05, Sep 2017

東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」:アーティストインタビュー前半
インタビュー:花岡伸宏、ヒョンギョン、ルー・ヤン

現在開催中の、日中韓アーティスト25組を紹介する現代美術展「アジア回廊 現代美術展」。AMeeTではその参加アーティストである3人、花岡伸宏、ヒョンギョン、ルー・ヤンへのインタビューを前後半に分けて掲載する。クロストークも交えながら、全編を通して3人を対比することで、芸術の多様性が浮き彫りになっている。その多様性は、そのまま「個人と社会との関係における多様性」であると捉えることができる。記事後半は9月下旬公開予定。

聞き手・編集:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

インタビュー撮影:表恒匡

翻訳:チェ・シ[車実](東アジア文化都市2017京都現代美術部門運営委員会 インターン)

協力:東アジア文化都市2017京都現代美術部門運営委員会

ヒョンギョンの作品の前で(左から花岡伸宏、ヒョンギョン、ルー・ヤン)

ヒョンギョンの作品の前で(左から花岡伸宏、ヒョンギョン、ルー・ヤン)

「東アジア文化都市2017 京都」(※1)のメインプログラムとして現在開催中の、日中韓アーティスト25組を紹介する現代美術展「アジア回廊 現代美術展」(※2)(10月15日まで開催)。AMeeTではその参加アーティストの中でも比較的若い3人、花岡伸宏、ヒョンギョン、ルー・ヤンへのインタビューを前後半に分けて掲載する。

全9章のうち、前半は1~5章を掲載。1~3章では作家それぞれに、創作活動のテーマや作品制作という行為の意味など、アーティスト・ステートメントに関するお話を伺った。4、5章ではクロストークを交えながら、制作プロセスや素材・モチーフとの距離などの対比を行っている。

それぞれのアーティストの考え・作家性の特徴を明らかにするだけでなく、全編を通して対比することで導き出された差異と共通点から、芸術の多様性が浮き彫りになっている。その多様性は、そのまま「個人と社会との関係における多様性」であると捉えることができる。

作品と鑑賞者とのコミュニケーションに関するお話を伺った記事後半は9月下旬公開予定。

※1)「「東アジア文化都市」とは、日本・中国・韓国の各国政府から選定された都市が、文化の力で東アジアの相互理解を促進し、開催都市の更なる発展を目指す事業で、1年を通して文化芸術のイベントや交流が行われます。2017年は京都市が中国・長沙市、韓国・大邱広域市とともに開催都市に選ばれ、伝統的な文化芸術、現代美術、舞台芸術、音楽、マンガ・アニメなど、多様なイベントを開催。」(”概要”.東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」WEBサイト.参照2017-08-27.)

※2記事末尾に展覧会情報を掲載。

目次

  1. 花岡伸宏について「生活に浸透していくようなもの作り」
  2. ヒョンギョンについて「できるだけすべての生き方を受け入れたい」
  3. ルー・ヤンについて「芸術家という立場であることによって、社会の様々な分野に接触することができる」
  4. それぞれの制作プロセス
  5. “アーティストと素材・モチーフの距離”と“作品の社会性”の関係

展覧会情報


花岡伸宏 HANAOKA Nobuhiro
花岡伸宏 HANAOKA Nobuhiro

1980年広島生まれ。京都在住。2006年に京都精華大学大学院芸術研究科博士前期課程修了。近年の主なグループ展に「still moving @KCUA」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、2015年)、「ユーモアと飛躍 そこに触れる」(岡崎市美術博物館、愛知、2013年)などがある。VOCA2016ノミネートアーティスト、「第12回岡本太郎現代芸術賞展」特別賞(2009年)、「2006 JEANS FACTORY ART AWARD」優秀賞。

花岡伸宏 公式サイト
http://hanaoka.p2.weblife.me/


ヒョンギョン Hyon Gyon
ヒョンギョン Hyon Gyon

1979年唐津市(韓国)生まれ、ニューヨーク在住。Mokwon大学(韓国)で西洋画を学んだ後、京都へ留学生として来日。2011年京都市立芸術大学大学院博士課程修了。2014年に京都からニューヨークに拠点を移して以降、精力的な活動を続けている。近年の主な展覧会に「Art for Art’s Sake」(カーネギー美術館、カリフォルニア、2016年)、「Emotional Drought」(Shin Gallery、ニューヨーク、2016年)、「Hyon Gyon and the Factory」(Chashama、ニューヨーク、2015年)、「Phantom of Asia」(サンフランシスコアジア美術館、2012年)など。2012年度京都市芸術文化特別奨励者。2013年度京都市芸術新人賞受賞。

