25, Mar 2011

「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展
インタビュー南川憲二(wah document)×清澤暁子(京都芸術センター)

京都芸術センターボランティア・スタッフが中心となって展覧会を企画運営する"てんとうむしプロジェクト"と、一般募集した参加者同士の会話や反応から生まれた企画を実行するユニットwah document(ワウ ドキュメント)。この両者による共同展覧会が2011年3月8日~3月27日の日程で京都芸術センターを会場に行われている。今回実行されるアイデアは"つなわたり"。「芸術センター史上最大の試み」と位置づけられる本企画について、wah documentの南川さん、本展覧会を担当する京都芸術センターの清澤さんにお話を伺った。

聞き手:中本真生(&ART企画・編集・広報担当、アーティスト)
インタビュー撮影:表恒匡

「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展 フライヤー

「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展 フライヤー

開催の経緯

――今回はてんとうむしプロジェクトとwah documentの共同展覧会です。wah documentを招くことになったのは、京都芸術センターとてんとうむしプロジェクトどちらからの提案だったのでしょうか。 (清澤)
てんとうむしプロジェクトは、京都芸術センターの開設10周年記念行事の一環として始まりました。2010年3月にてんとうむしプロジェクトとして最初の展覧会を行ったのですが、その時すでにwah documentの名前は上がっていました。
ただ、急な話だったので、wahの予定がすでに埋まっていて実現できませんでした。「ドキュメントの展示だったらできる」というお返事をいただいたのですが、一緒に何か作っていくという形にしたかったので、見送ることにしました。一年越しでもう一度打診をして、今回やってくれることになりました。

プロジェクト告知PR映像 by wah document

――その後1月から京都芸術センター内にアイデア募集掲示板を設置し、アイデアを募集し始めていますね。それまでにもwah documentとてんとうむしプロジェクトの間でミーティングはあったのでしょうか。 (南川)
ギャラリー・スタッフ、ボランティア・スタッフと打ち合わせはしました。最初は「wah documentが企画の枠組みを決め、館内で遊ぶ」「ボランティア・スタッフがキュレーションする」など、与えられた条件内に収まる範囲で、と考えていました。
しかしボランティア・スタッフの方に会い、こちらが場を作らずともすでに強力な場がそこにあると感じ、彼らの感性で何か作った方がおもしろいと思い始めました。wahはこれまでに50回以上プロジェクトを行ってきているのですが、今まで出会った参加者の中でもインパクトが強いと感じる人がたくさんいました(笑)。こういった独特な感性を持った参加者が集まること自体が貴重でしたし、打ち合わせの段階で、僕ら自身その感性をフルに体験したいと思いはじめました。
(清澤)
てんとうむしプロジェクトの第一回ミーティングで、ギャラリー・スタッフとボランティア・スタッフだけで「wahはこういう活動をしている人たちです」ということについて勉強会をしました。その後wah documentにボランティア・スタッフの前で企画をプレゼンテーションしてもらったのですが、その時に厳しい意見がたくさん出ました(笑)。「先が見えているね。その後何が出てくるの」というようなこともたくさん言われていましたね(笑)。
(南川)
「これでどうやって続けていくの」とか(笑)。

アイデア募集掲示板

アイデア募集掲示板 photo by OMOTE Nobutada

――いつもの参加者よりも鋭い意見が多かったですか。 (南川)
本当にそう思いました。でもボランティアの方からいただいた意見は決して当てずっぽうではなく、彼らがセンターに関わり、色々なものを見てきた中で感じた実感をもとにお話されていると思いました。

