17, Feb 2011

パフォーマンス 「TROPE」

開催日: 2011年1月27日(木)~30日 ※各日1回公演(19時30分~)
1月20日(木)~23日 オープンスタジオ
1月21日(金) トークセッション
主催: Monochrome circus 、graf
共催・会場: MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w
支援: 助成:芸術文化振興基金
京都芸術センター制作支援事業

京都を拠点に約20年間実験的な活動をつづけているコンテンポラリーダンスカンパニーMonochrome Circusと大阪のクリエイティヴ集団grafによる新作パフォーマンス。ダンスの公開制作と家具の公開展示(オープンスタジオ)、トークセッション(Monochrome Circus坂本氏、graf服部氏、私の3者トーク)を経て、4日間の本公演を行った。各回50席が満席を超え、立ち見もふくめた計約220人に高く評価していただくとともに、このプロジェクトのメンバー全員も、大きな手応えを感じている。会場側として Monochrome Circusやgrafと過ごした2週間を検証して、次のステップを思い描いてみたい。

題名"TROPE"をめぐって

パフォーマンス作品の題名"TROPE"は、grafが近々発表する家具の新シリーズの名でもある。

<家具と身体の問答>がキーワードとなり、ダンサーたちと数々の家具は、互いに共演者や小道具や装置のようにかかわり合った。graf代表の服部氏によれば、このたびの意図は「行動する体に罠を仕掛け、思い込んでいる動きを一瞬止めて体で考えてみる」こと。一方、Monochrome Circusの坂本氏は、ダンサーは空間や余白を新たに機能させる<霊媒>であると言う。

公演写真1(写真1~6撮影:下村康典(Shimomura photo office inc.)

公演写真1 写真1~6撮影:下村康典(Shimomura photo office inc.)

パフォーマンス作品"TROPE"は、目の前の身体を透かして人と暮らしの螺旋に気づく仕掛けだったのではないか・・・。

tropeには、比喩的であるか文字どおりでない感覚で使用される言葉という意味があるという。その意に沿うかのように、grafの家具"TROPE"のそれぞれの使い方は示されていない。それどころか、それらは家具なのか道具なのかさえ役割を定かにしない。ダンスの制作過程の映像には、はしご状の<家具>を前に困惑したり、無理な力をかけて壊してしまう様子が記録されている。それに対して、服部氏は、使い方マニュアルというよりも使い方失敗マニュアルとして見るほうがおもしろいという。

あふれる量産家具や道具が生活様式や消費活動を細分化し、暮らし本来への視線を階級分けへとはぐらかしているのに比べると、"TROPE"の家具たちは素っ気なく、使い手を困惑させ、自立と工夫を強要する。ダンサーたちは、不可解な形態の家具に対して、身体や動きのさまざまな試行錯誤をする。たとえば、一枚の板は机の天板に想定される。しかし、脚のない<机>は、机という概念でしかなく、机に向かうという慣れ親しんだ動作からダンサーを投げ出してしまう。家具に支えられるべき体は、逆に支える側にまわったりもする。そのように、日常はすべていったん解体されてしまうのだが、それが身に染みついた動作がダンスへと転換する自由な瞬間であるかもしれない。一方で、家具やそれらのある空間は、クリエイションの拘束具でもある。

パフォーマンス作品であり家具の名でもある"TROPE"は、現代の便利な日常が、人に必ずしも充足をあたえるのではないと言おうとしていた。服部氏は、公演前のトークセッションにおいて、人が不便や不自由を取り戻すことによって情報や様式が飽和した20世紀からやっと抜け出せるのではないか、と言った。
私たちの周囲は、まだ余白や予兆に満ちている。

そして、"TROPE"の会場は、それらを象徴するようなホワイトキューブだ。美術のためのその空間は、ダンサー、制作、テクニカルスタッフの皆にあらゆる点で工夫を強いたけれど、クリエイションが満ち満ちた霊的空間にもなった。

公演写真2

公演写真2

環境

会場は、私のギャラリーだった。昨年の夏に、坂本氏や服部氏を中心に皆がやってきて、この場所に決まったのだった。

ホワイトキューブは、劇場の黒い空間に慣れたダンサーたちに不便である。白い壁や床は、モノや人との距離感がつかみにくかったというし、コンクリート床の硬さやでこぼこは、ダンサーの身体を傷つける心配がある。電気容量も充分ではない。が、それらの悪条件を逆手にとって、10日間かけてダンスをつくり、家具のインスタレーションをし、照明・音響・客席ができあがっていった。京都市内から人や機材が集まってきたようだ。凄腕の舞台監督であり、制作担当者だった。