撮影: Sarah malmude

Shin Gallery WEBサイト
ヒョンギョン Artistsページ
http://www.shin-gallery.com/Artist/
ArtistsView.aspx?ArtistCd=20


ルー・ヤン[陸揚] Lu Yang
ルー・ヤン[陸揚] Lu Yang

1984年上海生まれ、在住。2010年中国美術学院修了。実写映像、アニメーション、デジタルペインティング、インスタレーション、音楽等を自由に組み合わせ、科学から宗教、心理学、医学、ゲーム、ポップカルチャーといった幅広い分野から着想を得た映像作品を制作する。近年の主な個展に「ポート・ジャーニー・プロジェクト 横浜⇆上海 ルー・ヤン展」(象の鼻テラス、神奈川、2016年)、「LU YANG Screening Program」(アーツ千代田3331、東京、2013年)。グループ展にヴェネツィア・ビエンナーレ(2015年)、福岡アジア美術トリエンナーレ(2014年)、「A Shaded View on Fashion Film」(ポンピドゥーセンター、パリ、2013年)がある。

ルー・ヤン 公式サイト
http://luyang.asia/


1. 花岡伸宏について
「生活に浸透していくようなもの作り」

――花岡さんは普段どこを拠点にして、どのような作品を作っていますか。

(花岡)
僕は京都を拠点にしています。大学進学と共に京都に住み始めたのですが、卒業してから約10年、そのまま住み続けていて、現在は右京区の山を入ったところにアトリエを借りて制作しています。
木彫をメインにしつつ、コラージュ的に、自分の身の回りにあるものや、ドローイングのようなものを組み合わせたりしながら彫刻を作っています。

花岡伸宏 『無題(頭部、手、木、流し台、服、雑誌)』 2016 HAPSオフィス1F(京都)

花岡伸宏 『無題(頭部、手、木、流し台、服、雑誌)』 2016 HAPSオフィス1F(京都)
ALLNIGHT HAPS 2016後期 「私がしゃべりすぎるから/私がしゃべりすぎないために」での展示風景
撮影:高野友美
※東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」の展示作品ではありません。

――花岡さんにとって作品制作という行為には、一体どういう意味がありますか。

(花岡)
基本的にものを作るのが好きなので、制作を行う動機として、まず「手を動かして何かを作りたい」ということがあります。

――創作活動のテーマについて今現在考えていることを教えてください。

(花岡)
昔は制作することと自分の生活を分けて考えていて、作品は作品、生活は生活というふうに切り替えていました。でも最近では、日常の延長の行為として制作することを意識しています。なるべく作品と生活を切り離さないように、生活に浸透していくようなもの作りができればと考えています。

――「日常の延長の行為として制作する」「作品と生活を切り離さない」というのは具体的にどういうことでしょうか。

(花岡)
アトリエをシェアしている先輩が木工の仕事をしているので木が身近にあったり、僕は結婚していて子供もいるので、家の中に自分や家族の服が散らかっていたり、子供の描いた落書きとかがあります。そういった自分の身の回りにあるものにインスピレーションを受けていて、そのインスピレーションを何か形にできないかというふうに考えています。
例えば、日常的によく使う道具は持ち手の部分だけすり減ったりしますし、子供がテレビの液晶を触ると手垢が付くことで触った痕跡が残ります。他にも、引っ張られた状態で乾燥してカチカチになってしまった服や、襖に挟まった服、子供がご飯をこぼしてご飯まみれになった子供のズボンとか。こういった生活の時間の中で起こる変化の痕跡を彫刻として捉えて、作品に取り入れたい。僕は服を素材として使うことが多いですが、それは服が常に身近にあって変化し続けているからかもしれません。

