27, Oct 2011

撮影:久田元太
shrine.jpは京都に本拠を置くエクスペリメンタル/エレクトロニカ・レーベルで、自身も電子音楽家として活躍する糸魚健一氏(PsysEx、Ken'ichi Itoi、DJ iToy)により1997年に設立された。
これまでにレーベル・オーナーである糸魚氏のソロ・プロジェクトPsysExの他、dagshenma名義でも活動するhiguchi eitaro氏、curtain of cardsとしても活動する大堀秀一氏の別名義armchair reflection、カナダ在住のノイズ・アーティストgrkzglなどのアルバムをリリース。すでに一定の評価を獲得しているアーティストから、まだ評価が確立されていないような若い才能まで、幅広くリリースする発信型のレーベルとして認知されている。
2006年までに合計20枚の音源をリリースしたが、higuchi eitaro氏の2枚組アルバム『E-D-/K+I+(SRCDR020/SRCDR021)』リリースを最後に活動休止状態となっていた。
このたび2011年10月7日のhiguchi eitaro『pimrico』リリースをきっかけに活動を再開。今後、2週間に1作品のハイペースでCDをリリースしていく予定だ。
新録としては京都在住のシンガーソングライターゆーきゃん、関西を代表するノイズ・アーティスト中嶋昭文氏のソロ・ユニットAube、ダムタイプのメンバーとして知られ、メディア・アート、パフォーミング・アーツなどに関わりながら京都のシーンを牽引してきた山中透氏など、京都を代表するアーティストたちのリリースが予定されている。
若手アーティストとしては、2011年の10月にリリースしたファースト・アルバム『northern birds』が話題となっている京都のミュージシャン/ギタリストpolar M、11月26日に京都のCLUB METROで開催される関西初のATAK Dance Hallに出演するなど、着実に評価を高めている京都の電子音楽家 原摩利彦、アート・プログラムへの参加やデザイン、出版物の制作などを行い、映像と音響のパフォーマンスにも定評があるグループintext(見増勇介、尾崎祐介、外山央)などもリリース予定。
幅広いジャンル、キャリアのアーティストがレーベル・アーティストとなっている。

原摩利彦 Live in "Bricolage" at mattatoio(イタリア、モデナ)

intext(左から外山央、見増勇介、尾崎祐介)
発売日:2011年11月4日
規格品番:UGCD-SR019
grkzgl/『déglutations』
アナログシンセ、テープループなどを用いて独自のIDMサウンドを構築するカナダ人アーティスト、アレクサンドル・スカルフォネ氏によるソロユニット、grkzgl(ジラクジグル)がCDR作品としてshrine.jpからリリースした同名アルバム(SRCDR019)の再発盤(スカルフォネ氏はリリース当時京都在住)。無機質なリズムにフィルター系、空間系エフェクトが効いたノイズや持続音が重ねられたサウンドは、70年代後半から80年代初期にかけてのThrobbing Gristleを想起させるような呪術性を放っている。クラッシックなIDMのアイデアだけでなく、現代的なエレクトロニカのアイデアが盛り込まれているところが興味深い。

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。京都嵯峨芸術大学造形学科油画専攻修了。京都のデザイン会社、株式会社フィールドにプランナー/デザイナーとして所属。2009年同会社で「京都で活躍するアーティストと社会をつなぐ」ことをコンセプトとしたWEBサイト"&ART"を立ち上げ、企画・編集・広報などを担当している。また自身もアーティストとして"なかもと真生"名義で活動。廃棄物を使用した大型作品の発表を中心に、大原美術館(倉敷)での『AM倉敷Vol.6 なかもと真生 Structure of nothingness』や、家屋全体を利用した空間展示など、精力的に活動を展開している。
Photo by OMOTE Nobutada
株式会社フィールド
http://www.fieldcorp.jp/
なかもと真生WEBサイト
http://www.nakamotomasaki.jp/
shrine.jpは糸魚氏が自身の作品をリリースするためにスタートしたという。レーベルがスタートした1997年は、パソコン用のCD-Rドライブが商品化された翌年であり、個人レベルでCDを制作できる時代が到来したばかり。そうした影響下で、インディペンデント・レーベルの在り方が変化を迎え、特にテクノやエレクトロニカ系アーティストの中で、「1アーティストが1レーベル持つ」という機運が高まっていた頃だった。そういった時流の中で、shrine.jpはCDRレーベルとして“CDRでオリジナル作品の制作/販売をしながらイベントをする”というスタイルで運営を始める。
shrine.jp主催のイベントは現在電子音楽イベントpodへと発展し、国際的なアーティストを招く場へと成長しているが、以前はダムタイプのピーター・ゴライトリーが運営していた京龍館というダンススタジオを中心に開催されていた。当時は電子音楽のアーティストだけでなく、生楽器を用いたアーティストやトータル・パフォーマンスのダンサーまで幅広く出演者しており、糸魚氏もピーターとたびたび競演していたという。
糸魚氏の電子音楽家としての本格的なキャリアも、shrine.jp活動開始時期とほとんど同時期に始まっている。現在までにPsysEx 名義で、細野晴臣氏が主宰するdaisyworld discsや、涼音堂茶舖などのレーベルから4枚のアルバムをリリースしており、「ソフトウェアシンセサイザーを設計するためのソフトウェア」を用いるという独自性の高いプロセスでサウンドを制作してきた。音楽家として一貫して大切にしていることは、「新しい発音方法、シンセシスの考え方」だという。
こうしたアーティスト活動における姿勢は「オリジナルなサウンド、制作思想を持った京都にまつわるアーティストを新鋭クリエイターからイノベイターまで紹介する」というレーベルのフィロソフィーにもダイレクトに反映されている。

