14, Apr 2017

てあしくちびる インタビュー
“2017, In the place to be” 前半

足利が生んだバイオリンとアコースティックギターのデュオ てあしくちびる。AMeeTでは同ユニットのメンバーkawauchi banri、くっちーへの、約20,000字に及ぶロング・インタビューを前後半に分けて掲載する。前半となる本記事では、曲作りのプロセスやテーマ、「伝える」ということ、活動初期からセカンドアルバム制作にかけての表現の変化などについてのお話を伺うことで、てあしくちびるの「今」を切り取った。また、その独自性の高い音楽を読み解くために、音楽面での二人の関係性についても言及している。「表現する」ということに対する考えや、地域性に関して今思うことなどについて伺った後半は2017年5月公開予定。

聞き手・編集:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

インタビュー撮影:表恒匡

写真左:くっちー 写真右:kawauchi banri

写真左:くっちー 写真右:kawauchi banri

1. 曲作りのプロセス

――最初に、歌詞先か曲先か同時か、 先にはっきりしたテーマがあって作るのかテーマは後で分析して言語化するのかなど、曲作りのプロセスを教えていただけますか。

(kawauchi)
歌詞先、曲先、同時、全てのパターンがあります。歌詞先の場合は、曲を作る前の段階でテーマがはっきりしていて、言葉が前面に出たり、歌ものになることが多いです。例えば『グリストラップミー』『肌と肌』『君が発火している』などの曲があります。曲先の場合は、自分自身の経験や、他アーティストの曲など、そのときにインプットされたものから受ける影響が大きく、運転中などに頭の中で考えたフレーズや、鼻歌をもとに、肉付けしていく感じです。最初の時点で曲のテーマがはっきりしていることが多いのですが、作っていくうちに変わっていくこともあります。歌詞のテーマは後からです。同時の場合は、言葉遊びが発展して、曲になったものなどがあります。移動の車内でくっちーと、思いつきで同時に違うリズムの言葉を言ってみて、iPhoneで録音して聴き返し、「使えそうだからこのアイデアを元に曲を作ってみよう」みたいな感じです。この場合、曲のテーマは後からです。

――kawauchiさんが歌詞や曲のアイデアをある程度固めた段階でくっちーさんに聴かせて、そこからアイデアが磨かれたり変化したり、アレンジが加えられることが多いというイメージで正しいでしょうか。

(kawauchi)
そうですね。

――曲作りのプロセスとしてはどのパターンが多いですか。

(kawauchi)
最近は曲先のパターンが多いです。曲先の場合は、くっちーに聴かせる段階で、頭の中に、ある程度の構成やイメージが出来ていて、それを伝えながらアレンジを進めていきます。録音した音源を後日聴いてみて、イメージと違ったり、録音した時とやりたいことが違ってきたためボツになることも多く、1曲を作るのに時間がかかる方だと思います。信頼している友だちに意見を求めることもありますし、ライブで1度演奏して終わってしまうことや、演奏を重ねて固まってくることもあります。


てあしくちびる TEASHIKUCHIBIRU
てあしくちびる TEASHIKUCHIBIRU

バイオリン×アコースティックギター×声×声
2ピースバンド「てあしくちびる」

kawauchi banri(vo.ag)、くっちー(vo.vln.etc)により2010年結成。2人きりの人間とアコースティックギターとバイオリンによる編成。編成ありきではなく、そういったある種の制約に対して「その向こう側に飛翔しようとすることでしか得られない」感覚を通過したリズムや音や言葉や声で表現。

てあしくちびる オフィシャルサイト
http://teashikuchibiru.net/


2. 曲のテーマ ~『グリストラップミー』を例に

――2014年に作曲し、ファーストアルバム(※1)のレコ発(※2)で初披露した『グリストラップミー』を例に挙げ、曲のテーマについて解説していただいてよいでしょうか。