インタビュー風景
インタビュー風景

2. ヒョンギョンについて
「できるだけすべての生き方を受け入れたい」

――続いて、ヒョンギョンさんが普段どこを拠点にしているのか伺えますか。

(ヒョンギョン)
私はずっと京都を拠点に制作活動を続けていたんですけど、2014年にニューヨークに移って、今はニューヨークが制作の拠点です。

――主にどういった技法・素材で作品を作っていますか。

(ヒョンギョン)
1つの方法に限定せずに制作しています。絵も描くし、インスタレーションもするし、彫刻や映像作品も作ります。

ヒョンギョン 『私は壊れていた』 2015

ヒョンギョン 『私は壊れていた』 2015
Courtesy: Shin Gallery
※東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」の展示作品ではありません。

――創作活動において一貫したテーマがあれば教えてください。また、ヒョンギョンさんにとって作品制作という行為に一体どういう意味があるのか、今現在考えていることを教えてください。

(ヒョンギョン)
その2つの質問の答えは1つです。私はアーティストであることが、自分の宿命だと思っています。ある意味で、選ばれてやっているとも言えます。なのでアーティストであることは、自分のやらなければいけないこと、やるしかないこと、やりたいことすべてに当てはまります。

――今現在、ヒョンギョンさんの作品に強く影響を与えていると思うことを教えてください。

(ヒョンギョン)
私はこれまでに韓国、京都、ニューヨークに住んできました。ニューヨークでも1つの場所に滞在するのではなく、2か月、3か月、半年などの短い期間で移動し、様々な場所を転々としながら制作しています。そういった場所の移動による影響はあると思います。
京都にいた時には1つの場所で集中できて、自分がやりたい期間だけやれたんですけど、ニューヨークでは「短い期間でやるしかない」「今ここでできることを探すしかない」という状況の中、臨機応変にやっています。それによって作品に変化も出てきています。
あと、人と話すことは大事です。人と話して相手の感情になりきるというか、吸収するというか...その人の経験を自分自身の経験として置き換えてみます。私は自分自身の体を1つの媒体として考えているので、人との出会いとか、映画を観てその登場人物になりきるとか、そういった全てのことに影響を受けています。私は1つの体で1つの人生しか生きていないけど、できるだけすべての生き方を受け入れたいと思っています。

インタビュー風景
インタビュー風景

3. ルー・ヤンについて
「芸術家という立場であることによって、社会の様々な分野に接触することができる」

――では続いて、ルー・ヤンさんが普段どこを拠点にして、どのような創作活動を行っているのかを伺えますか。

(ルー・ヤン)
拠点は主に上海で、創作活動は映像制作を中心としています。

――普段どのような環境で作品を作っていますか。

(ルー・ヤン)
私の制作室には10台ほどのコンピューターがあります。そのコンピューターに囲まれて制作をしています。

――創作活動において一貫したテーマがあれば教えてください。

(ルー・ヤン)
主に宗教や神経科学などをテーマとしています。新しいデジタル技術や、音楽などの流行っている文化を素材・手段として、それらを表現します。

ルー・ヤン 『power of will-final shooting』 2016 象の鼻パーク(横浜)
「スマートイルミネーション横浜2016」での展示風景
※東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」の展示作品ではありません。

――あなたにとって作品制作という行為に一体どういう意味があるのか、今現在考えていることを教えてください。

(ルー・ヤン)
作品制作にとって「おもしろさ」が一番大事だと思っています。私は色々なことに興味をもっているけれど、自分の学識でその興味が続くかどうかは自分にもわかりません。言い訳のように聞こえるかもしれませんが、だから宗教家や神経科医などの専門的な職業に就くのではなく、芸術家としてそれらの分野を表現したいと思っています。
芸術家という立場であることによって、私は社会の様々な分野に接触することができました。そこで得た色々な「おもしろさ」を、芸術家として体現することもできるようになりました。芸術家は私にとってとてもメリットがある仕事だと思っていて、芸術家であることを楽しんでいます。
しかし、自分は社会の色々な変わった分野に興味を持っていて、芸術家であることにこだわってはいないので、芸術家を辞めても構わないとも考えています。

インタビュー風景
インタビュー風景

4. それぞれの制作プロセス

――ヒョンギョンさんに伺います。今回の作品は完全な新作ということですが、そもそも最初にどういうプランがあって、どのようなことを試みようとしたのでしょうか。

(ヒョンギョン)
最初に主催者側から京都芸術センターの講堂という展示場所の指定がありました。使用できる最大の幅が20mだと聞いていたので、まず20mを有効に使いたいと思いました。
また、講堂は壁に絵を掛けるような場所でもないし、空間があまり絵画に向いているような場所でもないので、作品を立てて展示するプランを考えました。
いつも使っているような素材とテクニックを用いつつ、京都ではあまりまだ見せていないテクニックを織り交ぜた作品にしたいという思いはありました。