―始めから今回のようなプロジェクトの進め方をする予定だったわけではないんですね。 (南川)
そうです。

―280件を超えるアイデアが集まったと聞いています。すごい数ですが、募集掲示板を設置しただけで、これだけの数が集まったのでしょうか。 (南川)
掲示板以外にも自分たちで何回かミーティングして案を出したり、街頭にアイデア募集のアンケートをとりに行きました。
(清澤)
wah documentのメンバーが最初の打ち合わせの時に強力な場を感じたという経験から、はじめに考えていた「うまく場を作ってボランティア・スタッフを取り込む」という方向性でのプランは一回白紙になりました。打ち合わせの場でおもしろいアイデアを選ぶという、wah本来の手法でボランティア・スタッフと関わるという方針に変わったんです。
「アイデアを集めよう」ということになったのが昨年の12月末です。それから募集掲示板を設置したり、街角アンケートや、館内で何ができるのかを集中して考えるツアーをボランティア・スタッフと一緒に行いました。こうして集まったのが280件のアイデアです。
(南川)
あるボランティア・スタッフのおばちゃんが、アイデアを集めるために頑張ってくれたのですが、その方法が本当にすごかったんです(笑)。
子どもの手を持ってアイデアを書かせたり、行きつけの美容院の方に書いてもらったり、「回収に来るからこの時間までに書いといて」と言ってメガネ屋さんにアイデア用紙を渡したり、街中にいる一般の警備員さんに宿題として渡したり(笑)。今までにこういった参加者はいなかったですね(笑)。その他にもパワフルな方が何人かいました。


wah[ワウ]
wah[ワウ]

各地へ赴き、そこで一般募集した参加者とその場で出し合ったアイデアや、その街で集めたアイデアを即興的に実行する一過性の参加型表現集団。南川憲二、増井宏文の二人が中心となり、その活動の運営と記録を行う。
主な活動の場として、「wah lab」(東京都現代美術館・川俣正『通路』展)、「アトリエほうさく」(北海道東士狩小学校家庭科室)、「wah office」(埼玉県北本市)など。
主な参加プロジェクトに「すみだ川アートプロジェクト2009」(東京)、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009」(新潟)、「A Blow to the Everyday」(香港・中国)がある。

南川憲二(みなみかわ けんじ)
1979年大阪生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科修了。

増井宏文(ますい ひろふみ)
1980年滋賀生まれ。佛教大学教育学部教育学科卒業。

wah document|ワウ ドキュメント
http://wah-document.com/


清澤暁子 KIYOSAWA Satoko
清澤暁子 KIYOSAWA Satoko

京都芸術センター・アートコーディネーター。2008年から勤務。ギャラリー事業のほか、通信紙『明倫art』の編集、若手芸術家に「制作室」を 提供する「制作支援事業」などを担当。 企画展覧会に、「panorama-すべてを見ながら、見えていない私たちへ-」(2010年)、夏休み企画展・少年少女科学クラブ「理科室の音楽、音楽室の理科」(2009年)などがある。
photo by OMOTE Nobutada

京都芸術センターウェブサイト
http://www.kac.or.jp/


アイデア公開審査会

――集まったアイデアから一推しのもの9件を選び、wah documentがアイデア公開審査会でプレゼンテーションしたそうですね。この9件のアイデアをどのように選択したか、伺ってよろしいでしょうか。 (南川)
9件は僕とwah documentの増井宏文で選びました。みんなでアイデアを出して実行し、究極の“おもしろい”を作ることが活動の目的としてあるので、「おもしろい度が高い」ということを大事にしています。それに「人の感性に触れる」、「無責任に盛り上がる」ということを合わせた、3つの基準で選びました。その基準に見合う「どれが選ばれてもプロセスも含めて楽しめる9件」を、ボランティア・スタッフにプレゼンテーションして審査してもらいました。

公開審査会風景

公開審査会風景 画像提供:京都芸術センター

――9件の中で採用されなかった案を見て、気になったものがあるのですが、“原井さんの個展”というのはどういうアイデアだったのでしょうか(笑)。 (南川)
原井さんはボランティア・スタッフの一人です。一度会ったら解ると思うのですが、原井さんはとめどなく表現しているような人なんです。本人も作品を作っているのですが、原井さん自身がパワフルで魅力的なので、どうにかそれを形にできないかという話になったんです。それを本人に相談したら「ジョニー・デップが好きなので、ジョニー・デップの顔でギャラリーを埋め尽くしたい」と言うんですよ(笑)。「京都芸術センターの地面にジョニー・デップの顔写真を集められるだけ集めておいてもらえれば、コラージュしていく」と。それを館内全体で行い、原井さんの世界に触るというアイデアです(笑)。