(kawauchi)
先ほど言ったように、『グリストラップミー』は詞先です。詞が100%先にできていたわけではないけれど、ある程度の詞の骨組みやテーマは曲をつけるより先にできていました。この曲ではグリストラップ(※3)という言葉を象徴的に使っています。自分は学生時代に、スーパーの惣菜売場でバイトをしていたことがあるのですが、そこでグリストラップの掃除をしていました。グリストラップは、調理場の排水から油などが下水に流入しないように、油を抑えるという役割の装置です。グリストラップが臭かったり汚かったりしたことが印象に残っています。この曲では「そのまま出してしまうとあからさまだったりグロテスクなものをフィルターに通す」ということの象徴として引用しました。
てあしくちびるを始める前、ソロで活動していた時は、自分の中にあるドロッとしたものやグロテスクなものをそのまま表現していたのですが、てあしくちびるとして活動し始めてからは、それをフィルターに通すというか、濾過するようなやり方で音楽を作ることを実践しはじめました。その姿勢と、グリストラップの役割に重なるところを感じたんですよね。
しかし、フィルターに通すということの象徴として引用しているにも関わらず、『グリストラップ ミー』の歌詞は、てあしくちびるの楽曲の中でも、ドロッとしたものを割とそのまま出しています。根本に「濾過する」ということがテーマとしてあるんだけど、『グリストラップミー』ではよりストレートにドロっとした言葉を敷き詰めている。そういった矛盾を孕んだ曲でもあります。

てあしくちびる『グリストラップ ミー』(「土曜日のひねせん」での演奏)
日時:2015/2/21(日) 会場:落合soup

――「濾過する」ということが、てあしくちびるの音楽のテーマとしてあるんですか。

(kawauchi)
そうです。「濾過する」ということは一つの姿勢というか手法というか…。プリミティブなところから始まったとしても、曲として完成するまでには、あらゆるフィルターを通るというイメージです。

――『グリストラップミー』の歌詞では労働について語っていますが、「休憩室に飾られた一輪のカスミ草がじっとおれを見つめている」など 、視覚的なイメージの交え方がとてもわかりやすいと感じます。 饒舌に語るよりも共感できます。

(kawauchi)
感情を込めて書いているが故に、自分の気持ちではなく、感情がグワっと湧き上がったときのシチュエーションをそのまま記したりします。モヤモヤしたりとかイライラしたりという負の感情がどういうときに湧き上がったか、そしてそのときに俺は何を見ていたか。自分の気持ちを語らなかったとしても、そのシチュエーションをリリックにすれば、リスナーの中に入っていく表現として、その言葉が曲の中で生きるだろうと思っています。

※1)てあしくちびる ファーストアルバム 『Punch!Kick!Kiss!』
リリース:2014年6月11日 価格:¥1,500(税込) 品番:RWA14-M001
http://teashikuchibiru.net/discography

※2)てあしくちびる ファーストアルバム『Punch!Kick!Kiss!』 リリースパーティー
日時:2014年5月17日(土) 会場:秋葉原CLUB GOODMAN
出演:こまどり社、はなしミニマルチンドン、DOTAMA、ギギ、赤い疑惑、BOSSSTON CRUIZING MANIA、てあしくちびる

※3)「油水分離阻集器のことで、油脂を含む汚水が排水管設備を妨げないよう設置を義務づけられた装置です。 グリストラップは、野菜くずや残飯を入口のバスケットで阻集すると共に、水と油の比重差により浮上した油脂分のみを表面に貯める働きをします。」(エキップ株式会社 WEBサイト ”グリストラップとは?[http://greasetrap-e.shop-pro.jp/?mode=f2]”、参照2017-04-07.)

てあしくちびる インタビュー写真
てあしくちびる インタビュー写真

3. 曲が湧き上がる時

――kawauchiさんが曲を作る時、どういう心境が多いでしょうか。

(kawauchi)
ソロ活動の時には、怒りや苛立ち・怨念のようなものを自分自身、そして自分以外の全てにぶつけつつ表現していました。また、てあしくちびるの初期には、あらゆる面において、それらに幾重にもオブラートを重ねた表現をしようと試みていました。ただ近年では、そういった意識で表現をすることはあまり無くなってきています。
生活の中での「違和感」は、今もかつても大きなテーマではあります。決して恵まれているとは言い難い労働環境、日々感じる政治不信。そういった違和感は絶えることがありませんが、自分たちの音楽がいわゆるプロテスト的方向に行くのはあまり自然ではないような気がしています。