ヒョンギョン 『私たちは醜かった』 2017

ヒョンギョン 『私たちは醜かった』 2017 京都芸術センター 講堂(京都)
東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」での展示風景
撮影:来田猛

(花岡)
スタイロフォーム(※3)を溶かすという...。

(ヒョンギョン)
スタイロフォームを溶かす技法は昔からやっていたんだけど、思いっきりトーチ(※4)で壊して、その上に油絵の具で描くというのはつい最近始めたやり方です。
あとは異質なものを持ち込みたかったので「京都は職人の町だから、職人らしい作品よりあえて破壊的な作品を作りたい」「京都は割と町全体のカラーが茶色のイメージだから、明るい色を持ってきたい」といったことは考えていました。それが最初のプランです。
ディテールの構想はなくて...。体の中なのか頭の中なのかは自分でもよくわからないけど、自分の中に部屋みたいなものがあって、制作するときにはいつもそこから気になる単語を拾うんですよ。例えば今回は日中韓のアーティストが参加する展覧会だから、中国と日本と韓国というイメージがあった。他にも色とか血とか骨とか、自分でも意識していない色々なものを拾うんですよね。花のイメージを拾ったから花を描くとか。脈絡もつながりもないんですけど、それらの破片を集めて取り込むという感じで作品を作っています。「先にテーマがあってスケッチを重ねる」という工程で作るのでなく、集まった破片を破片のまま描いていく。一つひとつどこから拾ったのか、なぜ拾ったのかはわからないけど、1日2日で出てきた破片じゃないということは言えます。

――今ヒョンギョンさんの制作プロセスの話を聞いて、ヒョンギョンさんは思考としてまとまる前の段階のものを画面にぶつけている印象を受けました。

(ヒョンギョン)
まとまったことがない...。

――一方で、ルー・ヤンさんはもうちょっとロジカルというか、「投げかけたい問い」のようなものが先にあって、それをリアライズするという制作プロセスなのではないかと想像しています。今ヒョンギョンさんがお話ししたような制作プロセスについて自分との類似点や差異について聞かせていただけますか。

(ルー・ヤン)
今ご指摘があったように私の創作活動はとても具体的です。私の制作過程はそんなに感性的なものではないかもしれませんが、しかしドキュメンタリーやドラマとは違い、事前にプロットや台本があるようなプロセスではありません。大枠の構図やプランは構想していますが、制作する前に具体的なディテールまでは考えていません。
自分との差異についてですが、ヒョンギョンさんは絵で表現しているけれど、私にとってはそのプロセスがとても遅く感じるもしれません。デジタルの環境があれば、クリックしたらすぐに自分が表現したいことを表現できます。そういう理由もあって、私は絵画ではなくデジタルでの創作を選択しています。
また先ほどの話から、ヒョンギョンさんが自分の創作活動を楽しんでいることがよくわかります。感性的な楽しみ方は私には無理かもしれませんが、映像を制作するときには「本当に素晴らしい映像を撮った」ということを楽しんでいますし、プログラミングのバグを克服するために色んなことを調べて、様々な人と交流し、解決する過程も楽しんでいます。自分の創作活動を通して、様々な人や新しい技術と出会えることも楽しみの1つです。

――確かに「他人と共同で作る」という点においては、ヒョンギョンさんとルー・ヤンさんは全く異なるのかもしれないですね。ヒョンギョンさんはそういう試みはあまりしようと思わないですか。

(ヒョンギョン)
どうだろう...。ペインターでも人を雇って制作している人もいますし、そういうのもいいなとは思いますが、自分の今までのやり方だと1人でやったほうが...あまり考えたことがないですね。そういった意味では、私は古い人間かもしれないです。自分の手を使って、自分の足を使って、自分の体を使って1から10までやりたいです。

※3)「発泡プラスチック系の断熱材の一種。スタイロフォームは商品名で、一般名称は押出し発泡ポリスチレンという。ポリスチレンを主原料に発泡成型したボード状の断熱材で、吸水性・透湿性・熱伝導率が小さい。主に床や土間・外壁などに用いられる。」(”スタイロフォームとは”.リフォーム用語集.ホームプロ.参照2017-08-26.)