――では、この“地獄”というのはどんなアイデアでしょうか。 (南川)
ご年配のボランティア・スタッフのアイデアで、南と北それぞれのギャラリーに“針山地獄”と“血の池地獄”を作るというものです。ギャラリー内に起伏のある山状のグラウンドを作り、そこに無数の針が刺さっていたらきれいじゃないですか。もう片方のギャラリーには血の池と桟橋があって、赤い液体の底からポコッポコッと気泡が出てくる(笑)。地獄の裏側にある美のようなものを出せればと思っていました。なぜ地獄の裏に美がないといけないかは不明なんですけど(笑)。
この方のアイデアは、ものの根源に近づくようなものが多く、その感性に触れたいと思ったんです。僕らなりにアイデアを解釈し、実際形にしたらどうなるかということを考えながらプレゼンテーションしました。

――どれもおもしろいですね(笑)。 (清澤)
プレゼン資料をOHPで映しながらwahがプレゼンテーションをしていきました。時間は計1時間くらい。1アイデアにつき3分の持ち時間があって、3分経つとタイムキープのベルが鳴り、そのアイデアの審査に入る。その後、審査員からの厳しい質疑や寸評が入ります。
全アイデアのプレゼンテーション終了後、隣のスペースで30分程度、ボランティア・スタッフによる討議を行っていただきました。私は司会をやり、wah documentのメンバーもそこにいるけれども話を聞くというスタンスです。こうして9つのアイデアが3つに絞り込まれました。

アイデア用紙とプレゼンテーション資料

アイデア用紙とプレゼンテーション資料 photo by OMOTE Nobutada

――各アイデアの持ち時間を決めて、参加者に対してwah documentがプレゼンテーションするというのは、今までの活動の中でも行ってきた決め方なのでしょうか。 (南川)
こういう決め方は初めてですね。

――作家が出した条件下でアイデアを一般募集し、その作家の基準によって選んでいくということは他にもあるかもしれないですが、集まったアイデアを作家がプレゼンテーションし、参加者の基準で審査していくというのは特殊ですね。そういう意味ではwahらしい決め方と言えます。 (南川)
この決め方はすぐにピンときましたね。
(清澤)
今までは一般の方と共にアイデアを決定していく過程で、wahが主導権を発揮する場面が多かったと思うんです。回数を重ねるほど、運び方もうまくなりますし。でも今回はプレゼンテーション側に回ることで、一度主導権をなくしてしまっているわけです。wahがおもしろいと思ったアイデアをボランティア・スタッフにポーンと投げ、どれだけ彼らに本気になってもらえるかを試したかったので、公開審査という形にしました。またしつらえにもこだわり、審査会っぽくしました(笑)。
(南川)
ひな壇を作ったりと、すごく頑張ってセッティングしました。

――最終的に“つなわたり”に決まったのはどこが決め手でしたか。 (南川)
審査会の後にもう一度審査員による討議があって、その際に“つなわたり”のアイデアに対するボランティアさんの熱弁があったんです。もともと他のアイデアへの票が多く、このアイデアには票があまり入っていませんでした。「危ない」とおっしゃる方もいて、それを言われるとみんな黙るしかないという感じだったんです。
でも「つなわたり」のアイデアに票を入れていた方が机を叩きながら「何を言ってんねん、これ見やへんかったら何やねん!」と力を込めて訴えて。自分の胸に直接訴えられているような気持ちになり、思わず泣いてしまいました(笑)。それによってみんなの気持ちが変化したんです。最後は拍手の大きさで決定するということになり、“つなわたり”に決まりました。僕らも実はこのアイデアをやりたかったんですけど、全然票がなくてダメかなと思っていたんです。正直な話、wahで50回もプロジェクトをしてきたせいで、経験に囚われているところがあって、「このスタイルではもう限界かな」と思っていたんです。
今は生まれつき目の見えない視覚障害者の方たちと、プロジェクトをしているのですが、僕らもアイマスクをしてその人たちを一切見ないというルールを作り、そのルールの中でwahをやっています。そこには僕らの全く知らない世界があり、本来やりたかった「人の感性に触れる」ということが実現できています。
でも今回京都の地元の人たちとアイデアを出して、おもしろいことができるのかな、という不安があって。だけど、実際ボランティア・スタッフの方と一緒にプロジェクトをし始めると「こんな人たちがいるんだったら、まだ5年くらいはできるんじゃないか」と思いました。京都芸術センターの方に「そう思えたことがうれしかったです」と伝えたら、「そんなもんあたりまえや、できるに決まってるやろこれだけ凄いのが揃っているんやから」と言われてしまいました(笑)。