――『グリストラップミー』は労働をテーマにしています。一方、昨年行った『みずのき冬の演奏会』(※4)のアフタートークなどで、『ペリ』のテーマについて「政治的なニュアンスがある」「自分たちが油断したときに、大きな流れに対して無意識になって、それらに取り込まれたりひっついたりしてしまうことが怖いと感じていて。 そうなりそうな時には、自分の意思で剥がすことが重要だと思っています」(※5)ということをおっしゃっています。また『ヒドラ』はウルトラマンの怪獣の名前で、ヒドラが登場する回(※6)の物語にインスピレーションを受けて作った曲と伺いました。他に『関東平野がここからぶった切られているのを毎日感じている』のように「地方都市の閉塞感」をテーマにした曲もあります。一つひとつの楽曲にフォーカスすると、生活の一部がトリミングされているように見えるんだけれど、てあしくちびるの表現全体にフォーカスすれば、生活の中での特定の場面に表現が結びついているというより、生活におけるあらゆる経験、思想、感受性が表現に結びついているような印象を受けます。

(kawauchi)
曲が生まれるシチュエーションは本当にバラバラなんですよね。「よし曲を作ろう」と、机や楽器や譜面に向かって作るわけではない。楽しみにしていた他ミュージシャンの新譜がリリースされ、それに影響を受けて「作りたい」と思うような時もありますが、それよりも普通に生活する中で音楽と向き合おうとしていないときにふと結びつくことが多いんです。意識して音楽と結びつけようとしないときにこそ、音楽が湧き上がってくるんですよね。

――「自分たちの音楽がいわゆるプロテスト的方向に行くのはあまり自然ではない」とおっしゃっていましたが、なぜ自然ではないと感じるのだと思いますか。

(kawauchi)
プロテスト・ソングは、恐らく特定のメッセージから生まれるんだと思います。でも、てあしくちびるの音楽は何か特定の考えじゃなく、普段あまり意識していないところなどから生まれてくるので、プロテスト・ソングにはなり得ない。生まれたシチュエーションが、プロテスト的ということはあるかもしれないけど。

――確かに意識していないところから生まれるのであれば、メッセージ足りえないというのは自然なことですね。ではメッセージがあるけど意図的にフィルターにかけてそぎ落としているというわけではなくて、そもそもアイデアとしてアウトプットされる時点でプロテスト的じゃないものが出てくるということですか。

(kawauchi)
そうです…いや、どちらもあるかもしれないですね。意図的にそぎ落としている部分もある。でもどちらかというと後者です。曲を作ろうと思うときはあらゆる外的要因による、違和感、苛立ちからはじまるのかもしれないけど、あえてそぎ落としたりしなくても、曲としてアウトプットする時点ではもうプロテスト的なところがなくなっている。そぎ落とすという意識がなくても、曲の体を整える…つまり音楽的になると希薄になっているというか。

※4)『みずのき 冬の演奏会』はみずのき絵画教室で生まれた作品のイメージを用いて制作したアニメーションと生演奏によるライブ。アニメーションを映像作家 浦崎力、音楽をてあしくちびる、プロデュースを本記事のインタビュイーである中本真生が担当。絵が描かれた場所である、障害者支援施設みずのきにて開催され、施設内の絵画教室にてアフタートークを行った。

『みずのき 冬の演奏会 ~みずのきの絵たちから生まれたアニメーションと生演奏~』
日時:2016年12月18日(日) 会場:みずのき(障害者支援施設)
プロデュース:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO) 主催:みずのき美術館
http://www.mizunoki-museum.org/exhibition/winterconcert/

※5)同アフタートークより引用。

※6)ウルトラマン 第20話『恐怖のルート87』

てあしくちびる インタビュー写真
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4. 意図と解釈

――意図的に、プロテスト的な要素をそぎ落としているという意識があるのならば、「自由に解釈できる振り幅を残す」とか「リスナーに、それぞれの中で意味を持たせてほしい」といったことを考えているのかなと思っていたのですが、話を聞く限り、そういうことでもないでしょうか。

(kawauchi)
「どうとでも解釈できる言い方にして、聴いた人に自由に解釈してもらう」というのは、ちょっと違うと思っています。歌詞に関しては、しかるべきプロセスを経てそういう言葉が出てきたわけだから、当然意図はあるし、「こういうことを伝えたい」という思いはあるので。自分としては、割とわかりやすく言っているつもりなんですけど。煙に巻いているような意識はないです。

――例えばてあしくちびるの曲を聴いて、「このフレーズではこういう音を聴かせたいんだな」ということはなんとなくわかりますが、じゃあ『ペリ』を聴いて、そこに込められた思いが伝わるのかというと微妙なところじゃないですか。

(kawauchi)
そう…ですね…。でも『ペリ』について言えば、「くっついたらはがす」というフレーズ以外に関しては、すごく具体的な言葉を使っていると思うんですね。