※4)「ガス炎を用いる携帯用バーナー。鉛管工事などで使用。ブローランプ。」(“トーチランプ”.goo国語辞書.参照2017-08-26.)

インタビュー風景
インタビュー風景

5. “アーティストと素材・モチーフの距離”と
“作品の社会性”の関係

――花岡さんは以前からヒョンギョンさんと交流がありますが、今回のヒョンギョンさんの新作に対して感じたことを教えていただけますか。

(花岡)
学生の時から作品を観てるけど、今回の作品を観て、根本的なことは変わっていなくて、芯の部分がそのままだという印象を受けました。作ることを楽しんでいるという感じがした。

――芯というのは具体的にどういう部分ですか。

(花岡)
スタンスというか、作品の根本的なエネルギーというか...エネルギーの在り方が一緒。

――逆に変化したと感じる部分は?

(花岡)
昔は韓国の民族衣装とか、自分のルーツがわかるようなモチーフが絵の中に出てきていたと思うけど、そういう民族性みたいなものは今回はあんまり入っていない。何か意識が変わったりしているのかな。

ヒョンギョン 『ドブ&ピース』 2009

ヒョンギョン 『ドブ&ピース』 2009
※東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」の展示作品ではありません。

(ヒョンギョン)
今でもペインティングの中でたまたま出てくるときもあれば、意識的に入れないときもある。意識が変わったということはないけど、それはそんなに重要じゃなくなってる。「韓国人であることとか、民族性を考えることが重要じゃない」という意味ではなくて...アメリカに移ってからもっと大きく色々なことを見るようになったのが影響していると思う。
ニューヨークには色々な人種が集まって来ているし、大きな事件や政治的なニュースを見たり...あと宇宙のことを考えていたりすると、そこまで執着しなくていい気がしてきた。究極を言えば人間はみんな一緒で、韓国人とか日本人とかアメリカ人とか関係ない。「人間はみんな一緒」という意識が前よりも強くなってきたから、自分のアイデンティティをああいう具体的なモチーフで表現することにあまり意味があると思えなくなった。

――先日スタジオに伺って花岡さんに事前取材を行いました。その時に花岡さんは素材の選び方について「素材としては自宅にある自分や家族の服、スタジオにある先輩が買ってきた漫画雑誌、スタジオに立てかけてある木材など、様々な身近にあるものを使う。その素材を採用するかどうかは、主にその素材が自分と信頼関係を結べているかどうかが前提としてある」という趣意のことをおっしゃっています。

(ヒョンギョン)
家やスタジオの外にあるもの、例えば最近お店で買ってきたような新しいものなんかは使わないっていうこと?

(花岡)
ほとんど使わない。

(ヒョンギョン)
自分と関係のある古いものじゃないとダメ?

(花岡)
自分と関係のある古いものじゃないとダメという訳ではなくて、自分の身の回りにあるもの、自分に関わっているものを使う。

(ヒョンギョン)
それはなんで?

(花岡)
自分が生活する中で存在するものは見慣れてるからだと思う。いつも見てるから「これは作品の素材としていいな」とか「これは使えないな」とか、すでに判断ができてる。例えば、ある素材を使って作品を作った直後、その作品をいいなと思ったとしても、日を置いてもう一度冷静に見た時、なんか違うと思うことがある。でも毎日見ているものは形、色、材質、その素材がもつイメージ、記号として意味が強いのか弱いのかといった判断がすでにできているからそういう失敗が少ない。見慣れていること、すでに判断ができていることは信頼にもつながる。たまたま見つけた新しいものに対して「これいいな」って思う時もあるけど、自分にとって実験的に取り入れたものほど、時間が経つと違うと感じることも多い。

『無題(未完の積み上げ)』 2017

『無題(未完の積み上げ)』 2017 二条城 桜の園(京都)
東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」での展示風景
撮影:来田猛

