11, May 2015

TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)
インタビュー 日比野克彦

アール・ブリュット作品を展示する全国の美術館4館による初めての合同企画展「TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)」。本インタビューでは監修を務めた日比野克彦さんに、テーマに込めた意図や思い、アール・ブリュットが内在する問題についての考えなどを伺った。なお、インタビューはみずのき美術館での展示期間内に、同館にて行った。

聞き手:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)、撮影:表恒匡

TURN / 陸から海へ

――日比野さんはTURN展で監修というポジションですが、具体的にどのような役割を担ったのでしょうか。 (日比野)
会場となる4つの美術館をどうやってつなげていくのか、どういうテーマで発信していくのかといったことを担当する監修者として呼ばれました。各美術館にはみずのき美術館でいうところの奥山理子さんのような、ディレクター的立場の人がいるので、基本的にはその人たちと一緒に展覧会を作っています。

――展覧会を作る工程、準備において重視した点などを伺えますか。 (日比野)
展覧会を巡回していくということ、各館の地域性などを盛り込みながらプログラムを作りました。普通の展覧会よりも新しい試みを行う場が多かったので、時間と手間はかかっています。

――全国4館を巡回しますが、展示作家や作品が少しずつ変わっていきますね。 (日比野)
スペースのサイズも様々で、全く同じ作品を回すというのは不可能です。また各館のディレクターたちが選んだ作家や、僕がそれぞれの施設にショートステイして制作した作品もあります。4館全部回ると全体像が見えてくるようになればいいと思っているので、あえて変えている部分もあれば変えていない部分もある。


日比野克彦 HIBINO Katsuhiko
(アーティスト/東京藝術大学美術学部教授)
日比野克彦 HIBINO Katsuhiko
略歴

1958年
岐阜生まれ

1984年
東京藝術大学大学院卒業

1995年
ヴェネチア・ビエンナーレ 出展

2003年~ 
越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭
「明後日新聞社文化事業部」

2007年
金沢21世紀美術館
「ホーム→アンド←アウェー」方式

2008年
ボーダレス・アートミュージアムNO-MA企画展「飛行する記憶 ~記憶は創造を呼び起こす~」
出展

2010年~ 
瀬戸内国際芸術祭
「海底探査船美術館プロジェクト 一昨日丸」

2012年
ぎふ清流国体・ぎふ清流大会 総合プロデューサー

2013年~ 
六本木アートナイト 
アーティスティックディレクター

2013年
「Hibino on side off side 日比野克彦」展
(川崎市岡本太郎美術館)

主な役職

日本サッカー協会理事、文化庁・厚労省共催 障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会委員(25年度)、東京都文化芸術評議員

日比野克彦 公式ホームページ
http://www.hibino.cc/

TURN展 公式サイト
http://artbrut-nf.info/joint/


――作家の年齢層や主に活動した年代に幅があるなど、ラインナップが非常にユニークですね。どういう基準で選んだのでしょうか。 (日比野)
中村勘三郎さんであったり、野田秀樹であったり、マルセル・デュシャンであったり。スリッパに至っては人間ですらない。あえて領域を広くし、鑑賞者自身が「何が違っていて何が似ているか」という際(きわ)の部分を見つけることによって、探ることによって、気付くことによって、人がはじめから持っている力という展覧会のテーマが浮き出てくればと考えました。

――アーティストとしてスリッパが名を連ねているのはどういう意図なんですか。 (日比野)
みずのき美術館の2階の展示室は土足厳禁なので、靴を脱がなくてはいけません。スリッパの存在、来場者がスリッパを履くという行為、そして靴下、素足のままなのか、それともスリッパを履くのかという選択肢によって「陸から海へ」というテーマを体感していただきたいと考えました。どうすれば来場者にとって体験できる展示になるかを話し合う中で、スリッパというキーワードが出てきたのですが、どうやって展示するのかや、スリッパが作家というのはどういうことなのかを議論するだけでも意味がある。

――今回の展示のなかで、みずのきの作家は北川義隆さんですよね。彼を選んだのはどなたでしょうか。 (奥山)
今回、各美術館のディレクター4名が日比野さんと共に「ひとがはじめからもっている力」あるいは「TURN」というテーマに即した作家を提案していく会議を何度も重ねました。私からは北川くん含む数名を紹介したのですが、そこで日比野さんに「義隆くんの様子はいいね」って言っていただいて、今回出品することになりました。