ボランティアスタッフについて

――募集掲示板で“つなわたり”というアイデアを見たとき、ボランティア・スタッフとギャラリー・スタッフの方からストップがかかって、実現しないのではないかと思ったんです。普通に考えるとこのアイデアが一番実現が難しそうですよね(笑)。京都芸術センターとしても今までこんなに緊張感のあるプロジェクトはなかったのではないでしょうか。 (清澤)
そうですね。アイデアを選ぶところまでは、「何が京都芸術センターにとってふさわしい“おもしろい”なのか」という判断のみで選んでください、と伝えていたんです。「できそうなアイデア」という基準が入ると、実現しやすいものや、皆で一緒に手作りするようなプロジェクトになりがちだと思うんです。でも今回は例えば綱を張ること一つとっても私たちはほとんど手がつけられないですよね。そういうアイデアが選ばれたということはすごいことだと思います。選ばれた時に「どうしよう」とは思いましたけど(笑)。

――安全面でも細心の注意が必要な企画ですよね。 (南川)
ボランティア・スタッフの方たちは、できない可能性が高いということを全部解って選んでいるんですよ。それに取り組むこと自体が見たいというか。「苦しんでほしい」と言われましたね(笑)。
また、あるボランティア・スタッフの方から聞いたのですが、京都芸術センター近くに住む地元の人で、ギャラリーの展示を見に来たことのない人もたくさんいらっしゃるそう。今回のアイデアを実行することができれば、そういう人たちも足を運んでくれるきっかけになるかもしれないじゃないですか。ボランティアの方の意見としては「せっかくこういう機会なんだから挑戦してほしい」と。現実を変えていくのがアートの力だと彼らは思っているんですね。単純にこのアイデアを見たい、ということに加え、そういう事情もあって推薦していたように思います。

――自覚的ですね。 でも上から主張するというわけではないんです。すごく温かい目で見ていて、本当に現実が変わってほしいと願っている。

――清澤さんから見て、ボランティア・スタッフの皆さんは京都芸術センターに関わることで何を求めていると感じますか。 (清澤)
個人的な動機は本当に色々あります。例えば自分でも絵を描いたり、美術に触れるのが好きで、「ここに来たら常に新しい表現に触れていられる」と登録しているという方は多いと思います。これは美術に限らず、演劇やダンスなどに関しても当てはまります。
また定年後にボランティア・スタッフを始めた方の中には、社会との接点が少なくなった状況の中で、繋がりを求めて来る人もたくさんいらっしゃいます。ボランティア・スタッフ同士で繋がったり、センター・スタッフとのコミュニケーションを楽しみにしている方も多いですね。現在登録していただいているのは300人程です。学生や主婦の方からご年配の方まで、幅広い層のボランティア・スタッフが活動しています。
(南川)
僕の母親は僕の作品も見に来ない。なのに、なぜあまり母親と変わらない年齢のボランティア・スタッフの方がお金も貰えないのに作品を見守る仕事をするのか。一緒にお酒を呑んだ時に何度か聞きましたが、5年、10年ボランティア・スタッフを続けている方の中には、強い実感によって作られたすごい動機を持っている人がいます。

――『ボランティア活動』という言葉の定義を見てると「古典的な定義では自発(自主)性、無償(無給)性、利他(社会、公共、公益)性に基づく活動とされるが、今日ではこれらに先駆(先見、創造、開拓)性を加えた4つをボランティア活動の柱とする場合が一般的となっている()」と書かれています。最後の先駆性という部分は芸術センターでのボランティアにダイレクトに当てはまると思います。 (清澤)
ボランティア・スタッフの中には、開館当時から10年間続けている方もいらっしゃいます。みなさんそれぞれに、展覧会や作品について評価をされるんですね。それはいわゆる美術界の基準とは異なるものです。主観と言えばそれまでなのですが、それを3年、5年、10年と継続することでその人の実感が蓄積され、ひとつの価値基準が出来上がっていく。
昨年の京都芸術センター10周年記念の時に、てんとうむしプロジェクトが立ち上がったのは、まず、ボランティアさんと展覧会を協同で企画するということがありました。もちろん普段から会期中には監視に入ってもらっていますし、他にもお手伝いをしていただくことはありますが、もっと深い関わり方で、「ボランティア・スタッフがどのように京都芸術センターのギャラリーを見ているのか」という実感の表れを、何か一つの展覧会として提示できないかと考えたわけです。
当初は一回で終わる予定だったのですが、京都芸術センターならではの展覧会として、継続して第二回目を開催することになりました。今後も三回、四回と続いていってほしいですね。
(南川)
ボランティア・スタッフの実感と期待が、京都芸術センターのこれまでの展覧会とは違って、ある意味でその想定外に広がっている。だからこそ、京都芸術センターの何かが変わるかもしれない。それをみんなが理解しているからこそ、このアイデアが選ばれたんだと思います。