PsysEx “raster-noton.metro 2011 feat. PLAY, JAPAN! Red Bull Music Academy patchware on demand 10th anniversary special/15th anniversary of raster-noton”
2011/10/7 CLUB METRO(京都) 撮影:久田元太

PsysEx “oval Japan 2010 -patchware on demand-”
2010/10/17 CLUB METRO(京都) 撮影:久田元太
発売日:2011 年11 月18 日
規格品番:UGCD-SR009
EcoLibra/『turing test』
京都在住という事以外は謎に包まれたアーティストEcoLibraが、CDR作品としてshrine.jpからリリースした同名アルバム(SRCDR018)の再発盤。アンビエント色が強く、Greg DavisやデンマークのManualに通じるような情緒、温かみを感じさせる。いわゆるエレクトロニカナイズされた電子音楽作品ではなく、ポストロック以降の「直感的編集」の精神を継承したような音響作品に仕上がっている。マルチトラック・レコーダーを用いたり、サウンド・コラージュ的な手法を展開するなどの、アナログなセンスから生み出される音は荒削りな魅力と繊細さを兼ね備える。収録楽曲の“次関数”では、数学の講義の音声を変調させた音源をベースに楽曲を組み立てるようなユニークな遊び心も取り入れている。
shrine.jpのアーティスト選出基準は「聴いたことのない音楽を聴きたい」という欲求を満たしてくれるアーティストであるということ。奏法・制作方法・考え方など、サウンドを形成するオリジナリティーが秀でていれば、ジャンルにこだわらずにリリースするというシンプルな基準で選出している。
レーベル・フィロソフィーは、shrine.jpがこれまでにリリースしたアルバムの内容にも顕著に現れている。例えばEcoLibra『turing test』は、情緒的で温かみを感じさせるような電子音楽アルバムとなっており、心地良く引きこんでくれるようなアンビエント要素も多い。しかし、一方でhiguchi eitaro『pimrico』では、糸魚氏やフランク・ブレットシュナイダーのように、グリッジやリズムの側面からエレクトロニカにアプローチするようなサウンドを展開している。
また、今後shrine.jpから新録アルバムをリリース予定のゆーきゃんと山中透氏は、通常であれば同じレーベルからリリースすることはないアーティストだ。
ゆーきゃんはこれまでにくるりが主宰するNOISE McCARTNEY RECORDSやwaikiki recordからアルバムをリリースし、近年ではあらかじめ決められた恋人たちへのリーダー池永正二氏とのコラボレーション・ユニット“シグナレス”でも活動してきたミュージシャン。一方で山中透氏は音楽監督としてダムタイプに初期から参加していた他、softpadとの共同制作、Monochrome Circus作品への参加など、様々なジャンルを横断してきたマルチ・アーティストだ。
この2人が同じレーベルからリリースするということ自体、shrine.jpの個性を表しているといえる。
こうした「特定のジャンルにとらわれずにいいものをリリースする」というshrine.jpの方針は、前ページで述べたような糸魚氏の思想と、京都の「幅広い芸術が発展してきており文化の懐が深い、なおかつ独自のネットワークもある」という環境が作り出したものではないだろうか。shrine.jpが京都で生まれたからこそ、こういったレーベルに育ったのかもしれない。
山中透
発売日:2011年12月2日
規格品番:UGCD-SR022
polar M/『the night comes down』
2011年の10月にリリースしたファースト・アルバム『northern birds』が、話題となっている京都のミュージシャン/ギタリストpolar M渾身のセカンド・アルバム。ギターを中心に奏でられる情感溢れるメロディーと、深いアンビエンス、卓越した編集センスで静かな夜に沈みこんでいくようなサウンドスケープを描き出している。これまでのアルバムに比べてアンビエントな要素が強く、全編を通してイメージが統一されたトータルアルバムとしての趣がある。タイトル曲の“the night comes down”はMille-Plateauxのコンピレーション・アルバム『clicks & cuts』にも参加したユニットrimaconaの柳本奈都子氏がヴォーカルで参加。これまでインストゥルメンタルのみだったpolar M初の歌ものとなっている。
また、「特定のジャンルにとらわれない」という姿勢を保つ裏側には、糸魚氏の柔軟性を持ったマスタリング・スタイルがあることも忘れてはならない。
糸魚氏はこれまでにエンジニアとしてimagined recordsのyabemilk氏、RUBYORLA氏、涼音堂茶舗のOTOGRAPH、京都のゲーム会社Q-Gamesのピクセルジャンク・シリーズのサウンドなど数々のマスタリングを手がけている。
shrine.jpのマスタリング・スタジオは、何百万円もする機材が並んでいるようなスタジオではない。しかし特にここ5年くらいでシミュレーターなどのプラグイン・ソフトウェアが優秀になっているということもあり、マスターをデジタルでアーティストからもらうことができれば、一度もアウトボードに通さずにハイクオリティーなマスタリングを実現することが可能になっている。
またshrine.jpでは、シミュレーターを用いてヴィンテージ機材の個性表現力を再現するような王道スタイルのマスタリングだけではなく、位相を計算してEQの特性を組み替えていくような、コンピューターでしか実現出来ない現代的な手法も積極的に取り入れているという。
特にエレクトロニカなどは繊細なサウンドが多く、クラブミュージックのように音圧を持ち上げライブ感を付加していくようなマスタリングの方向性をとらないことも少なくない。ミックスダウンが終わった時点で作品性に配慮しつつ、デジタル・マスタリングだからこその強みを生かすような柔軟なマスタリングを行えるからこそ、多様な個性のアーティストをリリースすることができるのだ。



