25, Jan 2010

チャイニーズ・アート・コンプレックス「料理中華」

会 期: 2009年12月17日(木)~25日(金)および2010年1月5日(火)~9日(土)
会 場: 京都精華大学ギャラリーフロール
企 画: 陳維錚・呉鴻
主 催: プロジェクトノア http://project-noa.com

7名のチャイニーズ(中国人・華僑・華人)現代アーティストによるグループ展。

現代美術の世界では、中国系アーティストの活躍が目覚ましい。そして、私たち日本人に限らず、人々は、大袈裟な身振りで世界を席巻するそれらのアーティストをいつまでもひとくくりに<中国系>と呼んで、大いなる羨望と驚異を感じている。が、本展の説明にもあるように、中国系=チャイニーズは、分類すれば、中国人と華僑と華人なのである。辞書によると、華僑の「華」は中国、「僑」は仮住まいの意である。華僑とは、長期にわたり海外に居住する中国人およびその子孫のこと。今日では移住先に定着し、居住国の国籍・市民権を取得した華僑が、自らを華人と規定することが多い・・・そうである。

すでに主義や大国を遠くに見て、個々の自らを分類し着地させる、この地球規模の自意識の高さが、はたして日本人にあるだろうか。また、漢字の祖である中国での漢字は、ある状態や状況のパブリック・イメージとパーソナル・イメージを絶妙に表現し得るとあらためて感心する。

さて、展覧会では、「料理中華」のタイトルが表すとおり、個々のチャイニーズ・アーティストが現在の居場所と帰属意識の中で獲得した思考や表現方法が繰り広げられている。チャイニーズをさらに現代美術の手法によって、料理したのである。

いずれの作品にも、現代人が共感する明瞭なメッセージと、現代社会に対する戸惑いが含まれている。

中でも、もっとも興味をそそられたのは、孟祥宇(MENG Xiang Yu/天津)の作品「日常」。映像では、洗面所でヒゲを剃るひとりの男。シェイビングクリームを鼻の下や頬やあごに丹念に塗りつけた後、男がおもむろに取り上げたのは、中華包丁だ。彼は、それでヒゲを剃る。あまりにも平然と刃を当て、何度も剃り残しをなぞるので、一瞬、中国の人は、シェーバーが無かったら誰でも包丁ででもヒゲを剃れるのだろうかと思ってしまう。しかし、もちろんそうではない。ヒゲ剃り男は、アーティスト孟祥宇本人である。包丁は、彼と一緒に各国・各地を移り歩いてきた。中華包丁は、彼がどの居場所においてもチャイニーズであるということの象徴である。展覧会期間中、それは、映像と向き合って設置されたガラスケースの中に、まるで宝物のように麗々しく展示されている。刃が、ケースの底の真っ赤な布に突き刺さっている。

呉鴻(WU Hong/福州)のインスタレーション「油断(ガスけつ)」では、展示室の壁から壁へと張った赤色LEDが並ぶ2本のケーブル上方で、模型飛行機が旋回し続けている。2本のケーブルは滑走路を想起させる。着陸態勢にありながら、いつまでも旋回する飛行機は、結果としていつか燃料切れとなり、墜落する(だろう)。機体には、よく見ると中国南方航空のマークがついている。呉がいつも乗る飛行機だという。

胡鉑(HU Bo/北京)の映像インスタレーション「過問」は、向かい合う2台の液晶テレビの中で、一方はセーターを着ようともがく男、一方には水位が徐々に下がっていく水槽に泳ぐ熱帯魚。

ふたつの画面の間に立つと、男のセーターの首周りが狭いので、きっといつまでもがいても着ることができないだろう、ということにときどき視線を走らせるが、どうしても、水が減り続ける中で次第に危機感を増す熱帯魚の様子に釘付けになる。映像はリピートする。セーター男は、やはりいつまでもセーターをかぶったままもがいている。が、熱帯魚のほうは、ぎりぎりまで水位が下がったかと思うと、映像はまた出だしの満々とした水位へと戻るのである。なんとか生き延びた熱帯魚も、また下がり続ける水位と攻防を繰り返す。ちなみに、中国語で「不過問」は、見て見ぬ振りのことだという。

陳如儀(TAN RuYi/マレーシア)「水曜日公園へ」は、ロボットキットが組み込まれた車輪付きの段ボール箱である。数台あるそれらのオブジェは、障害物を巧みに避けながら、会場内を自由に動き回っている。段ボールの胴には手綱のように荷物ひもが結ばれていて、鑑賞者はそれらを連れて歩くこともできる(正確にいえば、鑑賞者が、段ボール箱たちの動きに引かれていくことになる)。またあるときは、会場に野放しとなったそれらは、他の作品を鑑賞する背後に、いつのまにかジイジイと音を立てながら近づいてくる。一見、犬のように人懐こい ようでいて、不気味な存在でもあるのである。

その他に、劉珊(Carloe LIU/青島)の漫画やシルクスクリーン作品「花樹」。陳維錚(TAN Jui Chen/マレーシア)は、中国の正月に用いる万年紅紙に水で描いた「我愛你(あいしてる)」、スポンジのスリットに手を差し入れると音を発する「挙手之労(おもいやり)」、携帯電話の着信バイブレーションを利用した「祈祷」。自らの身体に現代中国の象徴的映像をオーバーラップさせる高華(GAO Hua /沈陽)の「辺縁」、「Chinese Yuan」、「Window」。

本展の仕事は、策略的でなく、大袈裟でもなく、個々のアーティストが、チャイニーズという呼称を手探りで、未来へ未来へと押し進めている印象だった。

本展の発展形として、メンバー一同は、「あいちトリエンナーレ2010現代美術展企画コンペ」の助成金を受けて、9月に愛知芸術文化センターアートスペースにて新しい展示を行います。
(松尾 惠 VOICE GALLERY pfs/w)

水曜日公園へ
水曜日公園へ2

「水曜日公園へ」
段ボール箱、ロボットキット、ビニールひも
サイズ:w390mm x w265 x h260mm
陳如儀TAN RuYi/マレーシア/2009

過問

「過問」
映像インスタレーション/液晶テレビ
サイズ可変
胡 鉑 HU Bo/中国・北京/2009

油断(ガスけつ)
水曜日公園へ2

「油断」(ガスけつ)
インスタレーション/旅客機模型、LEDライト
サイズ:模型(w430mm x w470mm)、LEDライト(可変)
呉 鴻 WU Hong/中国・福州/2009

日常
日常2

「日常」映像/11分11秒
サイズ可変
孟 祥宇 MENG XiangYu/中国・天津/2009

ディスカッション

ディスカッション

会場風景1
会場風景2
会場風景3

会場風景


チャイニーズ・アート・コンプレックス「料理中華」

Category: Events





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