京都芸術センター開設10周年記念事業 てんとうむしプロジェクト「未来への素振り」 Photo: 2010 岡澤里奈

京都芸術センター開設10周年記念事業 てんとうむしプロジェクト「未来への素振り」
Photo: 2010 岡澤里奈

2)引用元:「ボランティア」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。
2011年2月19日 (土) 10:58 UTC、
URL: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2


プランについて

――「いつ、だれが渡るのか」といった情報が公表されていない状況ですが、公表可能な範囲で教えていただけますか。 (南川)
綱の数に関しては当初の半分以下に減らしたのですが、館内に合計11本程度の綱のラインを張る予定です。11本中8本くらいは実際に渡れるラインにしたいと思っています。プランとしてはまず門を入ってすぐのアプローチの対角線上、高さ6mくらいのところに綱を張る予定です。
それから、ギャラリー南と、エントランスとギャラリー南を繋ぐ廊下、グラウンドの周り、ギャラリー北にも設置する予定です。またグラウンドを挟んだ2つの校舎の2階か3階の向かい合う窓から窓に一本綱を張るというプランはどうしても実現したいです。
(清澤)
校舎間の綱は屋上から屋上に通す予定だったのですが、支えどころがなく安全性を確保するのが難しいという判断になりました。現在は3階と3階の窓、あるいは2階と2階の窓、に綱を張るというプランになっています。

「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展 展示プラン photo by OMOTE Nobutada

「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展 展示プラン photo by OMOTE Nobutada

――安全性との両立はシビアな問題ですよね。アプローチに張る綱はどこに結ぶ予定なのでしょうか。 (南川)
取り付け方法はまだ決まっていません。建物を傷つけないよう、「どこで支える」といったことに関してはかなり慎重に進めています。
(清澤)
ワイヤーを人が渡れるくらい張るとすごいテンションがかかってきます。それに耐えうる構造にするため、建築家の方や構造設計の専門家、舞台美術家の方など、色々な人にアドバイスをもらいながら進めています。
(南川)
サーカスに所属していて、つなわたりの50mで世界記録を持っている方が全面協力してくれるという話が一度持ち上がりました。「これで実現できる!」と全員で大喜びしたのですが、結局ダメになりました。そういったことが2、3回続いています。
また今回は展覧会としてやるうえで、何が“おもしろい”のかを説明する必要もあって、展示のプランニングと同時進行で、そういったことについても考えています。その中で今回のアイデアを突き詰めていくと京都芸術センターにつなわたりという異物を連れて来ることがおもしろいのではなく、つなわたりが行われていることで、京都芸術センターの空間が異化されることが重要なのではないかという話になりました。
その“おもしろさ”を基準に、衣装を構想したところ、サーカスっぽい衣装ではなく、普通のボーダー・シャツといった服装の方がいいのではないかと思っています。
(清澤)
サーカスをここに連れ来ることが、今回のアイデアを実現させることではないと思っています。スペクタクルや、サーカス的な盛り上がりとは違ったつなわたり。そういうところを目指しています。
(南川)
だから「今から渡ります」という合図はいらないだろうと考えています。芸術センターに来た人が、他のものを見ている時に後ろをつなわたりが通っていくような自然さが理想です。「自分たちの作品ではない」というスタンスから、作品としての価値がどこにあるか説明しなくてはならないので、淡々と「どうおもしろいか」を考えていく必要があります。「そのアイデアがなぜおもしろいか」を研究する感じですね。