クリエイションは、不足を糧に生まれる。たとえば、京都ローカルのギャラリーには、その思いが潜んでいる。アーティストが密集すれば、物理的、心理的な欠落を補おうとする力がうごめく。服部氏の言う<不便>から連想するのは<遭難>である。アーティストやクリエイターは、現代社会の遭難者なのだ。でなければ、何かをゼロから立ち上げる必要などないのではないか。そして、知恵や工夫が思いがけない生存の糸口となるのであれば、遭難者は意外に楽天的でよいのかもしれない。

仕込み風景

仕込み風景

"TROPE"の準備から公演終了までの2週間、すくなくとも美術的なしがらみをから解放されつつも、けっして劇場空間に満たないホワイトキューブは、さまざまに<遭難>を想像できる場所となった。砂漠に墜落した飛行機や無人島に漂着した難破船である。遭難者たちは、生還を夢見る。どこへ。"TROPE"の生還する先は、画期的に先進的な、誰も成功していない次なる価値なのである。

これから

"TROPE"が、はたして興行的にパッケージされたのかというとそうではないだろう。

本プロジェクトの妙味は、観客も製作現場にいた者も、コーポレーション (協同)を目の当たりにできる点だ。難破船にどんどん人が乗り込んで来て、また漂流するといえばよいだろうか。皆で出発点を共有したような感覚である。今後、家具"TROPE"シリーズが発売され、その評価とともに、いわば<不便>の理念が世間に受け入れられるかどうか、世間を巻き込んだワークス・イン・プログレスが始まるだと思う。Monochrome Circusの身体もまた、<霊媒=psychic medium >となって、次の異なる空間での作業をするだろう。

公演写真3

公演写真3

一方、変態しつづける"TROPE"に対して、環境(ギャラリー)もまた難破船でありたいと考える。京都ローカルの協同の場でありたいからだ。

美術市場を念頭においた美術の形態展示にたいして、目の前のアーティストが起こす出来事や協同の生態系を見せる<行動展示>がローカルの力ではないかと思う。たとえば、この時期京都に定着しつつあるアーティストのオープン・スタジオや、オーラル・アート・ヒストリー、展示空間での公開制作やパフォーマンス、それらの混血である。もっと言えば、メディアアートということばの拡大といってもよいかもしれない。アーティストはメディア(霊媒=psychic medium )なのである。 "TROPE"のもうひとつの意義は、不連続な連鎖が連帯になって、固有の力になり得るということだ。中心都市や中央にあつまり気化してしまう文化の断片に対して、皿の縁に残る結晶のように、ローカルはけっこう堅牢なのである。関西、関東と文化を区分けするつもりはないが、今回のような出来事が起こせたことと、関係者個々のローカルな背景が協同したことには大きな関係があるはずだ。
(松尾 惠 MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

TROPE製作クレジット

演出・構成: 坂本公成(Monochrome Circus)、服部滋樹(graf)

出演: 森裕子、佐伯有香、合田有紀、野村香子、小寺麻子(Monochrome Circus)

舞台美術: graf

音楽: 山中透

映像記録: 有佐祐紀

写真: 下村康典(Shimomura Photo office inc.)

照明: 井村奈美

音響: Shinomy

制作: Underline 小鹿由加里、大藪もも

舞台監督: 渡川知彦

宣伝美術: 横山道雄(graf)

ウェブデザイン: 柏田由香

参照リンク

CM
http://www.youtube.com/watch?v=mpisPpi-MOs

リハーサル1
http://www.youtube.com/watch?v=Eckx9Ryu3pA&feature=related

リハーサル2
http://www.youtube.com/watch?v=mj4nt-vhBJc&feature=related

リハーサル3
http://www.youtube.com/watch?v=1iEIhd-EX6g&feature=related

1月21日トークセッション ※司会:清澤暁子(京都芸術センター) 出演:服部滋樹(graf)、坂本公成(Monochrome Circus)、松尾惠(MATSUO MEGUMI+OICE GALLERY pfs/w)

1月21日トークセッション
※司会:清澤暁子(京都芸術センター)
出演:服部滋樹(graf)、
坂本公成(Monochrome Circus)、
松尾惠(MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w)

公演写真4

公演写真4

公演写真5

公演写真5

公演写真6

公演写真6

終演後、展示家具を自由に観覧

終演後、展示家具を自由に観覧


パフォーマンス 「TROPE」

Category: Events





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