TURN展 展示風景(みずのき美術館)
TURN展 展示風景(みずのき美術館)

TURN展 展示風景(みずのき美術館)

日比野克彦
奥山理子(みずのき美術館)

奥山理子(みずのき美術館)


――日比野さんはTURN展のため、各施設でショートステイをしていますよね。みずのきに滞在してみて、どのようなことを感じたか教えてください。 (日比野)
4つの障がい者支援施設でショートステイをしましたが、最初がみずのきでした。2014年の7月末のことです。一体そこでどんな時間が流れているのか。2、3日の滞在ということで、知らない土地に行くワクワク感から来る期待と、どういう時間の過ごし方、どういう振る舞いすればいいのか検討がつかない不安が織り交ざった状態でした。最初だったということもあって真っ新な状態で行ったので、みずのきには思い入れがあります。高齢者のいる棟に入所したのですが、陸ではなくて水の中に入っていくようなイメージがありました。みずのきの後に行ったあゆみ苑(鞆の津ミュージアムを運営する施設)では成人男性の寮だったので相当賑やかでしたが、それと比べるとみんなじっとしていて。そういう時間を共有しました。一人ひとりの人間をずっと傍らで見つめている時間があって、彼らに刺激を受け、伝えたくなり、僕も絵を描くことになりました。アトリエに行って絵を描くまでには時間がかかりました。

――もともと、アトリエで絵を制作する予定だったのでしょうか。 (日比野)
結果的には僕が描いた絵を展示していますが、最初は絵を描く計画はありませんでした。展覧会のためにショートステイしたのですが、僕が展覧会に出す絵を描くためにショートステイするということではありませんでした。

――現状のアール・ブリュットを取り巻く環境についてどのような問題意識をお持ちでしょうか。 (日比野)
美術という言葉は、もともと日本にあったわけではありません。はじめは絵画として海外から入ってきて、絵画的な技法を学ぶ術になったわけです。でも本来アートは術じゃない。同じように、アール・ブリュットも本来フレームにはまったものではなく、美術の領域に収めるべきではありません。本質的なアール・ブリュットの役割、意味が伝わるのではないかと考え、今回の展示では「障がい者アート」ではなく「人がはじめから持っている力を発揮できているということがアール・ブリュットである」という見方を提案しました。

――日本でアール・ブリュットという言葉は「障がいのある人のアート」といった意味で認識されることが多いですが、日比野さんはアール・ブリュットという言葉を使用することに積極的ですか。 (日比野)
積極的に使用するということは考えていませんが、アール・ブリュットという言葉の持つ意味を広げていくことは重要ですし、わざと避けて通るべきことではないと思います。

みずのきでのショートステイで制作した作品

みずのきでのショートステイで制作した作品

日比野克彦
日比野克彦

――展示する上で、「作家に障がいがあるかないか」ということを表示する必要はあると思いますか。 (日比野)
「障がい」とは何か。福祉の公的なサービスを利用する場合の認定基準などがありますが、その定義が我々の日常に浸透しているとは思えません。障がい者かそうでないかをはっきり分ける線はないわけで、まさに波打ち際だと言えます。波打ち際で生きていくのはとても大変で、だからこそ生命力が一番豊かなところです。水のなかは水のなか、陸上は陸上というふうにはっきり区切ろうとする動きもあれば、一方で区切らなくてもいいのではないかという動きもある。そういった議論は交錯しながらあっていい。世の中の大きな流れとして、老人ホームなどの施設を作り、特色のある人たちを管理するという方法が当たり前になりかけているけれども、同時にそれだけで解決する問題じゃないということにも気づき始めているというのが現状ですよね。