「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展 衣装スケッチ photo by OMOTE Nobutada

「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展 衣装スケッチ photo by OMOTE Nobutada

――各ギャラリー内のプランはどのようになっていますか。 (南川)
ギャラリー北は綱のラインを展示するような形でプレゼンテーションしています。一見綱が張ってあるだけなのですが、訪れた方が「このラインに人が乗る」と気付いた瞬間、一気に緊張感が変わると思うんです。
ギャラリー南では2mくらいの高さに足場を組んで、その上にカフェのようなものを仮設する予定です。屋外からギャラリーの入口を抜けて、ギャラリーの対角線上に綱が張られているので、訪れた人はカフェで外からつなわたりがやってくるのを待つことができる。ソファーに座って本を読んで待っていれば、もしかしたら外からつなわたりが入って来るかもしれない。そういった緊張感を心理的に味わえる構造になっています。また全ラインの中で唯一綱と同じ高さの目線で見ることができる場所でもあります。


現実化と課題点

――カフェというのは意外ですね。「つなわたりをすることがなぜおもしろいのか」については考えず、“おもしろい”のアウトラインを作り込まないスタイルで制作するのかと思っていました。 (南川)
場の性質次第ですね。その場所がそれを求めるのであれば、一つの要素になっていくしかないというか。
(清澤)
wahはこれまでに即興的に集まっておもしろいアイデアを実現するということを行ってきていますが、アイデアを実行して一定期間もてば展示になり得るし、一日で終われば一日限りのパフォーマンスになる。
そのうえで、今回は「展示空間を期間中埋めてください」という依頼をしました。その依頼を前提にしていることも、今回のアイデアがこういったプランで進んでいる理由の一つです。
(南川)
つなわたりを実現させることができれば、ここにカフェがあることは大した問題ではないと思うし、おもしろければ、すべて片付くと考えています。もし会期中ずっとつなわたりの方がいる状態を作ることができれば、最高以上のものができると思っています。これを実現させる状況があれば展示の問題もクリアできると考えています。
でも今回つなわたりの回数、時間が制限されているので、カフェの存在が浮いてくる可能性もあると思うんです。「カフェがやりたかった」という印象が残っては、ただのおしゃれアート集団になってしまう(笑)。それでは不毛ですね。

――見た人がどういう印象を持つかですよね。 (南川)
ギリギリのところまで悩んだのですが、厳しい判断が下されることは覚悟はしています。でも会期中一回は必ず実現します。それによってラインの緊張感も、場の空気も変わると思います。
(清澤)
綱のラインがあり、綱渡り師がいれば渡ることは可能です。でも私はwahは即興の表現集団だったとしても、ゲリラ集団ではないと思っています。ハード面や安全性の課題にひとつずつ正面から取り組んで、理想の形で実現できなかったとしても京都芸術センターとしてそれを失敗だとは思いません。プロセスも含めてwahの活動として捉えているし、こういったことも受け入れて一緒にやっていきたいという気持ちはあります。
(南川)
僕としては「参加型だから」とか「wahのファシリテートがいいから」とかそういうことは関係なくて、このアイデアが“おもしろい”ということが大切だと考えています。おもしろくなかったら参加型かどうかは関係ない。見る人からしたら「参加型だからセーフ」とか「カフェが良かったからいい」ということにはならないですね。だから、この場所を期待で埋め尽くすということだけは絶対にやりたいと思っています。
飾りで綱を展示するということだけは絶対にやりたくないですし、全てのラインを人が渡れるようにしようと思っています。パフォーマーが来ればいつでも渡れるという状態は常に作っておきたい。

制作風景 photo by OMOTE Nobutada

制作風景 photo by OMOTE Nobutada

――装飾としての綱がないという部分はかなり大事ですよね。もちろんサーカスの会場として京都芸術センターを使うのであれば全然おもしろくない。最初のアイデア用紙の通り、「つなわたりをしている」ことを軸に展開させること重要ですよね。 (南川)
センターを見た時の印象と、そこにつなわたりがあるという印象が同時に目に入って来ないとダメですよね。