てあしくちびる『ペリ』(MV)
監督:浦崎 力

(くっちー)
そこにズレがあるんですよ。banri君は伝わると思っていて。ライブでも「歌詞を聞き取って意味まで理解してくれる」くらい、わかりやすく言っているつもりなんです。私は、きっとそれは難しいことで、歌詞カードをじっくり読んでもらったとしても、人によって理解の仕方も違ってくると思っています。だから最近では、banri君に「こういう歌詞を考えたんだけど」と見せてもらったとき、「これはけっこう伝わりにくいんじゃないか」という意見を伝え、言葉を変えていくというやりとりが結構あります。

――特にライブに関して言うと、私の知る範囲では「歌詞がほとんどわからなかった」という人も少なくない気がします。私の知り合いで、柏のライブ(※7)を観た人も、『関東平野がここからぶった切られているのを毎日感じている』の歌詞について、ほとんど聞き取れなかったと言っていました。みずのきでのライブのアフタートークでも、「ヒドラ」を「シンドラー」と聞き間違えた人がいたじゃないですか。でも、必ずしも歌詞を聞き取れた人だけがてあしくちびるをいいと言っているわけではないとも思います。

(くっちー)
そう、そうなんです。

(kawauchi)
(くっちーの方を見ながら)仮に歌詞が聞き取れなかったとしても、こういう言葉を発しようとしたときにしか生まれ得ない空気やテンションは絶対にあるはずじゃん。しかるべきプロセスを経て完成した言葉を発さないことには生まれ得ないニュアンスというのがあると思っているんですよ。単なる音とかリズムじゃなくて、だからその方針は…。

(くっちー)
例えば「こういうことが言いたい」という意図があって言葉を選んだとしても、ライブで演奏したときに、歌詞を全部聞き取ってもらうのは難しい。だからまずは「このフレーズがひっかかる」とか「そこだけが耳に残る」とかでもいいのかなと思っていて。「この曲の中ではこの言葉を繰り返し使おう」という意見を出しながら作ることもあります。

(kawauchi)
隅々まで伝えるということであれば音楽である必要はないので。

(くっちー)
ただ、そこで諦めていないというか。試行錯誤はしていて。

(kawauchi)
諦めてしまったら...。

(くっちー)
歌詞の作り方もどんどん変わってきてます。

※7)映像芸術祭“MOVING 2015”のプレイベントとして開催された、映像作家とミュージシャンによるライブ・パフォーマンス・プログラム。京都公演は旧歌舞練場の五條會舘、柏公演は映画館のキネマ旬報シアターで行われた。

『MOVING Live 0』(柏公演)
日時:2014年10月19日(日) 会場:キネマ旬報シアター
出演:柴田剛+池永正二[あらかじめ決められた恋人たちへ]、宮永亮+志人、山城大督+swimm、浦崎力 +てあしくちびる
企画:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO) 主催:MOVING 実行委員会
http://movingkyoto.jp/archive/#sec02

てあしくちびる インタビュー写真
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5. 表現の変化 「とにかく一回骨になりたかった」

――次に表現の変化について聞いていきたいと思います。先ほど「伝えるための試行錯誤」というお話をされていましたが、一方でkawauchiさんは、このインタビューのための「曲を作る際、どういう心境が多いか」という事前質問に対して「聴く側が、曲の生まれる発端から結果を安易に想像し得ないプロセスを経たいという下心は常にある」と答えています。私が最も「どのような思考から生み出されたのか」を想像できなかった曲が、2015年に作曲して、2016年にリリースしたセカンドアルバム(※8)の冒頭に収録されている『日常』でした。あの曲がセカンドの1曲目に入っているということは、ファーストからの振り幅という意味でも、とてもインパクトが大きい。『日常』について、作詞・作曲の経緯・手順を解説していただけますか。

(kawauchi)
それまでは、歌詞の骨組みがある程度できたら曲に着手するか、曲の骨組みがある程度できたら歌詞に着手するか、自然とどちらかのプロセスで作っていたのですが、『日常』に関してはほぼ同時に作りました。この頃までは「詰め込んで詰め込んで立体的な音像を作る」ということにすごく力を入れてた。二人の声と二つの楽器を上手く組み合わせて、立体的だったり、意図しない方向に乱反射してガっと持っていくような音楽が、ある種のてあしくちびるらしさでした。でも『日常』では音とリズムと意味を抜いてみようと思ったんです。なので作詞のプロセスも他の曲とは全然違う。今まで「これは絶対に必要かもしれない」と思っていた言葉と音さえも、あえて抜いたりしています。『日常』ができた頃は、私生活で色々大きな転機があった時期でした。精神面での変化を意図的に反映しようと思ったわけではないんですけど、そういったことも影響しています。

