのテクニカルリハーサルだ。作品に関わっているだれもが、そこで最良の成果を発揮するべく、ぎりぎりの作業をする。照明は細かくゲージや色味を調整するし、音響はボリュームを操作する。微細なタイミングの調整も何度となく行われる。そういったこと全てによって、様々なメディアが舞台上で一体化する。舞台映像もまた、他のスタッフワークと一体となってクオリティーを上げるために、いや、少なくともその作業に参加するために、微細な変更に対応する技術をもたねばならない。

舞台映像デザインは素材となる映像を作るだけが仕事ではない。本番が開けるその直前まで、クオリティーを求めるためのツールとして、Modul8を使用してみてはいかがだろうか?


プロジェクション・コントロール ~Modul8を使って

Category: Digital Imaging





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