26, Mar 2010
| 会 期: | 2010年2月5日(金)~3月13日(土) |
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| 会 場: | タカ・イシイギャラリー京都 http://www.takaishiigallery.com/ |
写真そのものをアナログで何度も再撮影する、というユニークな手法で作品を発表している、ジャン・クロード・ウォーターズの個展。制作方法についての予備知識を得てからギャラリーを訪れたのだが、作品の前に立った時、何がモチーフとなっているのか、すぐにはわからなかった。
作品は、白と、白に近いグレーの間の、ごく淡いグラデーションのモノクロ写真で、まるで煙のよう。イメージを読み取るにはとっかかりがなく、ぼんやりとした曖昧な画面から頭の中で輪郭を結ぶまでしばらく時間がかかる。タイトルも「My Heart」「My Mystery」と抽象的な言葉なので、理解の手助けにはなってくれない。見方を工夫してみる。近づくと、結びかけた像はふわっと分解して、見えるのは画面に定着した光の微粒子群になってしまう。これではわからない。今度は2、3歩引いてみる。と、ようやく「あぁ、これは、うつぶせになった女の人だ」。展示されている5点の写真作品のうち、1点は古い本のイメージ(風景)にドローイングやペイントをした後撮影したもの、4点は裸婦像だった。しかし、わかったところで、被写体は相変わらず漠然としたまま、表情や背景を読むことはできない。風景の作品も同様で、そこから具体的なストーリーは見えてこない。
見つめても、感じるのは「無」。だが、画面には、じっと見ていたくなるおもしろさがある。鑑賞する側の頭の中では、作品から想起するイメージが、記憶のなかのさまざまな像とリンクして、イマジネーションの世界が広がっていく。目の前の像はどんどん奥行きを増し、立体的に、リアルに、具体的になる。なぜか、何年も会っていない知人の顔が浮かんできたりもした。そのようにイメージが何層も重なって、鑑賞者の頭の中でようやく完成する。作品から受ける印象が、人それぞれ異なるのがおもしろい。目を閉じればふっと消えてしまいそうな淡い作品だが、鑑賞後には、残り香のように、からだ全体にイメージがしみ込んでいる気がした。自分の記憶と結びつけて体験するから、長く残る余韻を楽しめる。
禅のように静かな、ごく個人的な体験を味わったわけだが、作者の経歴を見てみると納得。日本文化への関心があったフランスの振付家、モーリス・ベジャールに師事し、ダンサーやパフォーミング・アーティストとしても活動してきたとのこと。一時期は日本に住み、谷崎潤一郎の『陰影礼賛』に共感するなど、東洋的な感性への理解もある。そのバックグラウンドが、彼独自の深い精神性につながっているのだろう。
ところで、会場で音楽はかかっていないが、鑑賞中、頭の中で勝手にミニマルなアンビエント・ミュージックが流れ出した。理由はきっと、以前、国立国際美術館の「液晶絵画展」で見たブライアン・イーノの映像作品「Thursday Afternoon」を思い出したから。イーノの作品は、水に浮かぶ女性をひたすら写した何も起こらない映像に、リズムのない音楽が流れるだけ。だが、ただそれだけで美しく、見ているうちに深い世界へと引き込まれた。その点では、ウォーターズの作品にも共通するものがある。
ウォーターズの、白いモノトーンの画面から見えてくる像は、つまり、自分自身ではないか、とも思った。なぜなら、作品から連想した記憶の中のイメージは、自分のアイデンティティをつくる粒子でもあるから。次に彼の作品に出会うことがあったら、果たして、どんな像が見えるだろうか。
協力:タカ・イシイギャラリー京都
(杉谷紗香 workroom)
Jean Claude Wouters
"My Heart" 2009
Selenium toned gelatine silver print on baryte paper
115 x 175 cm
Courtesy of Taka Ishii Gallery
Jean Claude Wouters
"My Mystery" 2009
Selenium toned gelatine silver print on baryte paper
97 x 175 cm
Courtesy of Taka Ishii Gallery
ジャン・クロード・ウォーターズ「The Sweetest Embrace of All」
Category: Events