――重度の障がいがあり、自作を言語で解説するのが困難な方もいます。企画・監修する側が共通の言語を持っている状況でキュレーションすること自体が、我々の基準や言語という形に作品を落とし込んでしまうことになるかもしれません。彼らの作品を扱うときに私たちが役割として意識しなければいけないことはなんでしょうか。 (日比野)
そもそも障がいの有無に限らず、自作について説明しきれない作家は山ほどいます。ですからこれはアール・ブリュットに限った問題ではありません。人には感情があり、共有することもあればぶつかることもある。お腹が減って食べ物を取り合ったり、寂しくなって抱き合ったり。そういった感情を伝えるための手段として、絵を描いてビジュアルで見せる。絵はコミュニケーションの媒体としてあると思うんですよ。今こうして僕たちは会話をしていますが、的確な言葉がないから、色々探りながら喋っている。聞いている方も「きっと日比野はこういうことが言いたいんだろうな」と思い、頭の中で編集しながら次の会話を考えたりする。絵画もそのようなもので、一枚の絵のなかでも、「こういうことなのかな、ああいうことなのかな」と思いながら描くわけだし、鑑賞者も「こういうことなのかな、ああいうことなのかな」と思いながら見ます。作家たちは、必ずしも展覧会に出そうとか自分の感覚を知ってもらおうという意図を持って描いているわけではありません。しかし、他者が傍らで彼らを見つめ、「僕はこう見えるから色々な人にそれを伝えたい」と思い、彼らの作品を自身が企画した展覧会などに出品する。そういう役割があっていい。その展覧会に出品することによって、評価を押し付けてしまうんじゃないかとか、鑑賞者に作家の意図していないことを読み取られてしまうんじゃないかという不安は出てくるかもしれませんが、どこにも答えがないので、自分の視点でぶれずに選べばいいのではないでしょうか。

島袋道浩さんの作品『輪ゴムをくぐりぬける』を実演する日比野さん
島袋道浩さんの作品『輪ゴムをくぐりぬける』を実演する日比野さん

島袋道浩さんの作品『輪ゴムをくぐりぬける』を実演する日比野さん


中本真生 Nakamoto Masaki
中本真生 Nakamoto Masaki

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。UNGLOBAL STUDIO KYOTO代表、&ART編集長、映像芸術祭MOVINGディレクター、南三陸ドキュメンタリープロジェクトプロデューサー。アーティストとして"なかもと真生"名義で活動する。

Photo by OMOTE Nobutada

&ART
http://www.andart.jp/

MOVING公式WEBサイト
http://www.moving-kyoto.jp/


TURN / 陸から海へ

日本財団アール・ブリュット美術館合同企画展 2014-2015
TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)

コンセプト

障がいと芸術表現に対するこれまでの画一的な語られ方や受容のされ方への問いかけを、「アール・ブリュット」を掲げ探求する「みずのき美術館」(京都府)、「鞆の津ミュージアム」(広島県)、「はじまりの美術館」(福島県)、「藁工ミュージアム」(高知県)の初めての合同企画展として開催いたします。
監修者日比野克彦は「アール・ブリュットとは何か」という問いを、より普遍的、根源的な問いとして昇華させる言葉として、「TURN」という言葉を掲げました。
本展で紹介する27余名の作家は、「陸」という日常に「海」へと潜るような視座を向けることによって、日常生活やわたしたち自身の中に驚くべき豊かさが息づいていることを見出した者たちです。日比野克彦自身は、監修者として、障がい者支援施設へショートステイし、TURNについて深く思考した軌跡が展覧会の展示作品の軸に据えられます。
本展では、より豊かに感受する意識がもたらす新しい世界の可能性を、「TURN」という言葉と共に問い直します。

公式サイト

公式Facebook

参加アーティスト

クマムシ、スリッパ、Chim↑Pom、サエボーグ、八島孝一、上里浩也、マルセン・デュシャン、今村花子、平岡伸太、岩谷圭介、畑中亜未、岡本太郎、小林竜司、中原浩大、田中偉一郎、淺井裕介、工藤トミエ、北川義隆、日比野克彦、戸來貴規、佐藤初女、野田秀樹、猪熊弦一郎、島袋道浩、高橋重美、十八代目中村勘三郎、長田身延+長田純子

今後の開催スケジュール

はじまりの美術館(福島県)

会期 2015年4月18日(土)~6月28日(日)
URL http://www.hajimari-ac.com/

藁工ミュージアム(高知県)

会期 2015年7月12日(日)~9月23日(水・祝)
URL http://warakoh.com/museum/
クレジット
主 催 TURN展実行委員会(みずのき美術館、鞆の津ミュージアム、はじまりの美術館、藁工ミュージアム)、日本財団
共催 社会福祉法人松花苑、社会福祉法人創樹会、社会福祉法人安積愛育園、特定非営利活動法人ワークスみらい高知
監修 日比野克彦
アドバイザー 森 司
お問い合わせ

cc@ps.nippon-foundation.or.jp(担当:日本財団 溝垣)
info@mizunoki-museum.org(担当:TURN展実行委員会 奥山)
※Eメールでご連絡の際には件名に「アール・ブリュット合同企画展2014」と必ず明記してください。


TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)
インタビュー 日比野克彦

Category: Feature





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