(くっちー)
セカンドの録音と同時進行で作った曲です。

(kawauchi)
セカンドのために新しい曲を作りたいと思って作ったのが『日常』と『Odd le KITAKANTOW』です。この2曲については、自然に生まれたというより「セカンドの方向性が固まったから、その方向性に沿った曲を作ろう」という経緯がありました。他の曲とはその点が大きく異なっています。

――ファーストをリリースするまでにおける、リスナー目線でのてあしくちびるらしさの中で、一番わかりやすいのは「栃木出身・在住」「アコースティックギターとバイオリンでラップ」「言葉遊び」みたいところだったと思うんですよ。「他にないような方法で、世の中にないものを送り出してやろう」みたいな気概もあったように感じていました。私が初めててあしくちびるの存在を知ったのは、ファーストのトレーラーが公開されてすぐくらいだったのですが、自己プロデュースされている感じがすごくありました。でも『日常』はかつての「てあしくちびるらしさ」とは一線を画している。ラップでもないし、言葉遊び的な要素さえ少ない。それがアルバムの1曲目に入っているというのはすごく象徴的だと思っていました。自分たちが今まで築き上げてきたてあしくちびるらしさについては意識していたのでしょうか。

(kawauchi)
セカンドでは自分たちらしさを一旦解体したいという気持ちがあった。だから(くっちーの方を見ながら)この人がどう考えているのかはわからないけど、『日常』っていうスカスカで骨みたいな曲がセカンドの1曲目にあるということは、俺にとってはすごく重要で。しっかりした意図をもって曲順を決めました。自己プロデュース…そうですね。『New Error』とかは自己プロデュースの最たるものかもしれない。とにかく一回骨になりたかった。

てあしくちびる ファーストアルバム『Punch!Kick!Kiss!』 トレーラー
曲:てあしくちびる『New Error』 撮影:池上賢太郎 監修/編集:浦崎力

(くっちー)
ファーストをリリースしてセカンドを出すまでに、色んな曲を作ったけど、その時期に作った曲って、今でも演奏するような曲が少なくて。ライブで1、2回だけ披露してすぐに演奏しなくなってしまう曲がすごく多かったんです。自分たちのやりたいこととか、こうしていきたいということがどんどん変化していってるというのもあるし、色んなところで演奏させてもらう機会が増えたことで、幅を広げたい、色んな人に聴いてもらえる曲を作りたいという気持ちが強くなった。

(kawauchi)
当時、面と向かって「面白いんだけど聴き辛い」と言われたことが印象に残っていて…。それにすごいムカついて、「じゃあ」っていう気持ちもなくはなかった。ファーストの時は意図的にToo muchにしている部分もあったけど、抜くときも少し過剰なまでに抜いてみようと。自分たちの中ではすごく勇気をもって抜いたつもりなんです。振り切るレンジが大きければ大きいほど面白いって俺は思った。

(くっちー)
てあしくちびるらしさについて、人によって色々感じることはあると思います。でも自分たちが今面白いと思うことをやったらそれがてあしくちびるの音楽だし、変化していったとしてもそれがてあしくちびるの音楽であることには変わりない。それを面白いと感じてもらえるんじゃないかと思った。

(kawauchi)
そうだね、自信みたいなものがあったのかもしれないね。別のやり方をしたとしても、「てあしくちびるらしさが損なわれた」ではなく、「幅が広がった」と認識してもらえるんじゃないかという自信が...。

(くっちー)
でもリリースするまではすごく不安でした。

(kawauchi)
自分たちが好きなのはセカンドの方です。セカンドの方が末長く聴き続けられる音楽になった気がします。ファーストも「作品を作ろう」という意識で作りましたけど、結果的に作品というより、「こういう音楽を作ろうとした」という記録…その時の熱量が詰まった記録のようになっている気がするんです。

――こういう心境の変化に関しては、日々二人で話し合うのでしょうか?