――「何時にどこでつなわたりをする」といったスケジュールは、会期が始まっても公開しないのでしょうか。 (清澤)
告知をしてそのために人を集め、イベントやお祭りとして扱いたくない。集団の中で観客の一人としてつなわたりを見るのではなく、いつものセンターの状態で鑑賞者とつなわたりをしている人が一対一で向き合えることが、今回のアイデアの一番重要なところだと思っています。ただ若干矛盾するのですが、多くの人に見てほしいという思いもあります。告知の方法としては、例えば「1週間前にWEBサイトにアップする」といった情報公開は行っていく予定です。また、「ボランティア・スタッフの口コミ力で広める」「twitterで情報を流す」といったことも考えています。本当におもしろければ伝わっていくと思います。

――プロジェクトに参加した人にとっては、実現できた自体が一つの成功の基準になります。でも事情を知らない鑑賞者に、どこまで“おもしろい”が伝わるかは、「どのくらいの回数実現できるのか」「どういうタイミングでやるのか」ということにかかっていますよね。鑑賞者がこの展覧会を見て、おもしろいと思うかも判断基準の一つではないでしょうか。 (南川)
僕らがやりたいのは、アート作品を持って来ることではなく、そこにアートが生まれる瞬間を作ることなんです。だから同じアイデアを実行しないということは徹底しています。僕らにつなわたりの経験があって、ハード面も充実していて安全に実行できたとしても、それを作品にするということはしません。
だから会期中に常に作品を見られる状態でないことは仕方がないと思っています。会期中いつ来ても楽しめる環境を作りたいという気持ちはあるけれど、それよりもアートの生まれる瞬間が会期中にあることを優先したい。お客さんも一緒に、アイデアがアートになる瞬間に立ち会えればと思っています。展覧会なのに会期中ムラがあるのは許してくださいと言うしかない(笑)。

――そういった姿勢は一貫していますね。 (南川)
ただ、全日程つなわたりができないので、ボランティアの方たちの本気の“おもしろい”が、展示という条件をも乗り越えるということは証明できないと思います。西野達さんという作家が「日本は世界で一番許可が取れない国だ」とおっしゃっているのですが、それは言い換えれば一番おもしろいことに理解がない国ということじゃないですか。
今回のアイデアも、海外ならば最初のプランのままで実行できたかもしれない。そこも長い目で見て変えていかないといけませんし、実現のために苦しんでいる様子を映したドキュメント映像を、会期中どこかで出す予定です。「なぜできなかったのか」ということも伝えていきたいと思っています。
(取材・撮影:2011年3月3日 京都芸術センターにて http://www.kac.or.jp/

制作室にて photo by OMOTE Nobutada

制作室にて photo by OMOTE Nobutada

wah document÷てんとうむしプロジェクト
「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展
会期:
3月8日(火)-27日(日)10:00-20:00
会場:
ギャラリー北・南 館内各所 *会期中無休・入場無料
主催:
京都芸術センター
問合せ先:
京都芸術センター
〒604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
TEL:075-213-1000 FAX:075-213-1004

中本真生 Nakamoto Masaki
中本真生 Nakamoto Masaki

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。京都嵯峨芸術大学造形学科油画専攻修了。京都のデザイン会社、株式会社フィールドにプランナー/デザイナーとして所属。2009年同会社で「京都で活躍するアーティストと社会をつなぐ」ことをコンセプトとしたWEBサイト"&ART"を立ち上げ、企画・編集・広報などを担当している。また自身もアーティストとして"なかもと真生"名義で活動。廃棄物を使用した大型作品の発表を中心に、大原美術館(倉敷)での『AM倉敷Vol.6 なかもと真生 Structure of nothingness』や、家屋全体を利用した空間展示など、精力的に活動を展開している。

Photo by OMOTE Nobutada

&ART
http://www.andart.jp/

株式会社フィールド
http://www.fieldcorp.jp/

なかもと真生WEBサイト
http://www.nakamotomasaki.jp/


展示風景 画像提供(3月10日支給):京都芸術センター
校舎間グラウンド上

校舎間グラウンド上

校舎間グラウンド上

校舎間グラウンド上

校舎間グラウンド上

校舎間グラウンド上

ギャラリー南

ギャラリー北

ギャラリー北


「tightrope walking―てんとうむしのつなわたり」展
インタビュー南川憲二(wah document)×清澤暁子(京都芸術センター)

Category: Feature





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