shrine.jpスタジオ
発売日:2011 年12 月16 日
規格品番:UGCD-SR023
ichion/『Hi「拝」』
京都のオルタナティヴシーンを支えてきたカリスマ・インディーバンドtorico。2008 年に惜しくも活動を休止した同バンドのフロントマン荒石亮氏のソロプロジェクトichionが、過去にデモとしてリリースした貴重な音源を再編集/リマスターし、新たに楽曲を追加してshrine.jpからリリース。自作楽器を用いているということからもわかるように、一音に込めたこだわりが随所に散りばめられている。無音の中にユニークな音が響く印象。フェイドするフィードバックと、弦楽器からアタック音だけを取り除いたような伸びのある音が生み出す浮遊感。この2つのコントラストを軸に、全編を通してエンターテインメントに長けたカラフルな演奏が繰り広げられる。
前ページでも少し触れたが、shrine.jpのサウンド以外の特徴として、“スピード感”と“京都という地域性”については触れておかなければならないだろう。
まずスピード感について。
shrine.jpはこの秋にhiguchi eitaro『pimrico』をリリースするまではCD-Rレーベルだったが、それは録音、マスタリング、リリースまでの工程を最短にしたいという理由あったからだ(当時のSRCDRシリーズは通常のプラスティック・ケースに収められていて、デザイン工程も最短に抑えられていた)。再始動後は流通を考慮してCDに切り替えたが、過去作の再発と新録を織り交ぜながらのリリースとはいえ、2週間に1作品という通常のレーベル運営では考えられないようなハイペースでリリースしていく予定だ。
スピード感を重視する理由には、糸魚氏のアーティスト目線からの問題意識が関係している。糸魚氏はこれまでPsysEx名義で大手レーベルからアルバムをリリースする際に、1枚のアルバムをリリースするまでにかかる手間や労力を身に染みて感じたという。こうしたことから作り手(レーベル、アーティスト)側の鮮度を保った状態でリリースするためには、スピードが大事だということを実感したという。
知名度の高いアーティストだけでなく、まだ経験の浅いアーティストの音源もリリースするのは、糸魚氏自身がそのアーティストに出会ったときに感じた衝動を大切にしているからに他ならない。その衝動をそのままパッケージするためには、やはりスピードは重要な課題となってくる。