(kawauchi)
話し合いますね。自分は、その時々の曲の作り方とか活動方針に関して、外的な影響を受けてすごくブレるんですよ。そういうときに「ちょっと待って」と冷静に判断できるのはどちらかというとこの人(くっちー)の方ですね。

※8)てあしくちびる セカンドアルバム 『coreless』
リリース:2016年6月3日 価格:¥2,000(税抜) 品番:CL-0365 レーベル:Club Lunatica
http://teashikuchibiru.net/discography

てあしくちびる インタビュー写真
てあしくちびる インタビュー写真

6. くっちーの役割と関係性~『くちびるこうた』を例に

――そうしたら、このままの流れでくっちーさんのてあしくちびる内での役割について伺いたいと思います。セカンドに収録されている『くちびるこうた』は、くっちーさんが作詞作曲からアイデアを出した曲だということですが、どのようなアイデアを元に作ったのか解説していただけますか。

(くっちー)
『くちびるこうた』は2012年に作曲しました。骨組みはほぼ私が作っています。作曲してみようと思った時、自分にできることを考えたのですが、私はbanri君よりも聴いてきた音楽の量が圧倒的に少ない。そこで、昔習い事としてやっていたクラシックで培ったものをアイデアに生かせないかなと考えました。クラシックには色んなリズムのパターンを練習するための教本があるのですが、それを参照し「このリズムは面白いな」と感じたものを採用することにしました。譜面で見ると、四拍子の中でどこに休符やアクセントがあるかだけの違いだけなのに、実際に演奏してみてbanri君に聴かせると、変拍子みたいだったり、複雑に聴こえたりするリズムもあって。そういう面白さを意識しました。

――くっちーさんが、てあしくしびるで、アレンジするときや曲について何か意見を言うときに、大きく意識していることはありますか。

(くっちー)
アレンジに関して言えば、banri君はけっこう頭の中で曲を作る人なので、曲をもらった時に「こういうリズムになっている」というのを共通認識できる状態にするため、譜面に起こしています。あとは、やはりToo muchになっている部分がどうしても多いので、そこを客観的に聴くようにしています。banri君はたくさん展開するのが好きなのですが、「もう一周これを繰り返してもいいんじゃないかな」とか、自分が1リスナーになったつもりで意見を伝えます。歌詞については、先ほど言ったように、banri君が伝わると思っているけど、わかりにくい部分について「ここはもう少しわかりやすくした方がいいんじゃないか」と伝えたりします。
こういうふうに言うと、私の方が理論的に考えているような印象を受けるかもしれないですが、多分banri君の方がアイデア自体はしっかりしていると思います。banri君からしたら、私の方が突拍子もないようなアイデアを出しているかもしれません。『みずのき動物園』(※9)のような曲を作るときには、定型にはまっていないような部分が逆にプラスになっているのかなと思うんですけど。使える使えないはさておいて「ここをこうしたらいいんじゃないか」というような思い付きをbanri君に投げて判断してもらうようなアイデアの出し方をしています。

てあしくちびる『水辺のみずのき動物園』
音楽:てあしくちびる 録音・mix・マスタリング:2ru

――くっちーさんには、一貫して「わかりやすく」とか「伝わりやすく」という意識があるような気がします。作曲やアレンジだけでなく、歌い方にしても、バイオリンの音色にしてもそう感じます。先日、『ペリ』のMVを監督した映像作家の浦崎力さんに「てあしくちびるにインタビューするんだけど、今のタイミングでこれは絶対聞いた方がいいと思うことはなんですか」とメールしたんです。そのやりとりの中で、「僕はバイオリンの音色とくっちーさんがいなかったら、kawauchiさんの言葉や音楽は極極極極極一部にしか伝わらなかったと思うので、くっちーさんの存在は本当に大きいと思います」という言葉が出てきました。

(kawauchi)
ああ、なるほど(笑)。それはそうだね...。

(くっちー)
banri君はわかりやすくしているつもりなのに心外だね(笑)。

(kawauchi)
まあ、でもそうか...(笑)。心外ではないですよ。そうなんだろうなという自覚はありますね。本当にそうですね。同じ言葉を同じように演奏していても...そうだよな...。

――くっちーさんが作詞作曲からアイデアを出した曲として、他に『Punch!Kick!Kiss!』などもありますが、『くちびるこうた』にも『Punch!Kick!Kiss!』にも共通して多幸感がある。そもそも暗い曲や、難解な曲、わかりにくい曲があまり好きではないのかなと。そういう点に関しては、音楽的な趣向について、割とバンドとしてぶつかっている部分があるんじゃないかという印象です。