――例えば「花岡さんにとって信頼関係を結べている木材とそうでない木材」を鑑賞者が見分けるのは不可能です。そういう意味で、モチーフや素材の選び方については、とても個人的で狭い世界のリアリティーに基づいていて、それによって作者と鑑賞者の間に溝が生まれているかもしれません。補足しておくと、私は花岡さんの作品の場合、この溝が必ずしもネガティブに作用するものではないと考えています。
こういう観点において、モチーフや素材の選び方は、「作品がどういう社会性を持つか」ということに大きく関わると思うんですね。さっきヒョンギョンさんのトーク(※5)を聞いたんですけど、その中でヒョンギョンさんは「一つの場所に留まることは、“アーティストとしての私”にとってあまりよくない」「(創作活動において)生きること/死ぬことという人がもっている根本的なテーマを扱う」という趣意のことをおっしゃっていました。またつい先ほども“宇宙”という言葉を口にしていましたが、これらの発言を照らし合わせると、花岡さんとは完全に対極の位置にいるのではないかということを感じました。

(花岡)
手法や工程は似ているんですけどね。

――そうそう。

(花岡)
たぶん素材やモチーフとの距離が違う。

――アーティストと素材・モチーフの距離感が違っていて、それに伴って作品がもつ社会性にもかなり違いがあるんじゃないかと思います。

取材風景 取材・撮影:2017年8月19日 取材場所・協力:京都芸術センター

取材風景 取材・撮影:2017年8月19日 取材場所・協力:京都芸術センター

アーティストインタビュー[後半]は9月下旬公開予定

※5)2017年8月19日(土)に京都芸術センター フリースペースにて開催された「アーティストリレートーク Vol. 1」のこと。
http://asiacorridor.org/event/2101/

インタビュー風景
インタビュー風景

展覧会情報

このキャプションはダミーです。

東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」 チラシ

この夏、世界遺産・元離宮二条城と京都芸術センターに、
日本、中国、韓国を代表するアーティストが集結!

「アジア回廊 現代美術展」は、8月から11月に行われる東アジア文化都市2017京都のメインプログラムとして、日中韓の現代アーティスト25組を紹介します。
メイン会場は、江戸時代の始まりと終焉の地とも言われ大政奉還の舞台にもなった、世界遺産「元離宮二条城」と元小学校の建物を活用した国の登録有形文化財でもある「京都芸術センター」。二条城では、天守閣跡、堀、東南隅櫓、二の丸御殿台所など城内全域に作品が展開されます。今を生きる日中韓のアーティストたちによる多数の新作を含むダイナミックな最新現代アートを、400年以上続く伝統建造物や情緒溢れる元小学校の中で見られる貴重な機会になるでしょう。

展覧会名: 東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」
日 時: 2017年8月19日(土) - 2017年10月15日(日)
京都芸術センター|10:00 - 20:00 ※会期中無休
二条城|8:45 - 17:00(最終入城16:00)
二の丸御殿台所・東南隅櫓は9:00-16:45
会 場: 京都芸術センター、二条城
出展作家: 西京人
草間彌生
堀尾貞治+現場芸術集団「空気」
今村源
中原浩大
三嶋りつ惠
やなぎみわ
伊藤存
宮永愛子
花岡伸宏
久門剛史
谷澤紗和子
ヒスロム
中村裕太+谷本研
キムスージャ
チェ・ジョンファ
オ・インファン
ハム・キョンア
ミックスライス
ヒョンギョン
蔡國強(ツァイ・グオチャン)
楊福東(ヤン・フードン)
陸揚(ルー・ヤン)
何翔宇(ヘ・シャンユ)
陶輝(タオ・フイ)
料 金:

京都芸術センターは無料

二条城 有料エリア展示 単独チケット|当日 600円
セットチケット(二条城+有料エリア展示)|当日1,200円

主 催: 京都市、東アジア文化都市2017京都実行委員会
問合せ先: 京都いつでもコール
電話|075‐661‐3755
WEBサイト: http://asiacorridor.org

中本真生 Nakamoto Masaki
中本真生 Nakamoto Masaki

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。UNGLOBAL STUDIO KYOTO代表。&ART編集長。映像芸術祭MOVINGディレクター。

&ART
http://www.andart.jp/

MOVING公式WEBサイト
http://www.movingkyoto.jp/


東アジア文化都市2017 京都「アジア回廊 現代美術展」:アーティストインタビュー前半
インタビュー:花岡伸宏、ヒョンギョン、ルー・ヤン

Category: Feature





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