Polar M “night cruising” 2010/07/13 CAFE INDEPANDANTS(京都)
こういった指針はCDのジャケット・デザインにも反映されている。CDのアートワークには、基本的に京都在住のペインティングのアーティスト、有瀬龍介氏のイラストレーションが採用されているが(グラフィックも手がけるミュージシャンの場合は原則的に本人が手がける)、他のデザイン・フォーマットはすべて統一されている。もちろん統一フォーマットでありつつも飾りがないわけではない。封入されたジャケット・カードの角度と表裏を変えることで、リスナーがジャケットを選べる多面ジャケット仕様を取り入れるなどの遊び心もデザインに盛り込まれている。

芦田尚美・有瀬龍介 2人展 AMETSUCHI × ARUSE “しろ・くろ・いろ” 展示風景 2011 prinz(京都)
発売日:2012 年1月6 日(予定)
規格品番:UGCD-SR024
Tadashi Sasai/『the beginning of mud』
DJ tatai として、そしてDJユニットW-DRGN のメンバーとして活動する京都在住のアーティスト笹井直氏のファーストアルバム。エレクトリック・アップライト・ベースの弦そのものの、粗く太い質感を活かした奏法は、演奏に対するプリミティブな初期衝動を感じさせる。ほとんど奏法のバリエーションとシンプルなディレイ、ボリューム・コントロールだけで作品を成立させている。「楽器を用いて楽曲を作り出す」というよりは、むしろ“ベースを金属の振動を拡張する装置”と再定義したうえで演奏しているように聴こえる。
次に地域性について。
shrine.jpは基本的に京都に関連するアーティストの音源をリリースしている。糸魚氏は京都在住だが、京都にまつわるアーティストにこだわる理由は「近さ」を重視していることにあるという。もちろん全国に視野を広げれば、各地に数多くの素晴らしいアーティストがいる。しかし顔を見たことのない人をデモから発掘するようなプロセスでなく、まず会ってどのような人となりなのかを知ってから声をかけるということが、レーベルの方針。それによってビジネスの関係ではなく、アーティストに対する信頼関係を築いたうえで共同制作していけるのだ。
これは京都の「コンパクトな街の、小さなシーンの中に数多くの素晴らしいアーティストがいる」という特殊な場所性があって成立することかもしれない。そうでなければ長期的に考えると、コンスタントなリリースを保ちつつ運営していくこと自体が難しいだろう。
また糸魚氏が京都において関西で最も影響力のある電子音楽イベントpodを主宰しており、さらに5年間京都の老舗CLUB METROの店長を勤めるなど、京都在住の若き実験的なアーティストの窓口になってきたこともレーベルの個性と無関係ではない。
CLUB METROで定期的に開催されているpodは、これまでに渋谷慶一郎氏、Mika Vainio氏、oval、カールステン・ニコライ氏、池田亮司氏、FENNESZ、AOKI Takamasa氏などの国際的アーティストを数多く招聘しており、クリエイターが集まるイベントとしても有名だ。
渋谷慶一郎 “Patchware on demand ~Mika Vainio,Keiichiro Shibuya,NHK,Rashad Becker Japan tour 2010 in Kyoto” 2010/3/19 CLUB METRO(京都) 撮影:久田元太
Mika Vainio “Patchware on demand ~Mika Vainio,Keiichiro Shibuya,NHK,Rashad Becker Japan tour 2010 in Kyoto” 2010/3/19 CLUB METRO(京都) 撮影:久田元太
oval “oval Japan 2010 -patchware on demand-” 2010/10/17エレクトロニカ/エクスペリメンタル・ミュージックの分野で国際的なアーティストがコンスタントに京都を訪れる機会は、ほとんどpodしかない。若いクリエイターはpodで国際的なアーティストを見て刺激を受け世界基準を知る、また時には国際的なアーティストと共演できる機会もある。shrine.jp主催でイベントを行っていた時代は、特に若手アーティストの出演機会が多かった。
イベントをしながらであればアーティストを発掘できるネットワークを築けるし、アーティストに出演機会を与えて育てることができる。レーベルとイベントが組み合わせることで人が育ち、シーンが育つのだ。このpod/shrine.jp主催イベントと、レーベルshrine.jpの関係が、京都という地方都市に豊かな循環を生み出しているのではないだろうか。いい換えればいい循環を産み出せなければ、地域性のポテンシャルをポジティブに生かしたレーベル運営はできないということだ。こうした面においてshrine.jpは、京都にとって重要な使命を持った稀有なレーベルと言える。
(協力:shrine.jp http://www.shrine.jp/、cafe gallery etw http://www.etw.jp/)
京都発のエクスペリメンタル/エレクトロニカ・レーベル
shrine.jp再始動
Category: Feature