(くっちー)
そうですね。

――kawauchiさんよりもくっちーさんの方が、趣向がはっきりしているんじゃないでしょうか。kawauchiさんはなんでも取り入れようとするじゃないですか。であるがゆえに、ブレたり、わかりやすさや明るさが損なわれるときがあって、その時にくっちーさんの明確な趣向がいい具合に軌道修正しているというか。そういう意味では趣向がはっきりしているというのはすごくいいことだと思うんです。一方で難しかったとしても暗かったとしても、一度受け入れてみるという、kawauchiさんの姿勢もすごく重要な感じがします。

(くっちー)
はい。

――kawauchiさんは、以前、てあしくちびる結成の経緯の話で「ソロでやっていた時に、自分の表現が認められるとは思えなかった。渋谷アピア(※10)では評価してもらっているけど、そこを出て評価されるとは思えなかった」(※11)というふうに語っていて、その流れでくっちーさんが参加したとおっしゃっていました。当初から「わかりやすくなるんじゃないか」「みんなに伝わりやすいようになるんじゃないか」という期待があったわけですよね。

(kawauchi)
それは意識していました。その頃はインプットの幅がすごく広がっていた時期だったんですね。それなのに自分がアウトプットできる幅がほんの少ししかなくて。どうにかして幅を広げたいという気持ちが強くあってお願いしました。

――最初からくっちーさんの音楽家としての素質にも可能性を感じていたのでしょうか。それともあくまでバイオリンという楽器が必要だったということですか。

(kawauchi)
いや、もちろん「プレイヤーとしての技術が伴っているから、自分のアイデアに対してもプレイヤーとしてしっかり応えてくれるんじゃないか」という気持ちはありました。共に何かを生み出すというような期待は、正直なかったです。

――くっちーさんからの影響が主な理由なのかはわかりませんが、セカンドのkawauchiさんの歌い方を聴くと、やわらかくなっているような気がします。

(kawauchi)
そうですね...。

(くっちー)
それはします。最初は本当に怨念の塊のようで(笑)。「なぜ理解されないんだ」という思いが強過ぎて、そういうことでしか音楽を表現していない感じだったのが、どんどん変わっていってるんじゃないかと思います。

取材・撮影:2017年3月11日 取材場所・協力:ひかりのうま(大久保)

※9)終夜展示企画『ALLNIGHT HAPS「暗闇から真昼を覗き見る」』にて開催された浦崎力 個展『夜のみずのき動物園』及び、屋外展示『光の庭』に出品されたみずのき美術館×浦崎力による映像作品『水辺のみずのき動物園』にて、てあしくちびるは音楽を担当した。

浦崎力 個展『夜のみずのき動物園』
会期:2014年9月5日(金)~30日(火) 会場:HAPSオフィスの1階スペース(京都)
協力:みずのき美術館 企画:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
主催:東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)
http://haps-kyoto.com/kurayami/

『光の庭』
日時:2016年11月26日(土)~12月25日(日)
[前期]2016年11月26日(土)~12月11日(日)
[後期]2016年12月15日(木)~12月25日(日)
※『水辺のみずのき動物園』は後期に展示。
会場:京都府立陶板名画の庭(京都)
原画:みずのき美術館所蔵作品 プロデュース:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
主催:京都府
http://www.mizunoki-museum.org/hikarinoniwa/

※10)1970年渋谷にオープンした老舗ライブハウス。現在の名称は「APIA40」。
http://apia-net.com/

※11)Ustreamで配信された「おれコプ(おれのヘリコプターにきみものれよ)41 てあしくちびる河内伴理大解剖!生い立ち、青春、活動開始」の中での発言から引用。

《おれコプ41》 2014年7月23日配信
パーソナリティ:NEU譲(from. やまのいゆずる)、はっとりあつし(from. YOYOYOYORUNO)
ゲスト:kawauchi banri(てあしくちびる)
以下、配信のアーカイブ。
https://www.youtube.com/watch?v=OOQ5lyZvpFw


中本真生 Nakamoto Masaki
中本真生 Nakamoto Masaki

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。UNGLOBAL STUDIO KYOTO代表。&ART編集長。映像芸術祭MOVINGディレクター。

&ART
http://www.andart.jp/

MOVING公式WEBサイト
http://www.moving-kyoto.jp/


てあしくちびる インタビュー
“2017, In the place to be” 前半

Category: Feature





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